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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Angelic Newcomer
551/596

013

「……ひょっとして、私のせいだったりします?」


 翌朝、三凪は密かにヘレンを呼び出した。


「別に、ヘレンさんが悪いというわけではないんですけど……天上さんのこと、変に思ってほしくなくて」


 場所は桐葉達との待ち合わせに使っているコンビニ。


 朝練の最中だろう。風に乗せられ、グラウンドから力強い声が届く。

 加えて、気が早いのか、勤勉なのか、既に登校している生徒の姿も見られた。


 大勢に見られる場所ではあるが、逆に、紛れ込むこともできる。


 何より見通しがいい。

 桐葉や衣璃亜がやってきたらすぐに気付ける。


 やましいことをしているつもりはないが、見られるのは恥ずかしい。


「そっちは全然大丈夫なんですけどね? お話ししてくれた喧嘩の方はちょこっとマズくないです? 生活とか、他にもいろいろ」

「それは多分、大丈夫……だと、思います」


 いつもより20分ほど早く着いた時にはもう、ヘレンの姿がそこにあった。


 正直、意外だった。

 そもそも呼び出しに応じてくれないのではないかとさえ思っていたのだ。


 本人に応じる意思があっても、忙しいのではないか。

 そんな風に考えていた。


 実際には、杞憂に終わったが。


「でも、私のこときっかけになったんですよねー? 今回はよくても、その内また同じようなことになっちゃったりしません?」


 しかしどうしたものか。

 昨夜話す内容もしっかりまとめた筈なのに、いざ口にしてみると違和感しかない。


「それはそうなんですけど、途中からは、少し逸れていたというか……」

「それはそれでよく分かんないんですけど」

「ご、ごめんなさい。……私も、微妙に……」


 ヘレンが真面目に耳を傾けてくれているからこそ申し訳ない。


 ただやはり、ヘレンの協力なしには達成できないように思う。


「でもその、2人とも、相手が嫌いってわけじゃないんです。だから、生活とかの心配はしなくても……。昨日も、2人で帰ったみたいですから」

「じゃあ仲直りも済んだ、と」

「それとは少し違うような……」


 おそらく2人もまだ元通りに放っていないだろう。


 険悪とまではいかないが、やや空気が重かったのを覚えている。

 そんな状況でも妙なところで息が合うのだから大したものだ。


 問題は。


「なんか、いまいちはっきりしませんねー? いっつもそんな感じなんです?」

「そ、そんなことないです。むしろ、初めて見たくらいで。……無理しないでって、天上さんはよく言ってますけど」

「へー……?」


 お互いの言い分はもっともだった。


 衣璃亜が心配していたのは知っていたが、まさかその衣璃亜もだったとは。

 裏でそんなことをしていたとは知らなかった。


 だが、言われてみると、確かに。

 夜中に隠れて作業する衣璃亜の姿は簡単に想像できた。


「じゃあ、やっぱり私が来ちゃったせいで爆発しちゃったんですかねー? 敵対心剥き出しでしたし」


 ――それにしても、何故、衣璃亜はああも拒むのだろうか。


「何か、ありませんか? 心当たりとか……」


 微かな期待を寄せて、ヘレンに訊ねる。


 ただ苦手に思っているわけではなさそうだった。


 姫宮さぐりへの態度と比較してもそう。

 言葉で説明できるものではないが、何か違っているように思えたのだ。


「分かんないですよぅ。あればとっくに直してますって。睨まれっぱなしはさすがにつらいですし」

「で、ですよね」


 ヘレンもこの調子。

 これでは原因を取り除くという当たり前のことすらできない。


 戦力補充のために派遣されたヘレンを帰らせるわけにもいかず。


「まあなるべく刺激しない感じで行けばいいんですよねー? その間になんとかしていく感じで」

「お、お願いします……」


 分かりやすい脅威とはまた違った困難に、三凪の脳内はアイデアが浮かんでは消えていく。


 一見名案のように思えても、すぐに欠陥が見つかってしまう。

 歩み寄るまでには時間がかかるだろうし――


「ところで」

「は、はい?」


 ヘレンに呼ばれ、跳ねるように身体を起こす。


 見れば、学校とは真逆の方向を指さしていた。


「あそこ、ものすっごく仲睦まじそうな感じで歩いてくるのがいるんですけどー……私の見間違いですかね?」


 ――そこには。


「……え?」


 どういうわけか、寄り添い歩く桐葉と衣璃亜の姿があった。






 ――ヘレンに気を付けてもらえば。


 そんな目論見はあっけなく崩れ去った。


「……すみません、東雲先生。もう1回だけお願いします」


 桐葉の顔もすっかり引き攣っている。


 当然だ。

 平穏を取り戻し、無事に1日を乗り越えられた。そう思っていた。


 そこへいきなり難題をぶつけられて、平然としていられるわけがないのだ。


「今日の担当は予定を変えて、天条君とヘレンさんの2人で向かってもらう。……ことになった」


 何より、指示を出した姉もこめかみの所を抑えていた。


 本心ではないのだろう。

 どうして今なんだと、苦悶の表情を浮かべている。


「そんなの、いくらなんでもおかしくないっすか? 昨日までそんな話してませんでしたよね?」

「急ぎで用意したプランだからだよ」


 そう言って、姉は深いため息をついた。

 姉の方もかなり振り回されているらしい。


 姉だけではない。この拠点に所属する誰もがそうだろう。

 普段は顔を合わせることもない上層部の、おかしな決定としか思えなかった。


「だったら、俺が行くってのはどうっすか? いざって時のコトを考えるなら、俺達が二手に分かれるパターンも早めに試した方がいいですよね?」


 そこへ宏太が待ったをかけた。


 なるほど確かに。

 ヘレンと名乗る少女が派遣された経緯を踏まえるのなら、必要なことだ。


 そういうことにしてしまえば上も納得するのでは。


「それはまた今度だ」


 しかし姉は首を横に振った。


「まずは天条君からと指示があったんだよ。……多分、上は次の戦いを想定していると思う」

「天条に? またやらせるんすか? あんなのと?」


 姉の推測に、宏太はやはり難色を示す。


 先日の戦いを宏太はおそらく最も近くで見ていた。

 抵抗する姿も、倒れるその瞬間も。


 そんな宏太だからこそ思うところがあるのだろう。


「分かっているよ。私としても、誰かに押し付けるような状況は避けたい。……だけど、ある程度渡り合えた事実を上がやけに評価しているんだ」

「渡り合えた、なんて言えるものじゃありませんでしたけどね」


 そこへ割って入ったのは桐葉だった。


「天条」

「本当のことだよ」


 ――もし桐葉が拒んでいれば、また違ったのかもしれない。


 ありもしない可能性が浮かんでしまう。


 絶対にありえないと知りながら。

 そうであればいいのにと思ってしまった。


「そう思っていても、上は評価してしまった。……次があれば、その時は2人がかりで時間切れまで持ち堪えられると考えているようだよ」


 いつか再び相対することになると確信して、桐葉はその対策を進めていた。


 どれだけ危険なことか理解した上で。

 上層部の思惑など無関係に。


 だからこそ、それがいかに困難なことかを理解していた。


「あの力、そんなに長くはもちませんよ? この前だって、何度か途切れましたから。あの男がガス欠を起こすまで耐えられるかどうか」

「上の決定を支持するつもりはないけど、そこはまだ分からないよ。天条君が力を解放してから“剣聖”が姿を現すまでのことがある」


 嵐のようなあの力を抜きにしても桐葉は強い。

 姉の言う『上の人達』が何を期待しているのか、なんとなく見当がついた。


「とにかく、そういことだから、まずは2人で動いてほしいんだ。勿論、三凪や小城君、天上さんとの事も考えている」


 場の空気を察してか、姉が強引に話を打ち切る。


 そんな中、ヘレンは沈黙を貫いていた。

 ……衣璃亜に睨まれたせいでは、ないと思うが。


「結局、私もですか」

「そういった部分も含めて、だよ」


 前途多難という言葉が相応しい。


 上手くやっていけるだろうかと、不安は膨らむ一方だった。



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