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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Catch Sight
584/596

001

 日の光が届かない地下の空間。

 ファイルが詰まった金属棚は見上げるほど高く、見た目以上に狭い印象を与えていた。


「えぇっと、15番の……」


 すれ違う隙間もない通路。

 自作のリストと照らし合わせながら、三凪はひとつひとつ指指し確かめる。


 指先に触れた堅い感触に三凪は渋顔をした。

 前回確かめた時と明らかに様子が異なっていたのだ。


 所々でファイルの番号が前後している。

 奥まで仕舞われていないものもあった。


 仕舞われているのは20年以上前の記録だった。

 余程のことがなければ持ち出されることなどない。

 そんな事態に陥ったという話も聞いていない。


「また……?」


 何度目かも分からない雑な収納に首を傾げる。


 この数日だけで、何度目だろうか。

 前はこんなことなど滅多になかったのに。


 入り浸る筆頭とも言える桐葉が意外にマメだったこともあり、資料室の内部は整然とした状態を保っていた。

 整頓を手伝いを買って出てくれたことも一度や二度ではない。


 幼馴染に言われたのが染みついちゃってと、苦笑していたのを覚えている。


 だからこそ分からなかった。

 桐葉に負けず劣らずの頻度で出入りする者に心当たりがない。


「誰が、どうして、こんなこと……っ」


 おまけに、取り出すだけでもひと苦労だった。


 番号を気にしないばかりか、力任せに押し込んだらしい。

 抑えて引っ張り出す間、三凪は棚が倒れるリスクと格闘し続ける羽目になった。


 念のために流し読みしようとして、さすがの三凪も顔をしかめた。


 めくろうとする度に引っかかる。

 リングを通しきらないまま綴じられたページのせいだ。


 そもそも取り外す必然性を感じない。

 取り外すにしても、雑に戻さないでほしい。


 後で出入記録を確かめるべきか。

 いや、でも、そんな犯人探しみたいなことは………


 踏ん切りがつかない中、誤魔化すように手を進める。


 不幸中の幸いと言うべきか大きく痛んだ個所は見当たらない。

 ほぼ1からやり直しとなったために、相応の労力を要したが。


「これで、大丈夫……っ」


 ファイルを押し込んで三凪は大きく息を吐く。


「365番以降、内容の再確認をお願いします……と」


 他の誰かの手を煩わせてしまうことが何より申し訳なかった。

 しかしそうするほかない。


 抜け落ちの確認はしたが、もしもということがある。

 何より全てを確かめるには時間も手も足りてない。


 必要になってからでは遅い。

 苦労した時の記憶を思い出し、三凪はペンを走らせる。


 内容の乱れが1冊だけであることを願いつつ、三凪は確認作業を再開した。


「――しもーし?」


 目に見える異常は見当たらない。

 というより、まだ手を付けた痕跡がない。


「聞こえてますか? おーい?」


 違和感を覚えつつも、通路を挟んだ隣の列に映ろうとして。


「はう……っ!?」


 柔らかな感触に弾かれた。


「え? え……?」


 何事かと周囲を見回し、すぐに見つけた。


「……大丈夫です?」


 前かがみになって覗き込むヘレンと目があった。


 曇りのない瞳が三凪の瞳を映し出す。

 吊るされた蛍光灯を背にした彼女は、妙に神聖な雰囲気を纏っているようにも思えた。


「こんなにびっくりさせちゃうなんて思わなくて。……立てます?」

「は、はい……」


 華奢な腕でヘレンは軽々と三凪を引っ張り上げた。

 今にも折れてしまうそうな細腕からは想像もつかない腕力。


 小さな驚きを誤魔化そうと、三凪は話題を変えた。


「えっと、ヘレンさんは、どうしてここに? もう、夜も遅いですけど……」


 なんのために戻って来たのかという言葉を三凪はぐっと呑み込む。


「お見送りも終わったんで、ちょこっと見るもの見ておこうかなーって」

「み、見るものですか……?」


 ヘレンの答えにまたしても三凪の頭に疑問が湧いた。


 ヘレンにはより重要度の高い資料室への出入りが許されている筈。

 こちらの資料室にあるものなど、必要に応じてすぐに取り寄せられる筈だ。


 まして今日は、桐葉を引きずって連れ帰る衣璃亜に合わせて一度ここを出ている。

 ここまでする理由にまるで見当がつかなかった。


「別になんともないですよー? ただ、あっちは色々と堅苦しくって」

「そ、そういうものなんですか」

「そうなんですよぅ。なんとかなりません?」

「さすがにちょっと、難しいです……」


 お構いなしにぶっちゃけてしまうヘレンに三凪も困った。

 それでいいのだろうかと思わずにはいられない。


 イリアの護衛も兼ねてやって来た新入りとの距離感を三凪は少し計りかねていた。

 先日、ちょっとした催しを開きはしたが、アレを主催したのは衣璃亜と桐葉だ。


 1対1で話す機会などいつ振りだろうか。

 コンビニへ呼び出して以来かもしれない。


 教室で隣の席ではあるが、休み時間にはなんとなく桐葉達のところへ集まってしまうのである。


「あっちにしかないものも、それなりに、あると思いますけど……」

「まあそれはそうなんですけど。ひょっとして、お邪魔でした?」

「そ、そういうわけではなくて」


 素で言うヘレンに慌てて否定する。

 話相手の存在は三凪にとってもありがたかった。


「なんか、作業中っぽいですけど」

「私が、進んでやってることですから。たまに、天条くんにも手伝ってもらったりして……」

「だから今日は1人になっちゃったんですねー」


 見回したヘレンがため息をついた。


 夏休みに突入したからか、桐葉は妙にやる気をみなぎらせていた。

 衣璃亜に首根っこを掴まれた彼の姿でも思い出しているのだろう。


「まぁこのまま知らんぷりするのもアレなんで、手伝いますね? ちょこっとこっちのものは見せてもらいますけど」

「あ、どうぞ。後で報告だけはしてくださいね」

「わかってますよー……っと」


 言いながら、ヘレンがファイルに手を伸ばす。


 けたたましいサイレンが鳴ったのはその時だった。


 伸びた手が止まり、三凪の手からペンが落ちる。


 各員の招集をかけるアナウンス。

 それは黒い獣の出現を知らせる合図。


 タイミングの悪いことに、巡回が一区切りついたばかり。

 仮眠中のメンバーを叩き起こすのも忍びない。


 手早く片付け、三凪は姉が待つミーティングルームへと急いだ。



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