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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Uneasy Transfer
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004

「……あの、橘さん? それ本気で言ってるんですか? 何か聞き間違えたりしてないですよね?」


 どうにもさっきから耳の調子がおかしい。

 イリアはいきなり学校に行きたいなんて言い出すし、偶然捕まえた橘さんも却下しようとしないし。


 それどころかまるで驚いてなかった。絶対目を丸くすると思ってたのに。

 イリアは話したこともないって反応だったけど、そうでもないとか? ……本人が寝てるから確かめようがないな。

 だから橘さんを探しに抜け出せたわけだけど。部屋で話し合う時間もあるわけだけど。


 前は昼寝なんて滅多にしなかったのに。本当にどうしたんだろうな、イリアってば。


「今言った通りだ。あの小娘にそのつもりがあるのなら転校させるための用意はいつでも整えられる」

「あの教科書もその一環だったってわけですか……揃えてくれてどうもありがとうございます。あと、イリアです」


 いい加減呼べよ。そのくらい呼べよ。減るもんじゃないでしょうが。

 フルネームじゃなきゃ納得できませんかそうですか。俺のことは『天条』呼びのくせに。


「何だ、読んでいたのか」

「もう片っ端から。イリアってば凄いんですよ。少し見ただけですぐ覚えちゃって。俺が教えられる事なんてもう何もないんじゃないかってくらいに」

「そんな報告はしなくていい。それとも、不満か」

「そんなわけないじゃないですか。思ったより早くかったから、そこはちょっとびっくりしましたけど」

「早い……そうだろうな」

「はい?」


 なんだろう。今の、俺に向けた言葉じゃなかったような。


 変なの。まるでイリアが俺のいないところで何かやってるみたいじゃん。

 まあそのくらいはあるかもしれないけど、夏休みに入ってからこっちにいる時間の方が長いから限度がある。

 俺が家に帰る頃には眠そうにしてるくらいだし、勉強する時間なんてどこにあるっていうんだよ。


「って、そうじゃないですよ。どういうことですか。転校させる用意があるって。そんな簡単に言えることじゃないでしょ」

「あの小娘の身元が特定できていない事は貴様も知っているな?」

「まあそのくらいは……でもそれ、関係あります?」

「大ありだ。これから先の不都合が多過ぎる」


 行方不明者の中にはいないとか、どこからかき集めたのかも分からないような情報と照合してたのは俺も知ってる。

 その結果、イリアがどこの誰か未だに分かってないって事も。


 イリアもまだ何も思い出してないみたいだった。

 教団の連中は相変わらず役に立たないし、本当にどうしたらいいんだろうって。


 確かにちゃんとした名前があれば色々手続きも出来るようになるんだろうけど……え、どうやって?

 詳しくなくても滅茶苦茶やってる事くらいは分かる。


「まさかそれで戸籍用意したとか言いませんよね。さすがにそれヤバくないですか。色々と」

「舐めるな。いくらでもやりようはある」

「えー……」


 全く安心できないんですけど。この人大丈夫か。いや、この組織大丈夫か。

 いくらなんでもクレイジーが過ぎる。そんなさらっと用意されてたまるか。そんなもの。


 本当に大丈夫なんだろうなこの組織。活動資金とか、出所の分からないものが多過ぎる。

 この建物だってそんな簡単に用意できるものじゃないのにどうやって。


「今後のことを考えるのであれば、社会経験を積ませてやる必要もある。学校という場はそういう意味で利用価値は高い」

「確かにこの拠点に同世代の人はいませんけど……」


 だからってやるか普通。そこまでやるか?

 篝さんにだっていまだに塩対応なのに。アテでもあるなら知らないけど。


 クラスメイトに馴染める気がしない。俺が頑張るにしても、それ上手くいくか?


 絶対美咲頼りになる。

 そうなるだけでも申し訳ないっていうのに、大前提としてまず美咲相手に心開いてもらわなきゃいけない。


 美咲の良いところは山のように知ってるけど、初対面じゃわからない事だってあるし。

 篝さんへの反応からして、俺が説明しても納得してくれそうにないし……ほんとにどうしよう。


「本人がその意志を見せるまでは言うつもりもなかった。しかし……確かに早いな。あと二、三ヵ月は先だと思っていた」

「いいんですかそんなにあっさり許しても。あいつらに狙われるかもしれないのに」

「それも含めての準備だ。貴様も例の魔法をしっかり鍛えておけ。いざという時、いつでも逃亡できるように」


 確かに、あれなら。

 最近は少しずついろんな動きも出来るようになったし、あの化け犬は飛べない。

 だからきっと逃げられる。逃げられるだろうけど……


「貴様の言い分も理解はしている。だが、こうして欲求を見せたという事は変化があった証拠と言える。記憶を取り戻すためにも必要な事だ」

「そんな都合よくいきますかね? そうなってくれたらそれが一番ですけど」

「新たな環境という刺激を受ければ何かしらの反応を示すだろう、というのが今のところの見通しだ」

「……それはさすがにちょっと楽観的過ぎません?」


 その反応がいいものかも分からないのに。

 そんなことして、悪影響が出ない保証なんてどこにもないのに。


「……まだ納得できないか。これを見てみろ」

「別に納得してとかそういう問題じゃないですよ。っていうか、なんでイリアのノートを橘さんが持ってるんですか」

「使わなくなったものを篝彩希那に回収させた。いいからとにかく開いてみろ」

「勝手に持ち出してそれはどうなんですかね……」


 大体、俺だって見せてもらったからそのくらい知ってる。

 使わなくなったって、これ一番最初の頃の――


(……え?)


 このノート、こんなに色々書き込んであったっけ? しかもイリアの字で。

 問題と答えくらいだった気がするけど。しかもなんか妙にヨレヨレだし。


「これって……」

「見ての通りだ。貴様が帰った後も個人的な復習を続けていたと聞いている。誰の手も借りずにな」

「イリアが……」


 いつの間に。

 ……もしかして寝不足気味だった理由もそれ?


 誰の手も借りずにってのがまたイリアらしい。篝さん泣くぞ。


「そういえば貴様、学校での出来事を何度か話していたそうだな」

「そりゃまあ、少しは。でもそんな、面白い話なんてほとんどできませんでしたよ」


 キレた美咲のことなんて聞かせられないし。

 どこかの誰かさんの罵倒なんてもっと聞かせられないし。


「内容はどうでもいい。重要なのは貴様がその時間この拠点にいなかったという事だ」

「……それって、つまり」

「自分も同じように学校に通えばその時間も離れずに済むと考えたのだろう。短絡的だが確実な手段だ」


 いや通えばって。そんな簡単に。


(読書も勉強も全部そのため? そんな……)


 言ってくれたらいいのに。

 もっと早く言ってくれたらよかったのに。


「これまでの貴様への態度を考えればその可能性は十分にあり得る。むしろそれ以外に考えられん。あの小娘が学園生活に憧れを抱くように見えるか?」

「そろそろ一発グーいいですかね。……いやまあ、確かに今はまだそういう感じじゃないかもしれませんけど」

「つまりはそういうことだ。欲求が貴様ありきだろうと今は構わん」

「今はって言いますけど、今だって一歩でも間違えたら……」

「何のために貴様たちの面倒を見ていると思っている?」

「……そりゃどうも」


 いざとなったら矯正してくれるんですか。そういう認識ですか。……悪かったなこんちくしょう。


「それを見た上でまださっきと同じことが言えるか考えてみるといい。幸い、貴様の学校の夏季休業期間はまだあるからな」


 そんなこと言われても。

 まだって言うけど、もう終わりが近いのに。

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