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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Immature Sorcerer
69/596

001

 桐葉は走っていた。


 鬱蒼とした森の中、何度も後ろを振り返りながら走り続けていた。


 まだ日が昇る前。

 数メートル先の視界も怪しい中を桐葉はひたすら走る。


「ッ、ふ……! はっ……!」


 桐葉の表情は真剣そのものだった。

 恐怖を露わにすることなく、周囲を何度も見まわす顔つきはしっかりとしたものだった。


(あるとしたら、そろそろ――)


 走りながら、桐葉はあるものを探していた。

 森の中に隠されている筈のあるものを探していた。


「っ、そこ……!」


 そして、桐葉は見つけた。

 木の陰に潜む黒い影を、桐葉の瞳は確かに捉えた。


 走る桐葉の右斜め前方。

 二〇メートル先に、赤い点を持つ黒い影を見つけた。


「――《凍結》!」


 そして、睨んだ先へ桐葉は右手をかざした。

 氷の魔法を発動させる一言と共に右手を向けた。


 岩のような氷が森の中に現れたのはその直後のことだった。

 黒い影を閉じ込めるように、巨大な氷が森の中に現れた。


 たった一言、一瞬で発動させた《凍結》の魔法は桐葉が予め指示されていた通りの規模だった。


 しかし桐葉はすぐには止まらなかった。

 速度は落ちることなく、黒い影を閉じ込めた氷の前を駆け抜けた。それでもすぐには止まらなかった。


 桐葉が氷に閉ざしたそれはある人物によって置かれた木の板だった。

 頭と胴だけの形状のそれに、赤いライトを取り付けた簡素なターゲットだった。


「っはぁ、はぁ、はぁ……!」


 そうして桐葉は、走る勢いそのままに木の陰へと姿を隠した。

 凍り付いた木の板を通り過ぎ、更に同等の距離を走った上で足を止めた。


(あと、は……)


 幹に背を預け、右へ、左へ視線を向ける。

 小刻みに呼吸を繰り返しながらも、決して足から力を抜くことはなかった。


「もう、少し――」

「気ぃ抜くなっつの」


 大きく息を吐き出したその瞬間。桐葉の頭上から響く声。


「だからこんなあっさり追いつかれるんだろうが――よっ」

っ!?」


 桐葉が見上げる間もなく、神堂の手刀が桐葉の頭を打った。


「ったく、少し魔法がまともに使えるようになったと思えばこれかよ」

「これとかあっさりとか言いますけどね、あれでも本気で走ってたんですよ? それを森の上から追い立てる方がどうかと思うんですけど?」

「だからその考え方が甘いっつってんだろうがタコ。あの化け鳥見てまだんなこと言ってんのか」

「うぐ……」


 桐葉に課せられたメニュー。

 それは森の中を移動しながら、指定のターゲットに魔法を命中させ、行動不能に匹敵するであろう状況に追い込む事。

 かつ、その間神堂に――本気ではなかったとはいえ――追いつかれてはならないというもの。


 それは近い将来、[創世白教]に遭遇した場合に備えてものだった。

 本来であれば誰かの手によって追い詰めるといった内容までは含まれていない。

 しかし、これまでの出来事が一層トレーニングのメニューを厳しくした。


 そして条件がもう一つ。一セットの中で同じ魔法を使うことは許されない。


 だからこそ桐葉は水流で押し潰し、突風で吹き飛ばし、爆炎で破壊しなければならなかった。

 それらを乗り越え、桐葉は次々目標を達成していった。


 魔法を撃つために足を止めることも許されていない。


「だから飛びながら撃てっつったろうが。それができなかったのは誰だ? あ?」

「えぇえぇ俺ですよ。出来の悪い教え子ですよ! すみませんね!? ひとまず動きながら撃つことに専念したんですよ!」


 その提案を桐葉も忘れていたわけではなかった。

 しかしすぐに理解した。今の自分ではそんな芸当などできる筈がない、と。


 それは神堂も承知の上だった。

 その上で、目標の一つとして提示したに過ぎなかった。


「知ってんだよそんなこと。だからそっちを早く極めろっつっんだ」

「じゃあもう一回やらせてもらえます?」

「時間考えろよバカ。学校放り出していいのか?」

「……」


 破壊されたターゲットの再設置等も含めれば、どうしても時間がかかる。

 何より同じ場所に設置しては意味がないものだった。


 準備を終え、もう一セットを終える頃には日が昇ってしまう。

 そこから山を出て、一度桐葉の家に戻るとなると時間的な問題は避けられなかった。


 桐葉も、そんなことを神堂に頼もうとは思えなかった。


「どうしたんだよ」

「いや、師匠の口からそんな言葉が聞ける日が来るなんて思わなかったから驚いたって言うか、ぶっちゃけ不気味ってもんじゃなぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!?」

「その生意気な口どうにかしろっつってんだろうがよ、ドアホ」


 まさに今されたように、お仕置きを受けるのが目に見えていたからだ。






「……そんなこと、してたの?」

「まあ、無理のない範囲で? 少しは魔法もマシになったし悪くはないかなって」


 それはそれとして疲れたけど。

 今日体育がない事に心の底から喜びを覚えるくらいには疲れてるけど。


 それでも家で朝食は余裕で食べられるようになってるんだから、人間の身体は恐ろしい。

 慣れで済むような問題でもないのに。これ。


 なんて、あの師匠のことだ。

 全部壊せるようになったらペースアップしてくるに決まってる。


 他にも妨害用の魔法攻撃の回数を増やすとか。まだ五回しか使われないし。

 どう考えたってイージーモード。ゼロが一つ二つ足りてない。そこまでされたらこっちが死ぬ。


(……あのトレーニングウェア、痛めなきゃいいけど)


 今はあくまで支給品を使わせてもらってるだけ。

 使い物にならなくするのはさすがに申し訳ない。


「あ、そうそう。美咲がイリアによろしくって。学校でスタンバってるってさ」

「だと、思った。さっき、メールもくれたから」

「……俺が伝言しないと思われた?」

「多分、桐葉と話したかった、だけ」

「わざわざ理由なんて用意しなくてもいいのに」


 それにそんな、イリアを利用するみたいな真似を美咲がする筈ない。

 学校から帰った後もよく連絡とってるみたいだし。……おかげで俺の行動もますます筒抜けだけど。


 イリアもなんであんなオープンになるんだよ。

 ストップをかけてもらおうと思ったらそこもまとめてバレたし。勘弁して。


「桐葉は、美咲と話すの、イヤ?」

「嫌なわけない。これっぽっちも。……だから余計心配かけるのが申し訳ないけど」

「じゃあ、あれとの特訓……止める、とか」

「ごめん、それだけはちょっと無理」

「…………むぅ」


 滅茶苦茶なのは間違いないけど、あのくらいじゃなきゃやってられない。

 これまで散々やられてきたから嫌でも分かる。


 むしろあれでもまだ全然足りてないくらい。主に俺のあれこれが。

 言い方はあれだけど、師匠の言ってることは間違ってない。


 さすがに師匠に追いつけるような白ローブがいるとは思えないし、思いたくない。

 でも化け犬のスピードタイプは相当だったし、化け鳥にも他のタイプがいたっておかしくない。というか、いるらしい。


「本当、心配かけてるのは分かってるんだけど、今はそれが一番なんだよ。……今は無理でも、いつかは誰にも負けないくらい強くなるから」

「……いい。そこまで、しなくて」

「まあ目標の一つって事で」


 そんなの俺だって達成できるとは思ってない。本物の完璧超人なんているわけない。

 でも、きっとそのくらいの気持ちがなきゃ駄目なんだと思う。


「……あんまり続けると、美咲に、言うよ?」

「いきなりジョーカーちらつかせるなって」


 こんな毎日を、壊させないためにも。



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