022
「おーおー、やるじゃねぇかあいつ。なァ?」
『呑気なことを言っている場合か貴様……! 例の巨鳥はどうした?』
「んなもんぶちのめしたに決まってんだろうが。俺を誰だと思ってやがる」
『……その言葉に妙に納得した自分が腹立たしくて仕方がない』
「ハッ、だろうな」
この俺が言ってんだからそうに決まってんだろ。
あのバカ、デカいだけの雑魚にてこずりやがって。
殴ってやりゃ簡単に吹き飛ぶじゃねぇか。
「んで? 飛び回ってるあの馬鹿ども回収して来いって?」
『そこまでしなくていい。落ちそうになったら止めろ。雲を突き抜けそうになっても止めろ。くれぐれも――』
「わーってるって。ったく、駄々甘に心配症とかとんでもねぇコンボだな」
天条、何か言ったんじゃねぇだろうな。悪化させやがって。
ほんと面倒くせぇなこいつ。
天条のこと最初に見つけた時も魔力の少ないやつが戦って命を落とすくらいなら関わらせない方がいい、とかなんとか言いやがって。
それならそう言っとけよ。ああいうバカの反応くらい分かってんだろうが。
『誰がだ、たわけめ。貴様の様にいたぶる趣味がないだけだ』
「俺だってねぇよんなモン」
『篝彩希那が天条の身を案じる程だったそうだが? 貴様を交代させられないかと相談も受けた』
「あン? カガリ? 誰だそれ」
『……もういい』
誰だよ。名前だけ言われたって分かるわけねぇだろうが。顔出せ顔。
なんでそんなヤツに指図されなきゃなんねぇんだ。うざってぇ。
「んなことより、結局どこから湧いてきやがったんだよ。あのデブ呼び出した馬鹿は」
『もう少しまともな単語が使えんのか貴様は……』
「るっせぇ通じりゃいンだよ、通じりゃ。早く言えっつぅの」
作戦立てるときは『問題ない』って言ってやがったろうが。
あのクソヤロウ共にいいようにやられやがって。
まさか下らねぇこと考えてる阿保がいるんじゃねぇだろうな。
『……分からん。まだ何も分かっていない』
「どーせまたヌルい尋問してんだろ? あとで変われ。喋らねぇなら喋りたくなるようにすりゃいいだけだろうが」
『違う。本当に知らないと言っているんだ。貴様に変わったところでどうにもならん』
「アぁ?」
馬鹿の言うこと間に受けてるわけじゃ……ねぇか。いくらなんでも。
「どういうことだよ。あいつら仲良しこよしが唯一の取り柄だろうが」
『別に協調性が特段高いわけではないがな……』
「けど、独断専行なんてしたヤツがいたら速攻で粛清しに行くじゃねぇか。連中」
すぐ追いかけるから逃げきれもしねぇ。
クズはクズ同士お似合いなのによォ?
『だからこそ不思議がっているそうだ。そもそもあの場所に天条達がいたという事も知らなかったらしい。ダンボールの中身を見て目を丸くしていた』
「ハンッ、間抜けな野郎だ」
『問題はそこではない。……どう思う、神堂』
「どうもこうも、叩き潰す以外ねぇよ。裏切者がいようと、なんだろうと」
どうせほっといてもまたやらかすだろうしな。
『貴様がそいつを捕らえていれば、そう言った話も聞けたがな』
「んじゃ今度はしっかり追尾させろよ。海の底だろうと引き摺り上げてやっから」
『そこまではしなくていい』
「……ハッ、甘ぇな」
それっぽっちで今までのこと後悔するような連中でもねぇだろ。
「うぅぅ、よかった……本当に無事でよかったぁ~……!! 頑張ったねぇ、二人ともぉ……!」
苦しい。
とにかく苦しい。誰か助けて。
折角夜景を楽しんでたところを師匠に邪魔され――じゃなくて、一緒に降りてもらって拠点に戻れたと思ってたのに。
柔らかいとかそれどころじゃない。
シンプルに呼吸ができない。
「はな、して……!」
「よしよーし、イリアちゃんも怖かったよねぇ……もう大丈夫だよぉ……?」
「はな、して!」
師匠に連れられて返ってきたと思ったら誰かに飛びつかれたし。
篝さんだって分かってももうどうにもならない。こんな力強かったのかよ。
肝心の師匠はどこにもいないし。またどこか行きやがったなあの野郎。
仕事だけしてさようならってか。
「騒ぐなら他所でやれ、馬鹿共。公衆の面前で何をやっとるんだ貴様らは……」
「そう思うなら止めてくれません!?」
「この件は私の管轄ではない」
「中身までお役所っぽくならなくていいんですけどね!」
眼鏡の掛け方ひとつとってもそれっぽいってのに。
町の中を歩いていてもこう、違和感がない。師匠と違って。
黙っていれば、クールで仕事のできる人って感じ。黙っていれば。
「大きな声出しちゃだめだよー、桐葉くん。あんなことして疲れてないわけないんだからぁ」
「この姿勢がその疲れを加速させてると思うんですけど。っていうか、どこから見てたんです?」
冗談抜きで。いや、ほんとにどこから?
「観測用のカメラがある。……現場に向かわせたら何をするか分からなかったからな」
「いや、ここでそういうお約束のボケとかいいんで。そういうキャラでもないでしょ。どのタイミングから見てたのか聞いてるんですってば」
「ああ、その話か」
そりゃまあ確かにそっちも気になると言えば気になるけど。
あの翼で見下ろしたときも、人の姿なんてまるで見えなかったし。
あと橘さん、地味に酷い。
篝さんが何したっていうんだ。師匠じゃないんだから。
「篝彩希那、一旦そいつらを離せ。話が進まん」
「イヤです。話を聞くだけならこのままでもできます。……だよねー?」
「でき、ない。じゃま」
「待ってイリア。そこまでダイレクトに言っちゃ駄目」
「だって……」
「心配してくれてるのもきっと本当だから。な?」
確かにこうやって抱きかかえられるのはちょっとアレだけども。
「それより篝さん? 篝さんこそ、その姿勢で辛くないんですか? 床だってそんな……」
「大丈夫だよぉー。桐葉くんはその前に、自分の身体の心配しないと」
「そう思うなら猶更話してやらんか、馬鹿者」
「……どういうことですか?」
あ、緩んだ。やっと緩んだ。
でもまだ抜けられそうにない。すぐにでも捕獲できるようにしてるよこの人。
「あれだけの高さから落とされそうになった以上、検査もせねばならん。まして天条は慣れない魔法を行使したばかりだ。可愛がる暇があったらこの二人が休める準備でも整えてやれ」
「はーい……二人とも、後でねー?」
なんだろう。物凄い罪悪感。
何も悪いことなんてしてないのに。解放されても全く喜べない。
それでも今はとりあえず橘さんについて行くしかない。
「しかし、分からないものだ。何故あそこまで貴様等に入れ込むのか……」
「妹とか弟みたいな感覚なんじゃないですか。篝さん、俺達以外で一番年下なんですよね?」
「……それだけにはとても見えんが」
「そこは人それぞれじゃないですかね?」
知らないけど。篝さんにも事情があったりするかもしれないし。
「って、ちょっと待った。橘さん? 俺も今日ここに泊まるんですか? 美咲……幼馴染に遅れるとしか言ってないんですけど」
「あいつを遠ざけるために言っただけだ。いざとなったら自力で逃げろ」
「そんなところで自主性尊重しなくていいんですけどね?」
走れってか。また走れってか。しかも今度はこんな建物の中を。
何かちょっとくらいアイデア出してくれないのかな、この人。
「ところで天条、前から気になっていたが貴様、どうして幼馴染に連絡を? ご両親はいたって健康だった筈だが」
「なんでそんなことまで調べてるんですか。個人情報ですよ」
「いいから話せ」
「なんて横暴な」
って、いつものことか。師匠含めて。
「それに、大した話じゃないですよ? 昔からそんな感じだったから今もそうしてるってだけの話で」
「つまり、昔のまま変わっていないという意味でいいんだな?」
「これっぽっちもよくないですね」
どこをどう捉えたらそうなるんだよ。おかしいだろ。
わざと悪意のあるフィルターにでもかけたんじゃないだろうな、この人。せこいことしやがって。
今回は本当に何も問題行動なんてとってないのに。
自分から変な場所に突っ込んでいったわけでもないのに。
むしろ指示通りに動いたらいきなり襲われたんだぞ、こちとら。
もうちょっとくらい労いの言葉があってもよくない?




