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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Angelic Newcomer
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040

「どうしちゃったんです? わざわざ、あんなところまで出向いたりして」


 迎えに来てくれた先生の車を降りるや否や、ヘレンが言った。


 振り返ろうともしないイリアの後に続く。

 足早に進むイリアの3歩後ろの位置を保ち続けて。


「必要なことだったからですよ。どうしてと言われても、他に何もありません」


 突き放すようなイリアの言い回しにもめげることなく。


「もうちょっと分かりやすく言えばいいのに」

「今ので充分でしょう」


 イリアの横に並ぶと、涼しげな顔で返される。


 本人に伝わっているなら、それでもいいんだけど。


「準備の方は?」

「滞りなく。時間に余裕はありましたから」


 ……とんでもない藪蛇だった。


「いや、まあ、それについては、言うにやまれぬ事情が……」

「だとしてもですよ。あんなに長引かせることはないでしょう」

「返す言葉もないや」


 手痛い反撃に堪らず白旗を挙げる。


 そりゃそうだ。おっしゃることごもっとも。

 反論のしようがないし、するつもりもない。

 移動に時間をかけたのは本当のことだ。


 こちらとしては既に全面降伏。

 だけど、イリア的にはまだまだ言い足りなかったみたいで。


「だから言ったでしょう。一筋縄ではいかないと。終わりよければと言っても、限度があります」

「身をもって味わってきたところだよ。本当、手強かった」

「これのやり方に律義に付き合うからですよ」


 不満ついでにようやくヘレンの方を振り返った。


 ヘレンはそれでもただ後ろをついて行くだけだった。

 ふてぶてしくなることも、縮こまることもない。


「律儀になんて言われても。それがいいと思ったんだよ。他にアイデアもなかったし」

「私の案を却下したからでしょう」

「あんなの実行できるかっての。2人も渋い顔してたじゃん」

「記憶にありませんね」

「おいこら」


 ふん縛ってやろうなんて言われて頷けるわけがない。

 しかも校舎に罠を仕掛けるつもりだったみたいだし。


 ヘレンとの話を済ませて戻ってきたと思ったらコレだ。

 向こうで何かあったのかと随分はらはらさせられた。


「私がいいと言っているんです。何か問題でも?」

「問題だらけだよ。どこに大丈夫な要素があるのか訊きたいくらいだよ」

「いま言ったでしょう」

「あんな理屈が通ってたまるか」


 駄目なものは駄目。

 どれだけ堂々と振舞おうが、首を縦に振るつもりはない。


 お口が過ぎる。

 やっぱり美咲に協力してもらって反省会を――


「……やっぱり、同意、してないみたいんですけど」


 おずおずと、ヘレンが口を開いた。


「同意というのは?」

「いや、この人さっき、マスターからオッケーもらったって」


 よりにも寄って、今か。今なのか。


「ああ、そのことですか」


 どうしてこんな、最悪のタイミングに。


「了承しましたよ。私が提案したことですから」


 ヘレンにとって最悪のタイミングに口を挟んでしまったのか。


「…………えっと」


 ヘレンの表情に焦りが浮かんだ。


 はっきり言って、隙だらけ。

 隙を作るためにこっちは散々苦労したっていうのに。イリアが一目見ただけでこうも呆気なく崩れるなんて。


「そろそろ痺れを切らす頃だろうと思っていましたから、逆手に取ったんですよ」


 ――なんて、イリアのそれも一時的なもの。


「本気でやるつもりなんてなかったくせに」

「……なんのことでしょうね」


 やっぱり。


 拗ねたようなイリアを見てつい口元が緩んだ。


 口ではあんなことを言っていたけれど。

 強硬手段に出るつもりなんて、本当はなかったんだと思う。


 もしイリアにその気があればもっと早くにそうしていた筈。

 ヘレンを止めた時のように。


 特別な力がなくてもそのくらいは分かる。

 イリアは、秘密にしておきたかったみたいだけど。


「ともかく、手紙の差出人は分かっていました。まさかあんな古典的な手口とは思いませんでしたが、止める理由もありませんでしたから」


 誤魔化すつもりか、イリアがまくしたてる。


「でもでも、あの時、首傾げてませんでした? 誰の手紙だろうって。他の2人と一緒に」

「言ったでしょう。あえて乗っただけですよ。2人には私が伝えました。……その時には、気付いていたようですが」


 疑問をさらりと流して、イリアは奥に視線を向けた。


「まあ、なんとなくっつーか? そうなんじゃねーかなって」

「急に消えたので、もしかしたらと……」


 苦笑いを浮かべる小城と東雲さんがいる方へ。


 最終確認も終わったらしい。

 ぽかんとしている内に、5人で今日の主役を囲んだ。


「天条も言ってくれよなー。焦ったんだぜ? いきなりあんなコト言い出すからよ」

「だからメールしたじゃん?」

「授業中に電源切っとけっつったの誰だよ」

「もう放課後だったし」

「ひっでぇ言い訳だなオイ」


 軽口を叩きながら、イリアのあとをついて行く。


「校則だと、確か、禁止されていた気が……」

「まあまあ、そこも言うにやまれぬ事情があったということで」


 先生も特に咎めない。


「た、確かに……?」

「オイ落ち着け。騙されてんぞ」


 小城のやつは随分と失礼なことを言ってくれがったけど。


「どうしてそんなことを言われなくちゃならないんだよ」

「オメーがそういうコト言うからじゃねーかよ」

「失礼な。いつどこで俺がそんなことを」

「いつでもどこでもやってんだろー?」


 怒ってるフリをすると、小城も呆れたフリで返す。


「オメー、あの時も勘とかなんとか言ってたよな。何が勘だよ。ただネタが分かってだけじゃねーかよ」


 イリアも、まだ止めない。


「でも、ほっとしました。本物のラブレターを見せびらかしたわけじゃなくて」

「いや、今回のもよくはねーだろ?」

「い、一応、被害者は出ていないので……」

「……なるほど?」


 いつも通りのやりとり。


「さっきあんなことを言ったやつがこうもあっさりと納得していいのかよ」

「オメーと東雲とじゃワケが違うだろ」

「…………やばい。俺も納得させられそう」

「ヤバいってどういう意味だコラ」


 ある意味、飾らない姿。


「ここはなんとしても反論しないといけない気がして」

「そ、そんなところにこだわらなくても……」


 俺や小城が言い出したことに東雲さんがやんわりとブレーキをかけようとしてくれて。


「無理をしなくてもいいんですよ。桐葉」

「別に無理はしてないって」


 締めらしい締めもなく、次の話題に移る。


「これ以上は耐えられそうにありませんね。あなた方の言う主役も」


 普段と違うことが、今日はひとつ。


「言い出したのはイリアだったような」

「主役とは言っていません」

「いやでも」

「言っていません」


 言い出しっぺはこの調子だけど。


「似たようなことは言っていた気が……」

「こんなトコで意地を張らなくたっていいだろ」


 止めようとはしない。


「余計なお世話です」

「逆ギレしない」


 ちょっとした照れ隠しのようなものなんだと思う。



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