021
「んー、やっぱり最初のワンピが一番かなー? きっくんの反応もあの時が一番だったし」
「だから止めろって。そうやって人の心を読むなって。俺のプライバシーはどこにいったんだよ」
「きっくんの反応が分かりやすすぎるせいでしょ」
そんなこと言われたってどうしろと。
隠そうとしてもエスパー能力であっさり看破するくせに。
仕方ないじゃん。似合ってたんだから。美咲だって賛同してくれただろ。
今日だって篝さんがお古を貸してくれなきゃ制服で行くところだった。
そのイリアにあれだけに遭う服があったんだから印象に残るに決まってる。
別に他の服が悪いってわけじゃない。
「見てろよ。次から絶対バレないようにしてやるからな……」
「そんなこと言って、さっきからずっと隠そうとしてたでしょ。バレバレだからね?」
「…………知らない」
もうやだ。止めて。
悪かったから。どうしようもないくらいに俺が悪かったから。
それ以上俺の考えを読み取るのはやめて。どこにスキャナー隠してるんだよ。
「今の、桐葉の、くせ?」
「そうそう。きっくんってばすぐ顔に出るんだもん。ねー?」
「イリアに何吹き込んでるんだよ。なあ?」
「でも、桐葉、分かりやすい」
だからやめてってば。本当にやめて。
なんでイリアまでそんなにズバズバ言うんだよ。一体俺が何したって言うんだよ。
篝さんに会うまで時間がかかったのは申し訳ないけど、それでこれって……代償が重すぎる。
篝さんの言葉通りってか。こんなの素直に喜べるか。
「ほら、やっぱりね? だからいつも言ってるのに。そんな簡単に顔に出ると苦労するよ?」
「いや、そういないだから。そんな細かな変化に気付くのなんて美咲やイリアくらいだから。なあ、俺の秘密丸裸にしてそんなに楽しい?」
「そんなつもりじゃないのに。ねー、衣璃亜ちゃん」
「ね、ねー?」
いつの間に結託しやがったこの二人。
あの時か。篝さんと少し打ち合わせ的なあれをしたからか。辿り着くまでに迷……少し探索したからか。
あの時間に作戦会議でもしてたのかよ。てっきりほかの店を回ってると思ってたのに。
嫌じゃないけど、悪いことではないんだろうけど。なんか複雑。
少なくとも俺は勝てない。このコンビが相手なら、絶対勝てない。
「そ、それより服だよ。イリアの服。一着だけだと着回しとか大変じゃん? そうならないように、もうちょっとくらい増やした方がいいだろ」
「照れ、てる?」
「違います。恥ずかしいんです。穴があったら入りたいくらいに恥ずかしいんです。……くっそ、いつの間に小悪魔美咲に……」
「また知らないあだ名が増えてる……」
だって事実じゃん。
普段は真面目ちゃんで時々天使または閻魔。それなのにたまにとんでもないことを思いつくのが美咲。あと暴走した時。
なんなら俺よりとんでもないこと思いついたりするくらいだし。どこから引っ張ってきたんだか。
美咲が常識人で本当に良かった。良心が咎めてくれて本当によかった。
そうじゃなきゃ終わってる。とっくにいろいろ終わってる。誰かが。
「え、じゃあ変える? 中一のハロウィンで披露したあの格好にちなんだ名前に変える?」
「しなくていいから! ……フリじゃないからね!?」
「分かってる分かってる。それはそれとして使うから」
「違うに決まってるでしょ――っ!!」
だからってそんなに叫ばなくても。ライオンかよ。
そんなに恥ずかしがるならしなきゃよかったのに。
後々俺がネタにする事くらい分かってただろ。美咲なら。
忘れるわけがない。滅茶苦茶かわいかったし。
さすがに今年まで同じ格好したら引くけど。ドン引きだけど。
「はろ、うぃん……?」
「まあちょっとしたイベントだよ。チビッ子たちがモンスターの恰好をして……ああ、あったあった。この時の美咲みたいに――」
あっ、取られた。
一瞬の早業。
掴んでもまるで間に合わない。さすが忍者。
残念。見せようと思ったのに。
あの時の美咲の魔女コスプレ、イリアにも見てもらおうと思ったのに。
「何するんだよ美咲。あとちょっとでイリアに見せられたのに。美咲の魔女服」
「分かってたから止めたんだよ!? イリアちゃんに何見せる気!?」
「あの時はノリノリだったくせに」
俺が注意してもきょとんとしてたのに。
最初は近所のチビッ子だと思ってたよ。
まさか普段真面目な幼馴染がドア開いた瞬間に『トリックオアトリート!』決めるとは思いもしなかったよ。
「あの時はあの時! 今は今! とにかく流出禁止!」
「そんなアイドルみたいな。減るものじゃないんだし、別に――」
「返事は!?」
「ハイ」
やっべ。
さすがにちょっとやり過ぎた。
これ以上続けたら逆に危ない。俺が。何を持ち出してくるか分からない。
美咲に子供の頃のエピソードなんて持ち出されたらそれこそ終わりだ。
「そんなに、恥ずかしい?」
「みたい。今更過ぎるけど。魔女服で堂々と俺の家の前まで来たのに」
「隣だからいいの!!」
よかないだろ。
ご近所様に見られてもおかしくないだろ。塀を乗り越えたわけでもないのに。
本当に、どうして羞恥心を捨てるとああなるんだろう……
もう両手の指でも数えられないくらいの年数一緒にいるけど、未だに分からない。
「とにかく今は服が先! 見終わる頃にはフードコートも空いてるから!」
「……今度は、美咲? 恥ずかしい?」
「イリア待って。ちょっと待って。そろそろ俺にターゲットがロックされるからさすがに待って」
さあ見に行こう。即刻服を身に行こう。大至急見に行こう。
俺だって命は惜しい。
八つ当たりの美咲なんてそれこそ何をするか分からないのに。色んな意味で。
「……ガラガラ?」
「「イリア(ちゃん)?」」
「?」
誤魔化せると思ったか。押し通せるとでも思ったのか。そんなわけないだろ。
やっと服も買って落ち着けると思ったのに。聞かれなきゃいいってか。大問題だわ。
「さすがに私も分かってきたよ、その癖。だめだからね。可愛く首をかしげてもごまかせないからね?」
「……いじわる」
「「さすがに今のはイリア(ちゃん)が悪い」」
そういう時間に来たんだから当たり前だろ。
人混みの中にいたら『いじわる』ところじゃ済まないって分かってるからこうしたのに。
昼食以降、おやつ手前。
今日みたいな日はこのくらいの時間が大体空いてる。
今なら人に囲まれる心配もない。……監視役はちらほら座ってるけど。
「桐葉と美咲、息、ぴったり」
「まあ何だかんだずっと一緒だし。自然と似てくるもんだよ。うん」
「……全然似てない部分もあるけどね」
「さーてさっさと席取っておかないとなー」
またかよ。またなのかよ。
俺何かした? ちょっと機嫌悪くない?
今出したらご機嫌とりみたいになりそうで嫌だなぁ……
「じゃあ私買って来るよ。いつものでいい?」
「お願いしますよ美咲様。……あ、支払いはこの財布の中身で」
「ん、了解。あとで返せばいい?」
「いやいや、美咲の分もそこから。ジャンボパフェでもなんでもオーケー」
「お昼に食べるわけないよね?」
「たとえだよ、たとえ」
そのくらいの値段遣っても怒られないとは思うけど。実際。
「それにしても……衣璃亜ちゃんのご実家、資産家? 贅沢しなかったら一か月暮らせるよ。これ」
「さあ? 我々庶民と金銭感覚は違うみたいだったけど」
「なんでそこだけ大雑把なの」
だって言えないんだもの。
組織の事も、魔戦の事も。だったらもうそういう風に思ってもらうしかない。
「あ、衣璃亜ちゃんは? どこの店か決めるんだったら一緒に見て回る?」
「ぅうん、いい。桐葉と、同じ」
「ハンバーガー? いいけど……他にもあるよ? ジュースの味も――」
「桐葉と、同じ」
「そっくりそのまま!?」
ああ、そっか。イリアはまだそういうメニューはあまり食べないから。
組織食堂はいかにも食堂って感じだし。
「でもそれだと予定が……ちょっとだけ軽くしない? 今食べたら夕ご飯食べられなくなっちゃうかも」
「……でも……」
……なるほど。そういう。
「ごめん訂正。俺とイリアはそれぞれ単品で」
「ん? ……あ、そういうこと? きっくん、衣璃亜ちゃんお願いね?」
「勿論」
さすが。
「……?」
「大丈夫大丈夫。すぐに分かるから」
そして。
「……はむっ。あむっ、んむ……」
利用客にとっては馴染みのあるハンバーガー。
初めての味だったけど、イリアは思った以上に気に入ったみたいだった。




