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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Uneasy Transfer
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007

「ぅううううう……」


 大丈夫か。本当に大丈夫なのか。

 思わず全力ダッシュで抜け出してきたけど、こんな調子でほんとになんとかなるのかこれ?


 夏休み期間にやれそうなことは全部やった。

 授業の内容ならもう余裕で追いつけたし、そっちの心配はしなくても大丈夫。


 前に通ってた学校とか、そういう書類上の問題はまあ……俺達のせいじゃないし。

 橘さん達がどんな手段使ったかなんて考えたくもない。


「桐葉くん緊張しすぎだよぉ。そんなそわそわしちゃって。自分が転校するわけじゃないんだからー」

「自分の転校だったらもっと気楽でいられたんですけどね……」


 こんなイリアの姿を見てたら不安にもなる。


 始業式なんて出るんじゃなかった。

 篝さんに言われたからつい向かっちゃったけど、絶対こっちで待ってた方がよかった。


 そりゃそうだよ。

 拠点で組織の人と話をした時もビビり気味だったのに、こんなところに連れてこられたらそうもなる。

 ……やっぱりその辺りまで全部分かってたわけじゃなかったのか。


「すみません、篝さん。ここまで付き合ってもらっちゃって。ただでさえ色々お世話になりっぱなしなのに」

「仕方ないよ。桐葉くん始業式でなきゃいけなかったんだからぁ。その間、あそこの先生たちに任せておくのも難しかったと思うよ? 万一ってこともあるからねー」

「あんな無駄話を延々と聞かされるくらいならずっとこっちで待っててもよかったんですけどね」

「先生に聞かれないからって絶好調だね?」


 だって仕方ないじゃん。


 なんで校長の昔話なんか聞かされなきゃなんないんだよ。

 どこかのスポーツ選手の古いエピソード紹介なんてされなきゃいけないんだよ。

 しかもあんな暑苦しい体育館の中で。


 夏休みも終わったので切り替えて二学期に臨みましょう。で済むことだろ。全部。


「でも本当、ありがとうございました。おかげでなんとか落ち着いていつも通りやれそうです」

「もっと頼ってくれていいんだよー? 私の方がお姉さんなんだからぁ」


 今の時点で滅茶苦茶頼ってるんだけど。

 イリアの勉強もそうだし、俺の魔法だって時々見てもらってるのに。


 なんとか氷の魔法の宿題は片付けられたけど、自分でもよく分かってない。

 師匠にはバッチリ見破られてたし。どうしよう。ほんとに。


 単純に魔力量を伸ばして、3秒でプールの水を満タンにできるようになった方がよかったり――……


「……ぅ……」


 大丈夫。忘れてないから。

 できればシャツは引っ張らないでくれると助かるけど。


「……さすがに、今のイリアちゃんはどうしようもないけどねぇ?」

「ですよね。俺も同じです」


 俺、別に盾じゃないんだけどな。

 イリアがそれで安心できるなら気にしないけど。


 警戒レベルは多分、最大よりちょっと下。

 職員室を不安そうに眺めたところでどうなるのか俺にはちょっと分からない。


「イリア。本当に大丈夫か? 無理なんてしなくても、別に……」

「へ、平気。行く。ちゃんと」


 声、思いっきり上擦ってるんだけど。


 手も思いっきり震えてる。車を降りるまではそこまでじゃなかったのに。

 やっぱりあれか。教室の声がうるさいからか。どっちの気持ちも分かるからなぁ……


 こればっかりは仕方ない。拠点じゃそんなこと気にする必要なんてなかったし。


「お待たせしました。天上さん。それに、お姉さんも。……えっと……」

「っ……!」


 だから俺の陰に隠れても仕方ないんだってば。

 敵じゃないから。この人別に敵でもなんでもないから。比較的まともな先生だから。


「すみません。この子、ちょっと人見知りが激しくてー……」

「え、えぇ。知っています。お話は伺っていましたから。席も天条君の隣ですし、問題はないかと」

「ありがとうございますぅ」


 すっかり保護者ぶりが板についてるな。この人も。さすが。


 そういう配慮ってしてもらえるものなんだって驚いたのはつい最近。

 卒業まで席が隣だったりして。俺はそれでもいいんだけど。


「それじゃあ行こうね。天上さん。天条君も、しっかりエスコートするように」

「りょ……じゃなかった。はい」


 時間のこともあるからいつまでも喋ってられない。


 でもやっぱり、イリアの見た目は人目を引いた。

 俺でも分かるくらい露骨な視線が向けられる。イリアが気付かない筈がない。


 ほらほら、見世物じゃないんだから。しっしっ。


 先生も注意しながら先に行かなくても。

 別に教室の前まで隣にいてくれてもいいだろ。


「……何してんの? 天条」


 ……なんでこんなタイミングに。


 目が。また目が冷たい。

 どうせあれだろ。美咲が心配してたからとか、その辺りだろ。

 言われなくても分かってるんだよ。そのくらい。


 こんな顔してたら女王呼びもされるわ。

 怖いよ。無駄にプレッシャーかけてイリアのことビビらせるなよ。


「あ、深山。いいところに。お得意の女王オーラでどうにかしてくれない? ちょっと視線がしつこくて」

「視線って。自意識過剰も大概にした方がいいよ? 天条見て誰か得すると思う?」

「違うから。俺じゃないから。そのくらい分かってるから。後ろの転校生ジロジロ見てる連中がいるんだよ」


 現在進行形で。大量に。

 自己紹介終わった後の反応が目に浮かぶ。ブロックが間に合えばいいけど。


「……転校生? なんで天条がそんな子と一緒にいるのよ。美咲、心配してたけど?」

「あ、やっぱり……って、そうじゃなくて。色々理由があるんだよ。色々」


 言いたくても言えない厄介な事情が。


 イリア以外、他の学年にも転入生はいない。

 臨時で赴任してきた先生もいない。だからそういう心配はしなくていいって橘さん言ってたけど……やっぱり不安。


「な、イリア? 友達が来たからちょっと挨拶の練習してみないか? 丁度一人だけだし」

「先に私に確認してくれる?」

「深山なら引き受けてくれると思って。……ここだけの話、人見知りが激しいんだよ。さっきから緊張しっぱなしで」

「……よく今までやって来れたわね。その子。っていうか、やけに詳しいわね。おかしくない?」

「個人的な知り合いなんだよ。じゃなきゃ頼まれたりしないって。それよりさっきの話なんだけど……」

「いいわよ別に。時間ないから早くした方がいいんじゃない?」


 またそういう……いいんだけどさ。別に。


「オーケーだって、イリア。昨日やったやつやってみてくれよ。一回でいいから」


 心配しなくても逃げたりなんてしないから。


 ちょっと雰囲気は怖いかもしれないけど、なんだかんだ言って性格も――


「…………はあ!?」


 ……悪くないのに。


「こ、声大きいっ。なんでだよ。驚き過ぎだよ落ち着けってっ」

「だって、その子……」

「え、何? ……もしかして知り合い!?」

「いや、違うけど……えぇ? 誰なのその美人」

「知り合いの転校生。とゆーわけでどうぞ、イリアっ」


 もしかしたら手掛かりがつかめるかもって思ってた。

 でも仕方ない。あれだけ調べて何もなかったんだから。


「……やだ」


 ……こんな反応だって予想できるわけない。


「その、イリア? 折角オーケー出してくれたんだし、そこを拒否らなくても……」

「や」


 取り付く島もない。


「ご、ごめん深山。折角受けてくれたのに。今度またちゃんと紹介するから」

「それは別に……んん?」


 そんなに戸惑わなくても。

 こんな深山、もしかしたら初めて見たかもしれない。


(……けど、一気にうるさくなったな……)


 やっぱり深山の声も聞こえてやがったか。

 先生が教室に入った後も覗き見するやつが何人も。


 自分のクラスはいいのか。さっさと担任も引っ込むように言えよ。

 教室の前に着いても落ち着けやしない。イリアと同じくらい。


「…………人、多い」

「そりゃ勿論。緊張してきた? 俺相手に練習する?」

「桐葉と、あれ、別」

「人な。あそこにいるのは人だからな?」


 またそういうこと言う。

 そう言えば美咲、メール見てくれたかな。慌てて打ったから内容ゴチャゴチャだったような……

 職員室前にダッシュする前にも話せなかったし。


 ほら、案の定『天条君がいません』って聞こえる。


「ぁぅ……」


 イリアも落ち着けって。さっきまであんな態度だったのに。


(……まあ、そんな気はしてたけど)


 むしろ安心したくらいだけど。


「大丈夫だって。俺もいっしょだから。な?」

「ぅ、ん……」


 いよいよ呼ばれた。


(名前は手早く俺が書いてしまって――……って、おい)


 固まらなくていいから。昨日やった通りにやればいいから。

 先生困らせなくていいから。『癖が強い』って言われて不満?


 大丈夫かなあ、本当に……


「……天上、衣璃亜。よろ、しく」


 ちょっと待て。


 本当にそれだけだった? もう一回思い出してくれよ。

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