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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Soaring Chick
43/596

021

「なんで、おちたの?」


 ひでぇ。やっと手も届いたのに。

 もう激痛が走りっぱなしの手でなんとかイリアと体を寄せ合ったばっかりなのに。


「なんでって……イリアが落ちていくのを見たら、居てもたってもいられなくて……ああもう言わせるなよそんなこと!」


 ああそうだよ。後のことなんてこれっぽっちも考えてなかったよ。悪いかこんちくしょう。


 でも本当にどうしよう。ヤバいよコレ。さすがにヤバいよ。

 こんな急降下、二度も味わいたくなかったよ。あの鬼畜トレーニングに感謝なんてしたくなかったよ。


「てれ、てる?」

「そんな言葉ばっかり覚えるんじゃありません。っていうかさ、いくらなんでも冷静すぎないイリア。まさか状況分かってないんじゃ……」

「しつれい」

「ごめんなさい」


 そりゃそうだよ。分かってるだろうよ。

 ……ちょっとだけでもいいからアイデア出す方も手伝ってほしいなぁ……


 イリアがあんなこと言ったのだって、俺を心配してくれたからだと思う。

 なんとなくだけどそれは分かる。言い方がアレなだけで。


 誰に似たんだろう。橘さん? ……出禁にしてもらおうかな。あの部屋。


「いっしょ、だから」

「……はい?」

「きりは、いっしょ。こわく、ない」

「………………そっか」


 ……怖くない理由、本当に俺だったんだな。


 危ないから一旦外に行けって言われて、あんな臭い道歩かされて。


 安全だと思ってたのに[創世白教]の大馬鹿が待ち伏せされて。


 化け犬をなんとかぶっ飛ばしたと思ったらバカデカい鳥に連れ去られて。


 山の中逃げ回った時より酷い状況かもしれないっていうのに、いつもとそんなに変わらないと思ってたら。


「……そんなこと言われたら、頑張るしかないよな」


 今からでもやるしかない。

 まだ形にもなってないけど、もういよいよ本当にそれしかない。


 しかもついさっき、無理だって言ったばっかりの方法。我ながらなんて単純。


(でも、さ……っ!)


 今は、今だけは飛ばなきゃいけない。


 美咲にアイデアをもらった天使……映画か何かで見たときみたいに。


 あちこち飛び回ってる鳥みたいに……ムカつくけど、あの化け鳥でもいい。


(飛べよ……!)


 翼。空を飛ぶための翼。


 白くて、俺達の身体をそのまま包み込めるくらい大きな翼。


 一度羽ばたけばそのままどこまでも高く、どこまでも遠くへ飛んで行ける力強い翼。


(飛べっての……!)


 この空を駆け上がっていける翼。

 もっとはっきり、しっかりしたイメージじゃないと。


「うで、ちから……」

「そのまま掴まってて! 大丈夫、絶対なんとかするから……!」


 背中から、ちょっと無理矢理付け足したみたいに、でもしっかりそこから生えてて、それが当たり前みたいなもので。


 手足とは微妙に違うけど、頭で思い浮かべたらその通りに動かせて。


 そういう疲れとは縁のない、ちょっと都合のいい力で。


「ッ、くぅ……!?」


 こんな強風なんてものともしなくて。


「……飛べ……」


 どんな姿勢も自由自在。前にも後ろにも、本当に思い通りに飛べて。


「ッ、飛べぇえええええ――――――っ!!」


 呼べばその瞬間に現れて、飛び上がっていける翼。


 このロクでもない状況なんてぶち破って、ついでにあの化け鳥もぶちの召せるくらい高くまで飛び上がれる翼。


 ちょっと光って、目立っててもいい。

 真っ直ぐ広げたら、腕よりも長いくらいの。風の流れなんて無視できるくらいに。


「飛べ、飛べ! 飛べってんだよこの! 飛べ!」

「きり、は」

「うん!? わ、悪い! 話はちょっと待った! イリアはとにかく掴まってて! さすがに次離れ離れになったらもう――」


「とん、でる」


「……へ?」


 トンネルなんてないけど。どんな言い間違い?

 それとも、富んでる? どこの誰の話だよ。羨ましい。


「だから、とんでる。うしろ、つばさ」

「……つばさ?」


 どこにあるんだろう。そんなもの。欲しいくらいなのに。

 その辺にあるなら今すぐもぎ取って、そのまま背中にくっつけてやりたい。


 丁度両目の端にちらっと見えたような、白くて大きな――


「………………ぁあああっ!?!!?」


 ウソ。生えてる。マジで? ほんとに?


 目を擦りたいけど擦れない。

 瞬きして頭を左右に向けたけど、やっぱりあった。

 俺が今思い浮かべた通りの翼が確かに生えてた。


「な、イリア……それ触れる? あ、無理しなくていいから。俺が捕まえておくから。絶対に」

「……やわら、かい」


 いつの間にこんな立派なものが。今の今まで全く気付かなかった。

 生えたならちゃんとひとこと『生えた』って言ってくれなきゃわからない。


 でもよかった。どうやって使ったのかさっぱり分からないけどよかった。

 このまま飛び上がっていけば、あの化け鳥に仕返しはできなくても落ちることは――


「…………ちょっと待ったこれまだ落ちてないか!?」


 全然、喜んでる場合じゃなかった。


 変わってない。状況も何も変わってない。

 言ってたのに。イリアが『飛んでる』って、ちゃんと言ってたのに。


(おいこらどういうことだよ! さっき言っただろどこまでも飛んで行ける翼って! ハリボテ生えたってどうしようもないだろ!)


 翼広げてブレーキにしろってか。そんなのでどうにかなるか馬鹿野郎!


「うごいてない、から」

「嘘だろおい!?」


 本当に風にあおられてるだけとかただ重量増えただけだろ!


「とん、で」

「したくてもできないんだって! くっそ、この翼がちゃんと出来上がってたら……!」

「できてる」

「……何が?」

「それ、できてる。ちゃんと、とべる」


 ……どこが?


 っていうか、どうしてイリアはそんなことまで分かるんだよ。

 どこかで見たことでもある? 勢い余って明らかにデカい翼みたいな魔法を?


 鳥と同じ構造になんて絶対なってないし。イリアの勉強もまださすがにそこまで進んでないし。


「だい、じょうぶ。きりは、できる」

「言ってくれるなぁもう……!」


 分かったよ。やってやるよ。どっちにしてもアウトなんだからあがいてやるよ!


「ふんっ! くぬぬぬ……!」


 本当に、俺が思い浮かべた通りなら。


 羽ばたくところを思い浮かべてやるだけでいい。


(どこまでも、どこまでも高く……)


 力なんて込めなくても、俺が念じればその通りに羽ばたいて、飛んで行ける。

 宙返りでも、V字ターンでもなんだってできる。


「うおっ……!?」


 浮いた。

 また、身体が浮いた。


 化け鳥の背中の上で吹き飛ばされそうになった時みたいに。

 イリアを追いかけて、もっと急げと思った時みたいに。


 でも、もっとはっきりと――浮き上がっていくような感覚だった。

 違う。少しずつだけど本当に空へ上がっていった。


「イリア……っ! これ、大丈夫か……!?」

「へい、き……!」


 信じられないくらい加速していって、またどんどん町が遠ざかっていくのを背中で感じる。


 今まで走って感じた風を切っていく感覚とは全然違った。

 叫び声みたいな音が耳に吸い込まれるように入って来る。


(飛んでる。今、本当に飛んでる……!)


 このまま一体、どこまで行けるんだろう。


 今どのくらいの高さを飛んでいるのかなんて分かるわけがなかった。

 見えない。振り返っても光の点が見えるだけで、どこに何があるのかさっぱりだ。


 でも、気持ちよかった。

 今まで一度も感じたこともないような、清々しい気分。


 冷たさも、向かってくる風の圧も、まるで気にならないくらい。


 どこまでも、本当にどこまでも高くへ飛び上がっていけそう。


 それに。


「イリアあそこ。ほら、下」

「……し、た?」

「見てみたら分かるって。こんなの滅多に見れないからさ」

「……ぁ……」


 自分達で飛び続けながら見る景色は、化け物の背中から見たものとなんか比べ物にもならなかったから。

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