020
「あ、やっと来た。どこ行ってたの、桐葉くん。心配したんだよ?」
「…………言いたくないです」
「ぅん?」
言えるか。言えるわけないだろ。
今更こんな場所で迷いかけたなんて。
「まぁそれはいいんだけどー……橘さんから伝言。今から二時間、お店から出ないようにだって」
「あはは、変なこと言いますね。出られるわけないじゃないですか。一店舗であれなんですから」
「橘さんもそういう状況まで把握してるわけじゃないからねぇ?」
そりゃそうだ。
でも、だからこそ分からない。
なんだってわざわざ篝さんを向かわせてまでそんな伝言をしたんだか。
他の監視役だって大勢いるのに。ケータイだってあるのに。
しかも[アライアンス]メンバー専用の特別使用。
見た目はごくごく普通のケータイ。
何がどう特別なのか全然分からないけど、橘さんはそう言ってた。
頑丈だとか、妨害されづらいとか、他にも色々。どこまでやる気だあの組織。
「それに、駄目だよー。そんなこと言ったら。それだけちゃんと見て回ってるってことなんだからー。桐葉くんの幼馴染なんだよねぇ?」
「この上なく頼りになる幼馴染様ですよ。……暴走すると手に負えないのが玉に瑕ですけど」
「ふぇ?」
「ごめんなさいなんでもないです」
今そんなことを言ったって仕方がない。
通じてないみたいだし、篝さんの中でさっきの美咲影分身はそういう扱いにならないんだと思う。多分。
凄かったけどな。店員さんも目を丸くしてたし。
美咲の方が余程魔法使ってる気がする。忍者じみてるけど。
「ちなみになんですけど、どうしてそんなことに? ヤバそうなら俺もすぐ戻りますよ?」
「そっちの心配はないみたい。……それとも桐葉くん、こんなところに私を置いていくつもりー? さっき来たばっかりなんだよぉ?」
「何から何までほんっとーにすみません!」
そこまでしたのかよ。
元の監視メンバーですらないのにおかしいと思ってたよ。
本当にどうしてそこまでさせたんだか。橘さんも。
前には『あの篝が?』みたいなこと言ってたくせに。さらっと厄介事押し付けてるだけじゃないだろうな。
自分は自分で、何か別のトラブルに対処しながら。
そうとしか考えられない。方法はヤバいけど。
「冗談だよ、冗談。私の方がお姉さんだから」
「なんかその台詞もすっかり聞き慣れましたね」
「だったらぁ……そろそろ弟になってみるー?」
「流れで戸籍を捻じ曲げようとしないでください」
いきなり何言ってるんだ。
やっぱり全然大丈夫じゃないだろこの人。目がおかしい。
ストレスで壊れかかってるじゃん。
あんなの『次の店行く?』くらいの軽いノリで言うことじゃない。
何か精神的なお薬を処方した方がいいって。
それかまとまった休みを取ってもらうとか。保護者付きで。
「それよりどう? イリアちゃんとは上手くやれてるの? いつもみたいになってたら……」
「いや、その、それが……」
言っていいのか。言っていいのか、あれを。
普段、篝さん達を相手にしている時の姿からは想像もできない態度だって。
また凹んだりしないか。篝さん。今の時点でもう大分ダメージ受けてそうなのに。
しかも今日の篝さんは特に危ない。
一言を間違えたら途端に膝から崩れ落ちてもおかしくない。
「んー? なぁに?」
「……どんな結果でも、本当にいいですか?」
「やだなぁ、桐葉くん。脅しのつもりぃ? そんな言い方ばっかりしてたらモテなくなるよぉ?」
「仲がよさそうって言われても変わりませんか? 本当に」
「……え゛」
(あっ……)
やらかした。完全にやらかした!
学校の状況は拠点で話してたけど、そこまで踏み込んだ話なんてしてない。
それでも落ち込みまくってた。物凄く。
そこにこんな話まで聞かされたら、さすがに……
「……そんなに仲良さそう?」
「え? まあ……俺が見た限りでは。美咲はいつものことですけど、イリアから積極的に接しようとするって珍しいじゃないですか」
「んー……だねぇ……」
……思ったよりも響いてない、ような?
どうしてだろう。いや、悪いことではないけど。
もっと残念そうな反応でもおかしくないのに。
(まさかぶっ壊れすぎて正常に見えるとかじゃない、よな……?)
分からない。篝さんのこんな雰囲気なんて見たことない。
何か小声で言ってるし。……早く誰かに電話した方がいいんじゃ……
「そっかー。そういうつもりだったんだねぇ……あの子、そんなことまで考えてたんだぁ……」
「篝さん? もしもし篝さん? どうしたんですか? ……俺のこと見えてます? 声、聞こえてます?」
「大丈夫だよー。今のでやっと腑に落ちたから」
「は、はぁ……?」
何が。どういう風に。
これっぽっちも分からない。
一人で勝手に納得されましても。俺に一体どうしろと。
「その顔、分かってなさそうだねー? そんな桐葉くんに言えるとしたらぁ……あの子がいつまでもあのままだと思わない方がいいって事くらい?」
「そりゃ記憶取り戻してもらわなきゃ困りますよ。その後でイリアがどんな態度になっても俺の考えは変わりません」
「……そこまで言えちゃうんだ」
もし深山みたいな暴言が次々口から出てくるようになったら驚くだろうけど、驚かないわけないけど……それもでやっぱり、イリアはイリアだし。
根っこの部分からまるで別人になるとは思えないし。
「でも篝さん、やっぱり優しいですね。橘さんとか絶対『口ではなんとでも言える』とか言いますよ。正論でしょうけど」
「まるで直接言われたみたいな反応だよぉ?」
「ないですよさすがに。今のはまだ」
「似たようなことはあるんだねー……」
でも、間違っちゃいない。
有言実行できなきゃ意味がない。
魔法の時とは話が違う。内容は似ていても重さが違う。
他にも言い方くらいあるけど、橘さんだし。
燃やされたガイドにも似たようなことが書いてあったし。
なんか最近妙に納得した。
……一部模写してあるって言ったらあの人どんな反応するんだろう。
「あ、そういえばう一つ。今日なにかあったりするぅ? 桐葉くんの友達を何人も見たんだけど、理由が分からないんだよねー」
「それなら俺も会いましたよ。仕方ないじゃないですか。他に大型店舗もないですし」
おかげでここに辿り着けたくらいだし。
クラスメイト万歳。おかげで本当に助かった。
「そうなんだけど、そうじゃなくてね? 数えただけでも一〇人はいたよ? ……そんなこと、いくらなんでも起こらない筈だよねぇ?」
「奇妙な偶然が重なった結果、とか。部活仲間と出掛けたとか」
「誰かがそう仕向けないとそんなことにはならないよー。しかも今日、この時間になんて。桐葉くんの学校の部活も休みになんてなってないんだからぁ」
「言われてみれば……」
妙だ。確かに妙だ。
俺達のクラスメイトの顔と名前を把握している組織も妙だ。
そんなことまでしてたのかよ。名簿とかどこで手に入れたんだよ。俺も渡してないのに。




