表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Wild Wizard
506/596

045

 そうまでしてすることなのかと、今でも思う。


 誰がやらなければならないという理屈は、辛うじて飲み込めなくもないけれど。

 その誰かを率先して引き受ける必要なんてない筈なのに。


 何度も抱いた思いをぶつけても、考えが変わることは終ぞなかった。


 ないがしろにされていたという感覚も、勿論あった。

 見ず知らずの他人がそんなに大切なのかと。


 きっかけは、不自然なまでの入院の多さだった。


 何か病気になったというわけでもなく。

 見舞いに行くと、決まって包帯を巻いていた。


 自分のミスだと困ったように笑ってはいたものの。

 それが単なる事故でないことは、幼い目から見ても明らかで。


 小さな違和感を確信に変えるまで、そう時間はかからなかった。

 後はもう、本人達を問い詰めるだけだった。


 そうして知らされた真相は、これまで当たり前と思っていたものをことごとく破壊した。


 人の手に余る力。

 実在など夢にも思わなかったそれを目の当たりにすることとなったのだ。


 問い詰めなければよかったと、しばらくは後悔が収まらなかった。


 それが在ると知ったところで、不安が大きくなるばかり。


 感知することのできなかった当時は、目に映る全てがそうなのではないかと言う錯覚に悩まされもした。


 それでも忘れようとはしなかった。

 ただの意地だと頭では理解しつつも、忘却を拒み続けた。


 その先に、明確な展望があったわけではない。


 それをはっきりさせるより早く、当たり前を壊した歪みが消えてしまった。






「――――」


 桐葉の足取りに迷いはなかった。


 勝手知ったる拠点の廊下を突き進んでいく。

 走っているかのように見える勢いでありながら、足音は小さなもの。


 桐葉の姿を見た構成員は一瞬驚き、そのまま誰に言われるでもなく道を開けた。


 押しとおってしまったことに、多少の申し訳なさを抱きもした。

 しかしやはり、桐葉は止まらない。


 施設内にいる筈のその人を求め、なおも桐葉は突き進む。

 どれだけ小さな痕跡であっても、見逃すことなく。


 まるで、得物を追いつめる猟犬のよう。


 思いがけない形で再開したある人物に聞かされた話が、桐葉をそうさせた。


「東雲先生」


 そんな桐葉が二葉の姿を捕えるまで、そう時間はかからなかった。


 その時になってようやく、桐葉も足を止める。

 衣璃亜に任されてから、一度求めることのなかった歩みを。


「……どうしたのかな」


 追いつかれた二葉は、観念したように振り返る。

 その表情に、諦めのようなものを桐葉は感じた。


 驚きはない。

 二葉の反応は、彼が予想していた通りのものだ。


「ここへ来ても、お願いできるようなことは何もないよ。……まだ、彼の容態は」

「分かってますよ」


 最後の抵抗を試みたであろう二葉の言葉を遮って、桐葉は言った。


 二葉のそれが時間稼ぎ以上の意味を持たない。

 担任を任されている二葉が、先程までの桐葉達の動きを知らない筈がないのだ。


「あの人がまだ、話せる状態じゃないことくらい……分かっています」


 しかし、そのことを責めるつもりなど桐葉にはなかった。


 知っているくせにと思うだけ。

 言葉にしようと思っても、たちまちその気は失せてしまう。


「だったら、どうして」


 代わりに、一言。


「意地が悪いですね。先生も」


 分かり切っている疑問を投げかけてくる二葉に、そう返す以上のことをしようとは思えなかった。


 二葉の意思が全くなかったとまではいわないにしても。

 その理由が利己的な保身などでないという信頼はあった。


「分かっているんですよね、本当は。俺が聞こうとしていること」


 思うところがあっても、心の内に留めておく。


 目の前の相手を責めたところで、何も解決しない。

 自分自身に言い聞かせ、真っ直ぐ二葉を見つめる。


「…………」


 やはり二葉は、口を開こうとはしなかった。


 そんなことはないと、口先だけの否定すらしない。

 唇をかみしめ、視線を逸らすのみ。


(……やっぱり)


 そんな反応だけでも、桐葉にとっては十分だった。


 確たる証拠は何もない。

 どうあがいても、今の桐葉では手にすることができない。


 あの話を聞いた後でさえ疑わずにはいられないその可能性を、思いつくことなどあり得なかった。


「あの人は……狐塚さんは、いったい何者なんですか?」


 未だに可能性の域を出ないそれを、二葉にぶつける。


 思いもよらない繋がり。

 はっきりさせたところで何か事態を好転させるわけではないと知りつつも、桐葉は二葉に詰め寄った。


「……何を、言っているのかな。まるで、彼が……」


 桐葉の真意を察した二葉は、露骨に言葉を詰まらせた。


 周囲に誰かいないか探し求め、いないと分かると顔を俯かせる。

 そうして二葉が選んだのは、沈黙だった。


「ご両親のことです」


 そんな二葉に、逃すものかと畳みかける。


「先日会った、狐塚さんの身内から聞きました」


 先ほど会ったその人物について聞いた二葉の反応を見て、桐葉はいよいよ確信した。


 かの少女と二葉との間に接点などない。

 件の少女が通う高校は、桐葉達とも翔琉とも異なる場所。


 しかし、全くの無関係というわけでもなかった。


「亡くなる少し前、自分達のことを訪ねてきたと」


 問い詰めている桐葉自身も、息苦しさはあった。


 このようなやり取りを楽しめる筈がない。

 二葉に隠した左手の拳を、桐葉は今も固く握っていた。


「話してくれた本人は、その内容までは知らないとおっしゃっていましたけど……どことなく、切羽詰まったような雰囲気だったと教えてくれました」


 ただの妄想であればと、今更ながらに思ってしまう。


「聞き方を変えますね、先生」


 しかし。


「狐塚さんの両親は、一体どんな方だったんですか」


 もはや見て見ぬふりなどできないところまで桐葉は踏み込んでしまっていた。



次の更新は27日、その次は29日の予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ