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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Uneasy Transfer
58/596

013

 そうして迎えた昼休み。


「……もう、いい」


 イリアは早速白旗を上げた。


 校舎の裏側。

 幸いうちはこんなところを溜まり場にするような不良もいない。


 かといって、他の生徒も通らない。通る必要がない。

 目の前の自転車小屋以外本当に何もない。


 誰もいないだろうと思って逃げてきたけど、まさかここまで殺風景だなんて。

 こんな中途半端な生え方じゃ緑を眺めることもできやしない。


「誰が誰か、分からない。疲れた」

「どこから? 給食の前なら最初に来たのがバレー部の森さんで、次が美術部の藤田さん。その後は図書委員の――」

「言わなくて、いい。むり」


 さいですか。なんて言うとでも思ったか。


「そこをなんとか。一人ずつ。一人ずつでいいからなんとか覚えよう? な?」

「じゃあ今日、終わり。美咲のこと、覚えた」

「いやいや、美咲は昨日のカウントだろ」

「ぅうん、今日。昨日、話してない」


 自覚はあるのか。そりゃそうか。


 でも覚えてただろ。昨日、絶対覚えてただろ。

 でも、そんなルール展開されたら俺だって強く言えない。


「じゃあ……美咲のことは今日覚えたってことにするとして、本当に一日に一人覚えられる?」

「余裕」

「その自信は一体どこから湧くんだよ。明日もきっと同じノリで集まってくると思うけど」

「……だったら、いい」


 早い早い。諦めるのが早い。


 このタイミングを逃したら後は苦労するだけなのに。

 イリアってばまるで気にしてない雰囲気だし。


「な、イリア。イリアが夢に見た学校生活ってこんな寂しい感じの じゃないだろ? もうちょっとだけ、話す相手も増やしてみない?」

「寂しくなんて、ない」

「……こんな人通りも何もないような場所に引きこもってるのに?」


 ほんとに誰も通らないな。

 校庭でスポーツ! って雰囲気でもないし。揃いも揃って大人しいな、おい。


 図書館にしなくてよかった。

 あそこも静かだろうけど囲まれる。絶対に囲まれる。

 イリアも読書は嫌いじゃないみたいだけど、そんな雰囲気の中で落ち着いて読めるわけがない。


 イリアがやってたゲームだってこんな場所に隠れるように座ってなかっただろ。

 言うほど楽しい学園生活か? これ。


「桐葉と、一緒。だから、寂しくない」

「……なんて?」

「もう、言った」

「いやいや、別に聞こえたなかったわけじゃなくて」


 マジか。本気か。本気で言ってるのか。


 でもイリアが嘘なんてつくわけないし……ほんとに本気?


「嬉しいけどさ、そう言ってもらえるのは嬉しいんだけどさ、やっぱりそれじゃ駄目だと思うんだよ。友達がいるから分かることだってあるんだしさ」

「ぅ……」


 多分。一応。それなりに。

 役に立つかどうかなんて気にするようなものじゃないし。


 イリアにとっても悪いようにはならないと思うんだよな。やっぱり。

 打算的に付き合うのもどうかと思うけど。


「師匠と橘さんみたいな関係ばっかりじゃないんだって。ほんと。あのゲームにもあったじゃん? 百人なんて俺もいないけど、もう少し――」


 ――prrr!


(またかよ)


 どうなってるんだよ。どういうつもりだよ。

 またマナーモードに変え忘れてたし。危ない危ない。


「なんですかお義兄さん。今取り込み中ですよ」

『誰がだ。貴様の兄にになった覚えなどない』

「知ってますよ。で、なんですか? 今ちょっと真面目な話をしてるところだったんですけど」

『すぐに済む。ちょっとした確認だ』


 確認しなきゃいけないこと?

 山のようにあるか、全くないかのどっちかだろ。


 すぐに済むことって言ったら……


『あの少女の様子はどうだ。馴染めているのか』

「それなら迎えの車で聞いてくださいよ。何もこんな時間じゃなくても」

『いや、今日は他に予定がある。他の者に任せておいたから心配する必要はない。篝がいれば問題はないだろう』

「あんまりこき使うのもどうかと思いますよ」


 まだ夏休みなんだから。他にやりたいことだってあるかもしれないのに。

 文句の一つも言わずによく付き合ってくれるよ。あの人も。


「で、様子でしたっけ? 美咲とはなんとか良好な関係を築いてもらえそうです」

『他は』

「時間が足りませんね。今の今までぐったりしてたくらいなので」

『把握した。それで校舎裏に逃げたのか。人通りのなさは相変わらずらしいな』


 まったくだよ。……って。


「言いましたっけ? そんなことまで。よく分かりましたね。いつものカメラもないのに」

『貴様がすぐ電話に出たということは周囲に他の者がいないということだ。場所を絞るなど容易い』

「わぁすごい。探偵業でも始めたらどうですか? よっ、名探偵!」

『ならば貴様の知られたくない情報を集めてやる。覚悟しておけ』

「プライバシーの侵害ですよ」


 それにしても珍しい。わざわざ合わせてくれるなんて。

 いつもみたいに一蹴すると思ってた。


 まあ、そのまま電話を切るくらいだから忙しいのは本当なんだろうな。

 それか、気を使ってくれただけとか。どっちもか。


「……また?」

「イリアの心配してたんだよ。あの人も。言い方はまあ、アレだけど」


 あれだけ話せば嫌でも慣れる。

 なんていうか、初めてあったときにあんなこと言ったのも口下手だったせいなんだろうなって。


 もらった一発はいつか倍にして返してやるつもりだけど。


 眠らせる魔法くらいあったろ。

 早く教えてくれないかな。あれば俺だって使いたいし。


「ケータイは使用禁止じゃなかったっけ? 天条」


 今とか。


「っ……」

「ほらー、深山が威圧感振りまきながらながら歩いてきたからイリアもビビってるじゃん。もうちょっとこう、優しげな表情でなんとかならない?」

「私の笑顔は高くつくけど?」

「だからそういう発言だって」


 金払えってか。一部に需要はありそうだけど。

 やっぱりバッチリ広まってるんだろなぁ。こういう発言。俺が言わなくても。


「教室にいないと思ったらこんなところでかくれんぼ? 美咲のことも置き去りにして」

「言い方。いや言い方。それだと俺が極悪人みたいなんだけど。美咲にはちゃんと断ったし」

「イチャコラしてなかったらもうちょっとは説得力もあったのにね」

「どこがだよ。脳みそピンクかよ」


 並んでおとなしく座ってるだけなのに。しかも直前まで電話してたのに。

 これのどこがイチャコラする空気なんだよ。大真面目に考えてる最中だっての。


「残念。私そんなにピンク好きじゃないから」

「なんだってさ。イリアは?」

「……分かんない」

「ちょっと?」


 察してくれよ。まったく。

 っていうか、そういうつもりじゃなかったのかよ。


 深山がピンク好きじゃない話なんてとっくに知ってるっての。


「そうカッカするなって、深山。自己紹介だよ自己紹介。昨日はできなかったし、いいチャンスだろ」

「もう、やった」

「まあまあ、イリアもそう言わずに。昨日みたいに帰ってから覚えるとかさ、色々あるじゃん? イリアからも一回だけ。な?」

「……そこまで、言うなら」


 そうだよ。何も一対一にこだわる必要なんてない。

 美咲と話してたら深山と顔を合わせる機会も増えるだろうし、今は俺が間に入ればいい。






「桐葉くんも考えたねぇ。いい子いい子ー」

「……そういう歳じゃないんですけど。さすがに」


 車の中じゃ逃げようもない。

 ごめんなさい。運転してもらってるのに。


「私から見たらまだまだ子供だよー。ほらほら、遠慮なんてしなくていいからぁ」

「イリアが起きたらまた睨まれますよ?」

「この様子だと戻っても起きないんじゃなぁい?」


 分かってるよ。そのくらい分かってますよ。

 俺が言いたいのはそういうことじゃないんですよ。


「それで、どうだった? そのことは仲良くやれそう?」

「まだちょっと時間がかかるかなって感じです。根は悪いやつじゃないんですけどね」

「なら大丈夫。きっと伝わるよー」


 だといいんだけど。お互い。


 深山もすぐ美咲のこと持ち出すからなぁ。その辺がどうなるかちょっと分からない。


「ん、ぅ……!」

「ぉ……!?」


 起きた? ……わけじゃないか。

 いきなり引っ張ってきたからてっきりそうだとばかり。


「あちゃぁ、怒らせちゃったねぇ。じゃあ今日はこのくらいにしておこっかー」

「まだやる気ですか」

「そこまで言ってないよぉ? もしかしてー……してほしかった?」

「違いますね」


 ……そういえば、篝さんも他のメンバーと一緒にいるところはあまり見ない、ような。

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