014
「それで、師匠? どうしてこんな真夜中に人のことを引っ張り出したのか、そろそろ説明してもらえませんか?」
イリアの学校生活もやっと軌道に乗り始めたっていうのに。
まさか本当に一日一人なんて思わないじゃん。
びっくりだよ。びっくり。まだ両手の指で数えられるんだけど。
さすがにそこまで待ってもらうのもなぁ……イリアもさほど気にしてないし。
って、そろそろ答えてくれよ。
「うるっせぇな。いいから黙ってついてこい。説明してる間に逃げたらどうすんだよ。バカ」
「師匠から逃げられるような化け物なんているんですね」
「テメェがいるからだろうがよ」
「誰がお荷物ですか」
「自覚あるじゃねぇか」
そりゃ誰だって師匠に比べたらいくらか劣るでしょうよ。
広い世界にはいるのかもしれないけど、想像つかない。したくもない。
「ったく、この大事な時期に学校で遊び呆けやがって。いい度胸じゃねぇか。え?」
「今の発言、僻んでるようにも聞こえるから気をつけた方がいいですよ?」
「ハッ、誰がテメェのことなんか」
でしょうね。
知ってたよ。知ってましたよ。
むしろ師匠がイリアみたいなこと言い出したらこの世の終わりだよ。
空から隕石が雨のように降ってくるだろうよ。
「いいから黙ってついてこい。これからのオマエにも関係あることなんだからよ」
「夜間の捜索を中学生にやらせなきゃいけないくらいに人手不足なんですか? あそこ」
「それなら増援呼んでるに決まってんだろタコ」
まあ噂には聞いてたけど。
白ローブは夜に動き回るから、余計なことをさせないように見て回る。らしい。
あんな目立つ格好でウロウロするなんておかしな話だよ。ほんとに
さすが、やることなすこと全部がおかしい連中は発想から違う。
「とにかくだ。二度とやらねぇからよく見とけ。いつまでも人に甘えんな」
「……やっぱり、そろそろ厳しいんですか?」
「そんなのガキが気にすることじゃねぇよ」
それ、答えを言ってるようなものだと思うんだけど。
でも、おかしな話じゃない。
師匠は強い。とんでもなく。理不尽なくらいに。
それは身を以て味わった。他でどれだけ頼りにされてるかなんて想像もつかない。
本来なら各地を飛び回る立場。
勿論、海外だってその対象。
一ヶ所に長く留まるなんてことは本来しない。
イリアのことがあるからって、本当にいろいろやってくれてるみたいだし。
本当は師匠が飛び回る必要なんて内情恭賀一番なんだろうけど……
「でも、本当にそんなあっさり見つかるものなんですか? この町だってものはないけど広さはそこそこ……」
「ハッ、忘れたのかよ。俺を誰だと思ってやがる」
「罵倒趣味のプロレsぁあああああ!!?」
「口の減らないガキがよく言うなァ? お?」
ギブ! ギブ!! ……キッツ。
油断も好きもあったもんじゃない。
うっかりやらしそうで今から心配だよ。俺は。
プログラムの参加者もよく耐えたましたね。ほんとに。
「そんな調子でこの先どうするんだよ。橘みたいに甘くねぇぞ。大抵の連中」
「その優しさを表に出すのはあまり上手くないみたいですけどね」
「察しが悪いんだよ。オマエは。否定はしねぇけど」
「だから勉強しようと思ったんですよ。あのガイドで」
なんて、もう燃えカスも残ってないや。
しばらくは目を光らせてるだろうし。
「ならバレるなっつの。俺まで余計な文句言われたじゃねぇか」
「作ったのは師匠なんですから正当な文句では?」
しかも俺、頼んでませんよね。
突然やってきて投げつけましたよね。師匠。
何事かと思ったんだぞこっちは。しかも内容がアレだし。
イリアは一瞬で興味を失ってたけど、篝さんは俺以上に驚いてたっけ。二重の意味で。
「でも、よそへの移動した後とかろくに考えてませんでしたよ。本当にやらなきゃいけないんですか。それ?」
「早けりゃ高校に上がる時にな」
「そういう話は先にしてもらえませんかね」
もう一年半あるかないかの話だろそれ。
進学先だってどうすりゃいいんだ。
伝手があるとか? ……普通にありそう。なんなら問答無用で入学させそう。とんでもないな。
てっきりもっと先の話だとばかり
「だから今言ってやったんだろうが」
「あーあー、そりゃどうもありがとうございます。感謝感激ですよ。ヘッ」
「いっそ身体をへの字に固定してやろうかテメェ」
「急に怖さの方向性変えないでくださいよ」
知らなかったよ。知りもしなかったよ。高校からなんて。
そんな制度あるのかよ。何のために。意味がわからん。
そりゃメンツが固定されないメリットもあるだろうけど、デメリットだってかなりあるだろ。
道が分からなくなったりとか。その都度覚えろってか。頭パンクするわ。
他にも連携とか。そんな頻繁に組み替えられたらたまったもんじゃない。どうしろと。
まさかスタンドプレーでやれってか。師匠くらいだろ。それでもなんとかなるのって。
「大体ちんたらやってるオマエの問題でもあるだろうが。あんな魔法とっとと覚えろよ」
「あんな魔法って。そんな簡単に覚えられたら苦労しませんよ」
「甘えんなっつってんだろ。連中が待ってくれると思ってんのか」
「分かってます。これでも一応、氷はなんとか実用レベルに近付けてるんですから」
「近付けるじゃねぇだろ。しかも一つかよ。完成させとけよ全部。何日あったと思ってんだ」
無茶言うな。
この前の炎の魔法も再現しろとか言ってただろ。できてないけど。
しかも師匠、再現できたらそのあとは使うなとか言い出すし。
どういうつもりなんだか。危ないにしたってもっとこう、ありそうなものだけど。
それにしてもどうやったんだっけなぁ、あれ……
燃えろって言いまくってたような気がするんだけど。
何よりどのくらい強いのかも分からない。
あの黒犬なんて当たれば《火炎》でも倒せそうだし。
「そんな難しいこと言ってねぇだろ。電気ショックと吹き飛ばしと土の壁じゃねぇかほらやれ。今」
「こんな場所で?」
「やれ」
そんな言い方あるか。奴隷か何かか俺は。ったく。
土魔法って周りの土を活用できるのも利点なんだろ。
こんなコンクリートの上じゃその利点活かせないじゃん。
とりあえず……電気ショック?
こんな時間なら誰も通らないだろうし、足音も聞こえないし。
「痺れろ、痺れろ、痺れろ……《電撃》、ぃ痛ぅ!?」
痛っ!? 指痛ぁっ!?
なんでだよ。暴発もさせてないだろ。まっすぐ飛んでただろ。
いつもはこんなことになんてならないのに。どうして今日、だけ……
「……は?」
またなんかいるんだけど。公園の入口あたりに。魔法が飛んでいったあたりに。
思い出すのも嫌なあの赤い目が光ってるんだけど。
やめてよ。やめてくれよ。またかよ。
この短期間で何匹目だよ。いい加減にしろよ。
(今のはまあ、倒れてくれたから良かったけど……)
一歩間違えば殴り合いコースだろあれ。……危なっ。
「遅いがまぁ……ギリギリ及第点やってもいいか。ボサっとすんなよ天条。次がくるかもしれねぇだろ?」
「そんな余裕な表情を見せられたら緊張感も何もないんですけど」
しかもニヤニヤ笑いやがって。
耳を澄ましても何も聞こえない。
師匠はそう言う情報も頼りになるって言ってたし……うん、やっぱりいない。
「やっぱり、何もいませんよ? 近くって言ったって、この距離から見えないんじゃいるわけ……」
「そりゃそうだろ。オマエと話してる間に他の信徒連中は軒並み眠らせてやったからな」
……正気かこいつ。




