021
衝撃が大気を振るわせた。
嵐を纏う桐葉の拳と、輝きを放つ男の剣。
二点に集約した途方もない力が、真正面からぶつかり合った。
「うぉおぉおおっ!!?」
衝撃の余波は暴風となって地上へ、宏太達へと襲い掛かる。
身体は軽々と浮かび、凹凸の上を転がる。
時に小さく跳ね、しかし止まることなく転がり続ける。
「な……なんつーばか火りょ――……おわぁあああっ!!?」
どうにか踏みとどまって起き上がろうとした時、またしてもぼうふうが宏太達を吹き飛ばした。
「っ、痛ぇええ……!」
身体を起こすことができたのは、巨大な窪みから追い出された更にその後。
暴風に吹き飛ばされ、大きく引き離されてからのことだった。
(――遠っ!?)
桐葉と男の姿は見上げなければ視界に映らない。
それでも両者がぶつかり合ったことで起きた衝撃は、未だに宏太を襲う。
「っ、くそ!」
右手から放った魔法も、その衝突に呑まれて消える。
「っ……!?」
宏太の一撃に反応したのは桐葉のみ。
白い外套の男は、宏太の方を見向きもしなかった。
警戒するまでもない、と。
「げっ…………!?」
そうしてまた、とびっきりに大きな力がぶつかり合う。
「小城君こっち!」
耐えようとする宏太の手を、誰かが引いた。
痛みを感じるほど強くつかんで。
そのまま大通りを外れ、小さな道に面したコンビニの陰に隠れた。
「まったく、とんでもない……。これじゃ天変地異だよ……」
宏太を引っ張り込んだ月岡は、息を切らして壁に寄りかかる。
「しっかし、どうしたもんかな……あの剣士さん……」
ビルとビルの隙間から様子を覗き、月岡が深いため息をついた。
彼の周り座り込んだ2811のメンバーも答えない。
大きな怪我こそないものの、すぐに動ける状態でないのは宏太の目から見ても明らかだった。
「いやはや凄いね、彼。あんなのと真正面からやり合って」
「そ……そうっすね?」
そしてそれは、宏太も同じだった。
動こうとしても、身体が言うことを聞かない。
頭も回らず、悔しさを感じることさえできなかった。
「……あんな力があれば、動けもしますよ。何割かは彼の攻撃の余波じゃないですか」
「そういうこと言わない。……最初の一発、誰のおかげで耐えられたと思ってんの」
「それは……」
今も轟音はやまない。
それはすなわち、桐葉が戦い続けているということでもあった。
「ごめんよ、気が立ってるとはいえあんなこと言っちゃって。いい気しないでしょ?」
「いや……それ後回しでよくないっすか……?」
休んでいる場合ではない。
頭では理解していても、身体は動かない。
気分を害するも何も、そもそもそんなところまで意識が向かない。
「駄目駄目。阿知良さんにやり返さなきゃなんないのに、そういうことで不満を残すのはよくないでしょ」
「……はっ?」
呆気に取られてしまったのも、そのせいだった。
これでも不十分だろうけど、と付け加える月岡に応じることもできない。
「……そっちばっかり気遣うんですね」
「拗ねない拗ねない。水谷クンもちゃんと反省したらかまってあげるから」
「別に、拗ねてなんかいませ――……」
水谷の声を、魔力の方向がかき消した。
「……嫌がらせですか。アレ」
「んなわけないない。そういうところだって、本当」
「………………気をつけます」
激突は続いている。
身体を震わせる衝撃が、宏太に現実を突き付けてくる。
「まあとにかく、そういうわけだからさ? 小城くんにも協力してもらいたいわけよ。2811と2943の協力プレイってやつ?」
「いやっ。協力プレイっつったって……」
――扱う力が明らかに違う。
先程目の当たりにした光景がそんな意識を宏太に植え付けた。
割り込みたくとも割り込めないのだ。
「あそこに全員で突っ込もうなん手はなしじゃなくってさ」
そんな小城の内心を見透かしてか、月岡は言う。
「下手にちょっかい出して邪魔になったらそれこそ大惨事だし」
そして。
「けどまあ、やりようってもんはあるでしょ?」
悪戯を思いついた子どものように、にっと笑った。
固く握られた拳に、魔力が渦巻く。
「――――ッ!!」
直後、右の拳が叫びをあげた。
狙いは一点。
宙を舞う白目掛け、あれ狂う魔力が牙を剥いた。
「大いなる光」
魔力の嵐と、男の斬撃。
立ち並ぶビルの間を駆け抜ける。
程なく真正面からぶつかり合った力は、本来の標的に触れることなくはじけ飛ぶ。
集約された力は相手を打破するためだけに振るわれていた。
(狙いを絞ってもまだ駄目か!)
というのも。
(ここまで使わされるとは……ッ)
そうしなければ届かないという、切実な事情があったからこそ。
むやみやたらに暴れまわったところで、標的を倒すことはかなわない。
一点を集中狙いしなければ強固な守りを貫けない。
直感で悟った桐葉が狙いを絞り、対すると男も力を一点に集めざるを得なかった。
自身の行動が結果的に男の選択肢を奪っていることに桐葉は気付かない。
(いけそうで、いけない……やっかいなやつ……っ)
ただ敵を打破するべく、傍のビルの壁を足場に飛翔する。
「―――昇れ、《激流》!」
同時に噴き出た水の柱は、男が放った光に消された。
「ち……」
下からでも届かないと知った上で、もう一度。
(っ、使ってない!)
それでも目的が達成されていないと知るや、再び右手に嵐を宿す。
男が輝く剣の力を使わせなければ、意味がない。
「……!」
その時見つけた。
(……なるほど、そういう…………!)
ほんの少しの微修正を加え、更に魔力を溜める。
「これ以上撃たせると――」
自身へ向けられた切っ先に、光が集まっていくのを見ても構わず。
視界の端に見つけたその人を頼りに、力を注ぐ。
切っ先と自身とを結んだ直線の延長線上が虚空と確かめた直後、光が溢れた。
「っ、は――――!」
撃ち合うことなく、桐葉は跳んだ。
「な、何を――…………ぉおッ!?」
直後、男は炎に包まれる。
宏太達が設置した巨大な魔法を直に浴びせられたのだ。
「この程度の、魔法で…………!」
しかし折れない。
怒号とともに振られた剣が、たちまちかき消す。
「お前が頑丈過ぎるだけだっての!!」
決着の拳が叩きつけられたのは、その直後のことだった。




