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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Divine Servant
521/596

012

「それで結局何の用なんですかね、御老公」

「質問をするのならそれに相応しい態度というものがあるだろう」


 吐き捨てるように言う桐葉と、見下すように返す老人。


 場の空気は限りなく最悪に近いものだった。

 結果的に巻き込まれてしまった宏太が震えるほどに。


「まったく、嘆かわしい……。この程度でしかなかったとは」

「こっちこそがっかりだよ。わざわざ出てきたかと思えばそんな悪態をつくためだったなんて」


 いつ直接的な戦闘に発展してもおかしくない、張りつめt空気。


 何より桐葉も老人も、止めようという意思がなかった。


 一定の距離を保ってはいたものの。

 争いを阻むにはあまりに短い。


「何故そうだと決めつけるのだ」

「今この瞬間にもイリアがいる方を見ようともしないからだよ」


 もっとも、双方ともに相手が動かなければ手を出す気もなかったのだが。


 その時になったら遠慮をしないというだけで。

 自ら短絡的な方法に頼ろうという気は微塵もなかった。


「それは君も同じではないか」

「おたくが気付いてないだけじゃないですか?」

「自分の時にはそのような言い訳をするのだな」

「見てますよ。まあ、潔ければ何でもいいってわけじゃないと思いますけどね」


 無論、どちらも白旗を挙げるようなことはない。決して。絶対に。


 お互いに距離を保ったまま。

 目を合わせるのも不愉快だと言わんばかりにそれぞれ虚空へ視線を向ける。


「ここにいる者以外の存在を考慮できないから駄目なのだ。よもや我らがそのような愚行に走ると思ったわけでも無かろう」

「ああよかった。そこまではしないんですね。さすがに」


 目が合うのは、それで済まなくなった時だけ。


 場の空気は当然、さらに冷え込む。


「わざわざ俺のところに喧嘩を売りに来るくらいですし? やりかねないって思われるのは自分の責任じゃありませんかね」

「君を指導するためだというのにその態度か。喧嘩に結びつけることしかできないのか?」

「まさかあの失礼発言を本気で『指導』と思い込んでいるなんて信じられなくて。文化の違いがとは言いましたけど、いいんですか? コレ」


 桐葉は馬鹿にしたように鼻で笑い、老人は軽蔑の念を隠すことなく鼻を鳴らす。


 宏太が口を挟む余地はもはや残されていない。

 むしろそうならないよう、老人の言葉にすぐさま食ってかかる。


 何かを言おうとしていたことに気づいてはいたが、あえて触れずに桐葉は続けた。


「そもそも俺とイリアの休みを被らないよう仕向けたのもそっちでしょ? イリアはなんとなく察していたみたいですけど」

「そうだ。察した上で拒まなかった。それが答えだとは思わないのか」

「はてさて何に対してなのやら。イリアが顔を出さなくていいと言ったことならはっきり覚えていますけど」


 先日の宏太の様子を思い返せば、巻き込もうなどと思える筈がなかった。


 今の自分が感情的であることは桐葉も理解していた。

 理解してもなお、止めることはできそうになかった。


 ――こいつにまけるわけにはいかない。


 そんな感覚が、今も確かにあったから。


「……都合のいいことばかり覚えていられるとは便利なものだな」

「そこまで言うならイリアに言われたことくらいしっかり記憶しておくべきだと思いますけど」


 しつこく繰り返したところで、得られるものがあるわけではない。


 不毛な争いであることをお桐葉も内心では認めていた。


 それでも、引き下がれないのは。


「ならばどうする? あの方に泣きつきでもするのか?」

「はっ、冗談。どうしてこんなことにイリアを巻き込まなきゃいけないんだよ」


 何とも単純な――馬鹿馬鹿しいとも言えるもの。


「何を勘違いしているのだ。あの方のことだという大前提さえ忘れたわけでもあるまい」

「今のこの喧嘩がイリアと直接関係のない者だってことくらいお分かりでしょう?」


 子供のわがままと言われてしまいそうな感情を、抑えられなかったからに他ならない。


「……何を言っている」


 衣璃亜のことも、無関係ではなかったが。


「だってそうでしょ? もうとっくに過ぎてるじゃないですか。そんな段階」

「……」


 彼女の存在を、今のこの状況に対する言い訳に使いたくはなかった。


「そっちは俺のことが気に入らないし、俺は俺でそっちのそういう態度に腹を立てている。それだけのことじゃないですか。イリアにふさわしいとか、そんなものは全部後付けでしょう」

「随分と勝手な決めつけだな」

「実際そうでしょ。お互いに」


 しかし、それはそれとして。


「――まあ、もらったものを散々使っておいてその態度かって言われたら俺も言い返せないでしょうし」


 ただ厄介な相手と断じられない理由もあった。


「……今度は何が言いたいのだ」

「惚けなくたっていいでしょ。さすがに俺だって分かりますよ。そのくらい」


 分からない筈がないのだ。


「魔法の威力は明らかに上がってるし、防御力もそう。他にも、普段は使えない力が使えるようになっていたり」


 それだけ強大で、異質な力でもあった。


「あんな強化能力がその辺に転がっているわけがない。……だったら、何かしらの目的を持った誰かの仕業だって考えるのは当然でしょう」


 魔力の回復もおかしなものであることに変わりはないが。


 それとは明らかに切り離されたものだということを、桐葉は本能的に理解していた。


「そちらさんには、俺達が想像もつかないようなものがおありみたいですし? ()()()()代物があったっておかしくないだろうなって」


 ここぞという場面で頼って来たそれが、目の前の老人によって与えられたものであることも。


「……まさか辿り着けるとはな」

「これだけの根拠が揃ってるのに全く思いつかないわけがないじゃないですか」


 ――何より、老人にはそうするだけの理由がある。


 そのことを桐葉は確信していた。



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