010
「っチ、くだらねぇことにばっかり労力費やしやがって」
悪かったですねくだらなくて。……って、今は俺に言ったわけじゃないのか。
それにしたって酷い。
連中がやってることはアレだけど、この惨状もどうかと思う。
「あの、師匠? 行くぞとか言っておいて先にクレーター作って全滅させるのはどうなんですかね?」
大の字になって寝転がってもまだ余裕がありそうなくらい大きな窪み。
無茶苦茶な力で捻じ曲げられた木、木、木。
森の中に明らかに不自然な"穴"がある。
空から見えた白ローブはもうボロボロ。
着てた本人はバカみたいな姿勢で夢の中。
冷酷にも弟子を置き去りにした悪魔が着地した直後にこれだ。
これじゃどっちが悪役か分からない。
「オマエが遅いからだろうがボケ。どこほっつき歩いてやがった」
「地面に追突しないように着地してただけですよ? 誰かさんが派手に一発やったせいでバランス崩して大変でしたけどね」
おかげで揺れたよ。思いっきり揺れたよ。
あの化け鳥の背中に捕まってたときに負けず劣らず揺れたよ。
まだ降りる途中でかなり距離もあった筈なのに。
空にいてアレだったんだから、間近で受けたらどうなるかなんて目に見えてる。
よく気絶だけですんだなこれ。
「ハッ、ちょっと揺れたくらいで落ちるかよ」
「同じ状況で一回体験してみろよ悪魔め……」
「お望みならやってやろうか?」
「今の師匠の身体能力じゃ何の参考にもなりませんね」
そりゃ耐えるだろうよ。
空から落っこちても『痛い』の一言で済ませるような大エース様なんだから。
もっと年齢下げた状態で考えてくださいよ。何歳差だと思ってるんだ。
でもこの人、中学の頃から無茶苦茶な力持ってそうだよなぁ……
どのくらい遡ればいいんだろう。ちょっと考えたくない。
この人が世界に一人だけで本当によかったよ。
「いやでもほんと、なにしちゃってるんですか。思いっきり伸びてますよ。こいつら。いいんですか。こんなことして」
「オマエがもっと早く着いてりゃ実戦もできたんだよウスノロ」
「それなら先に言ってください」
いいのかそんなことして。……言って聞く人じゃないけど。
っていうか鬼か。実戦って。
五人もいるのにやれってか。前の大学生と違って逃げられるわけでもないのに。
そうと分かってたら準備のしようもあったのに。
……橘さんに止められたかも?
「言えば間に合ったってか? 冗談。できもしねぇこと言うなっつーの」
「はいはい、心優しい師匠の気遣いを無駄にしてすいませんでしたー」
やり方くらいあるだろ。まったく。
しかもいきなり連れ出すなんて。
一体どこで見つけてきたんだか。この連中。
千里眼でも持ってるのかよ。
(……まあでも、掴んで放り捨てられなかっただけマシか)
よくないけど。全然。
「で、こいつらこんなところで何してたんです? まだ空も明るいですよね?」
「どうせ悪趣味な魔法陣でも敷いてやがったんだろ。足元見ろ。足元」
足元? どうしてまた。
そんなこと言われたって、師匠がボロボロにした地面が見えるだけ。本当に酷い。
この辺りに生えてた草も花もきっと無惨な姿に……あれ?
「……青い粉? なんですかこれ」
とにかく粒が小さくて、気持ちいいくらいサラサラしてる。本当になんだこれ。
あれだ。昔美咲と泥団子作ったときにつけたやつ。
なんて言うんだっけ? まあいいか。
なんかちょっと気持ち悪くなってきたし。さっきまでそんなことなかったのに。
「やっぱ微妙に残ってやがったか。見終わったら寄越せ。そういうゴミは消すに限る」
「いや説明。大事な説明全部すっ飛ばしてるじゃないですか。そのくらい……」
「橘に聞け」
「ついでに監査部がないか聞いておきますね?」
この横暴っぷりを伝えるためにも。
ちゃんと聞いてくれるといいけど。
師匠もそんな粉、わざわざ強奪までして燃やさなくても。
それにこの光景、なんとなく見覚えが。比較的最近。
いつの間にか気持ち悪さも消えた気がする。……まさかあの粉のせい?
「ぅ、ぐ……っ!」
「ホー、中々骨があるじゃねぇか。テメェ喋れんだろ? さっさと吐くもん吐けよ。こっちも暇じゃねぇんだよ」
なんで頭の横踏むんだよ。足踏みするなよ。
しかも上から覗き込むような体勢で。本当に悪役ムーヴがよく似合う。
しかも足押し付けるからまた地面が削れてるし。
どんな力してるんだよ。もう少し抑えてくれよ。自分で直すわけでもないのに……
「だ、誰が[アライアンス]などに……!」
「ハッ、ひと括りにされちゃたまんねぇな。俺を誰だと思ってやがる?」
(うわー……)
言うか? 普通、そこまで言うか?
本当によく今までやってこられたなこの人。
問題だよ。問題発言だよ。いくら事実だからって。
『神堂零次。よく存じていますとも。ええ。知っていて当然です』
……今度は誰だよ?
それになんか、聞いたことあるような。
このねちっこい声。とてつもなく性格悪そうな声。
スピーカーからでも分かる。こいつの声、絶対どこかで聞いたことが……
「伏せろバカ」
「いきなりそ――ぅげぇっ!?」
マズっ!? これ土かよ!
入った。今口の中に絶対入った。
しかも一瞬だけ。起き上がるのはセルフサービスってか。
なんてことしてくれやがるあの野郎。いくら白い服じゃないから、って……
「…………はぁっ!?」
いるんだけど。なんかいるんだけど。
化け犬。それに猫も。細かい差は分からないけど、化け犬より一回り小さい。
「こんなのにビビってんじゃねぇよ。雑魚だ雑魚。そんなに怖いなら倒してやろうか? え?」
「べ、別にビビってなんてないですけど? このくらい余裕ですけど!?」
「じゃあやれよ」
「丸投げかよ」
さっきできなかった実戦の代わりですか。無茶言うな。
『その声……ああ、やはりこの前の君ですか。どうです? 調子は』
「どうもこうも最悪だこの野郎。さっさと顔くらい見せろよ」
「近くにいるのにできるわけねぇだろ考えろ。大体、あの臆病者共にそんなことできるわけねぇだろうが」
「それは確かに」
手先のモンスターだけ呼び出して高みの見物なんて。
師匠が動いてないってことは、あの野郎がいるのは近くじゃない。
どこから喋ってるんだろうな。スピーカーの位置も分からないし。
『……少年の口の悪さはあなたのせいですか。神堂零次。教育する際は気を付けるべきだと思いますよ?』
「知るかよ。元からこうだってのに」
「別にここまで酷かったわけじゃないですけどね」
少なくとも昔は。
今だって師匠とか、そういう相手じゃなきゃさすがにやらない。
『まったく、とんでもない……ですが、あなたを遠ざけたのは正解でしたよ。神堂零次。これで遠慮なく攻められると言うものです。あの少女の身柄も直に拘束できるでしょう』
「んなっ……!? お前まさか……!」
「やってみろよ。やれるもんならな」
「師匠!?」
そこ煽るタイミングじゃないでしょ!?
師匠だけでも即戻らなきゃヤバいのに……!
「あんな嘘に騙されてんじゃねぇよマヌケ。無理に決まってんだろ」
「いや、でも……!」
こいつはこの前襲ってきた。
秘密の通路を抜け出したタイミングに。
あんな真似、場所を知らなきゃできっこない。
「だったらとっくに攻めてんだろうが考えろ。それに、今のこいつらがどうにかできるほどヤワじゃねぇよ。あそこは。ナメんな」
「師匠……」
そこまで言うなら大丈夫、なんだよな? 本当に。
信頼してもいいんだよな?
(それにしても……)
『……まさかあなたの口からそのような言葉を聞く日が来るとは』
「師匠の口からそんな言葉を聞ける日が来るなんて……」
「テメェらまとめてぶちのめしてやろうか」
だってしょうがないじゃん。
師匠ってば基本的にそういう感じだし。なんならさっきも聞き捨てならないこと言ってたし。
自業自得だよ。自業自得。




