表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Angelic Newcomer
572/596

034

 信じられないとでも言わんばかりの表情をヘレンに向けられた。


「自分が置かれてる状況、分かってます? そんなくっだらないプライドにこだわってる場面じゃないと思うんですけど。撤回するなら今の内ですよ?」


 あまりに辛辣な物言いに頬がひくつく。


 ここまで言ってくるとは思わなかった。

 ただの意地だと言われるのは仕方がないけど、お喋りが過ぎる。


 おかげで使おうという気がいよいよ失せた。

 最後に残っていたひと欠片が完全に消えた。


「そっちこそ。追い詰めようとした顔と思えばアドバイスしてみたり。随分とサービスしてくれるじゃん」

「真面目に聞きましょうね? 人の話」


 言い返すと、明らかにヘレンの声のトーンが下がった。

 おまけにふんと小さく鼻を鳴らして。


 ヘレンはヘレンで、苛立ちを隠すのを止めたらしい。


「聞いてるっての。聞いた上で、使わないって言ってるんだよ」


 それを承知できっぱりと告げた。


 爺さんがいざという時のために預けておくと言った力。

 自らの能力を飛躍的に高める力を使うつもりは微塵もない。


 奇妙な高揚感も味わえるあの力がどういうものか。

 ビルに潜伏していた触手を氷漬けにした時、その恐ろしさを身を以て知った。

 どれだけ強力であるかも。


 ヘレンとの差を埋めるのに、あれ以上手っ取り早く確実な方法はない。

 それは俺もよく知っている。

 あの爺さんに近い立場にあるヘレンならもっと詳しく知っているかもしれない。


「真面目に聞けって、今、言ったばっかりなんですけどね?」


 ヘレンの目つきが鋭さを増した。


 他の選択肢を一切認めないつもりか。

 物騒にも剣を肩叩き代わりにして急かしてくる。


 その場を一歩も動いていないのにヘレンが大きくなっているような。そんな気さえした。


「大真面目だよ。これでも」


 負けじと肩を張って言い返す。


 まさか俺がヘレンのことを侮っているとでも思っているのか。


 そんなわけがない。

 あんな出鱈目な力を見せつけられたんだ。

 今も心臓がうるさいくらいに脈打っている。


 あの力を使っても勝てるかどうか。


 力だけなら少しは抵抗できると思う。

 だけどヘレンの強みは他にもある。


 この場所へ力だけで連れ込めるわけがない。

 ただ全体的な力が上昇させたところで対応できるとは思えなかった。


「……だったら、なんで使わないんです?」


 貼り付けたような笑顔で更にヘレンは圧をかけてきた。


 平行線だ。

 ヘレンの中にある認識が覆らないことを今更になって悟った。


「使いたくないし、使っちゃいけないと思ったから。それだけだよ」


 何を言ってもきっとヘレンは納得しない。


 呆気にとられたようなヘレンの顔がたちまち強張った。


「本気で言ってます? それ」

「冗談を言っている目に見える? これが」

「見えませんねー。残念ながら」


 無の表情に息が詰まりそうになる。

 地面に散らばった《氷壁》の欠片が砕けたのは偶然か、それとも。


(無駄か。気にしても)


 たまった息を咳込むように吐き出して前を、ヘレンを見る。

 考えても仕方がない。


「それならよかった」

「残念って言ったんですけど。何がいいんです?」


 またしてもヘレンの圧が強まる。


 ふざけているつもりではなかったけれど。

 どうにもヘレンには俺がそうしているように見えるらしい。


「そもそも、なんです? 使っちゃいけないって。そんな縛りがあるなんて聞いてませんけど」

「ああ、ないよ。あの爺さん。俺の都合で使われてるとかなんとか文句を言ってたくせに結局、何の制約も追加してないみたいだし」


 とんでもない勘違い。どうやって訂正したらいいんだろう。コレ。


「まさか、それに思うところがあったとか」

「ないない」


 丸く収まった後でも納得してくれそうにない。


「そう思ってるなら、この前だって使わなかったよ。というか多分、無理矢理にでも付き返したと思う」


 本当に簡単なことなのに。


 あの力がないと足りない。今はまだ色々なものが不足している。

 なんとも情けない話だけど、それが俺の、俺達の現状だった。


 過去の記録を漁って、改めて“剣聖”のヤバさを思い知らされた。

 どんな形であれ、あの男を相手取るならあった方がいいに決まってる。

 たとえほんの僅かでも可能性は上がる。


 だけど、今はそんな状況じゃない。


「……今ここで使わない理由、なくないです? このままだと大けがですけど」

「合理的なやつなら、全く何も。俺の気持ちの問題でしかないのはさっき言った通りだし。怪我をするつもりもないけど」


 それはヘレンがあいつより弱いからではなく。


「さっきも言ったじゃん。使いたくないって。ヘレンを相手にするつもりはないよ。そんなこと」


 言ってしまえば当たり前の、単純な問題だった。


 どうしてヘレンにあの力を向けなくちゃならないのか。


 イリアに、大切な人たちに仇名す存在を撃退するための力を。


「やっぱり、なんにも分かってないみたいですねー」


 それを向ける先はヘレンじゃない。


「そんなわがまま言ってる場合じゃないって、まだ分からないんです? だとしたらとんでもないおバカさんってことになっちゃいますけど」

「そこまで言う?」

「言わない理由がないですよね」


 なのに、口が悪いったらない。

 こういうところはある意味爺さんに似ているのかも。


「それが嫌なら大人しく使ってくださいねー。何か秘策があるならそれでもいいんですけど。やらなきゃやられるのはそっちですよ?」


 意外と冷静なところも含めて。


 知っているんだ。ヘレンは。

 俺がそんなものを持っていないことを。


「ないよ。そんなもの」


 だから認めた。

 隠したところで誤魔化せもしない。


「分かってます? さっきから、滅茶苦茶なことを言ってるって」

「先にこんなめちゃくちゃをしたヘレンに言われても」

「それとこれとは別問題なので。いろいろ似ても似つかないですよねー?」


 それにどうせ、関係ない。


「確かに、それもそうだ」


 魔力の剣を再び手に取る。


 一撃でお壊されないよう強く、堅く。


 切れ味も捨ててそれだけに注ぎ込む。


 そうして出来上がった《魔力剣》を見て、不格好さに思わず苦笑してしまった。

 剣と呼んでいいのかも疑わしい。かといって、棍棒とも言えそうにない半端な見た目。


 またしても新しい改善点が見つかってしまった。


「……一応、やる気はあるんですね?」


 訝し気に見ていたヘレンがそういうことならと言わんばかりに剣を取り出す。

 ただ構えているだけなのに、どこから打ち込めばいいのかも分からない。


「そこまでしてなんで使わないかなー……」


 首を傾げてもやっぱり隙は見当たらない。


「やる気しかないからだよ」

「なんです、それ。根性でひっくり返すなんて言っちゃったりしませんよね?」


 馬鹿にしたようにヘレンが言う。


「そうじゃなくて」


 相変わらず勘違いしているらしい。


「ヘレンを倒そうなんて思っていないから。俺」


 俺にとってのゴールは最初からずっと変わっていないのに。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ