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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Soaring Chick
39/596

017

「だいじょう、ぶ?」

「おそらくなんとか。あれだけ自信満々だったんだし大丈夫だろ」


 まさかこんなところに押し込まれるなんて思わなかったけど。


 暗いし。狭いし。臭いし。

 本当になんなんだこの通路。排水溝の上にでも敷いたんじゃないだろうな。


 これならダンボールの中の方がマシだった気がする。

 あっちはぶっ壊される用だって話だから入っても丸焼きか。


「へや、あんぜん」

「同感。でもまあ、篝さんも橘さんもああ言ってたし従うしかないだろ」


 師匠と合流する手筈になってるみたいだから、そういう意味ならまず間違いない。


 正真正銘、秘密結社の地下基地だって分かっても嬉しくもなんともない。

 こんな変な隠し通路まで用意してたなんて。襲われる前提かよ。


 篝さんに届いたメールは俺達をおびき出すためのもの。

 狙いはイリアだろうって、橘さんからも教えられた。


 この前の感じからして連中がやることなんて目に見えてる。

 かと言って、拠点の中に籠りっぱなしだとあれやこれやのリスクがあるらしい。


 それでも遠ざけるメリットがあるとは思えないんだけど。

 まさかあの拠点に誰か裏切者がいるわけじゃあるまいし。


「……ここ、いや」

「だよな。俺も嫌だよ。帰ったら苦情のお便り書いて橘さんのテーブルに置いてやろうか、いっそ」

「やる。いっぱいかく」

「……冗談なんだけどな?」

「やる」

「イリアもすっかりお冠かー……」


 目がマジだった。

 俺がやらなくてもやりかねない。言うんじゃなかった。


 分かるけど。こんな掃き溜めみたいな場所に放り込まれて腹が立つのは分かるけど。


 できればもうちょっと穏便にいきたい。

 あの人ああ見えて普段は信じられないくらい忙しいみたいだし。


 さすがにトップは他の人だろうけど、それなりの権限は与えられてるみたいだった。

 篝さんの話は勿論、これまでのあれこれを思い出せばなんとなく分かる。


 でもなんであんな若いのに任されてるんだろう。


 別に最年長ってわけでもないのに。二〇代っぽいし。

 働き盛りどころか生え際が心配になりそうな年齢の人もいたよな。確か。


「まあまあ。そんなに不満なら後でまたさっきのゲームでもやってストレス発散すればいいじゃん。他の車を全部嫌いな連中が運転してるとでも思ってさ」

「でも、きりは、おとしてる」

「俺の前を走る方が悪い」

「……うしろ、いく?」

「リアルの話じゃないから。あと、あんまり離れないで」


 イリアを先に行かせるつもりなんてない。


 狙われるって分かってるのに、そんな危ない真似させられるわけがない。

 いまだって後ろから誰が来るかも分からないのに。


 そういう意味ならこの場所は正解だったかも。

 隠れられそうな場所なんてないし、俺達以外の足音がしたらきっとすぐに分かる。


 何より一本道だ。

 今までと違って、偶然探索してた連中と鉢合わせる心配もない。

 滅多にないって橘さんは言ってたけど嘘だろあれ。


 これで鼻を覆いたくなるような臭いが無かったらもっとよかったのに。

 せめてもうちょっと短かったら。


 どういう工事したんだよ。この臭さに花が慣れたらどうするんだ。

 トロッコくらい置いてくれてもいいだろ。さすがに。


 もうどれだけか歩いたか分からない。

 とりあえず、学校行くまでの方が絶対に楽。色々な意味で。


「……ここ?」

「みたい。この梯子、冗談抜きで下水道か何かだったんじゃないだろうな……」


 やっと辿り着いた突き当り。


 右にも左にもスイッチとか、非常口みたいなものも何もない。

 あるのは目の前の梯子だけ。暗くて上もよく見えないから先のことはさっぱりだ。


(まさかマンホール開けろとか言わないだろうな……)


 不安だけど、登るしかない。

 とりあえず俺が先に――


「ん」


 行こうとしたのに、服の裾を引っ張られる。


 振り返ってみると、やっぱり犯人はイリアだった。

 眉をピクリをも動かさずに、綺麗な黒い瞳で見られて思わず固まる。


「イリア? 出来ればその手は放してほしいんだけど。危ないだろ?」

「……のぼれない」

「な、なんて? ごめん、悪いけどもう一回お願い」

「のぼれない」


 マジですか今度はそのパターンですか。


 でも、考えてみればおかしな話でもなかった。

 今までそんなアスレチックめいたものに挑戦したことなんて一度もない。拠点にもない。


 俺のトレーニングも見学するだけで混ざろうとはしなかった。


 何なら山の中で走り回ったあと、イリアが運動らしい運動をしてるところ自体まるで見てない気がする。

 こんなことなら簡単なやつだけでも誘ってみるんだった。


「のぼれ、ない」

「大丈夫聞こえてる。三回言わなくてもちゃんと聞こえてるから。……えぇ?」


 どうしたらいいんだろう。

 そもそも登れないんだから、先に行ってもらうわけにもいかないし。


 橘さん達もそのくらい考えといてくれよ。仕事だろ。

 ……そもそもこんな梯子、美咲でも難色示しそうな……


(……あっ)


 やるか。やるしかないか。


 正直めちゃくちゃ危ないけど、イリア一人行かせる方がもっと危ないし。

 丁度預かった紐もある。って、これに頼るようなことがあったらおしまいか。


「どうか、した?」

「した。滅茶苦茶してる。ちょっとこっち」

「?」


 分からないのも予想通り。

 今のやりとりで分かるのは美咲くらいだろうし。


「ちょっと失礼しますよ、っと」


 この体制はある意味、俺にとっても都合がよかった。

 すぐに背負いやすいし。あとは簡単に紐で結びつけておけばいい。


「……!?」

「大丈夫。このまま背負って登るつもりだから。しっかり掴まっておいてくれよ」

「ぅ……? ぇ……!?」

「落ち着いて。落ち着いて。ああもう、懐かしいなあこの感じ」


 最近はすっかり慣れてたからちょっと意外だった。


 まさか今更こんなことで驚くなんて。

 昨日なんて引っ付いたまま寝そうな勢いだったのに。このくらいで?


 それでもしっかり俺の肩を掴んでくれてる。

 これなら落ちる心配もない。


「おち、ない……?」

「落ちない落ちない。さ、行くぞ……」


 軽くぶら下がってみたけど、身体のバランスも問題ない。

 若干肩が痛いけどそれだけだ。


 一段、もう一段。

 錆びかかった梯子を掴むと、その度にザラザラした感触が返ってくる。


 足の方も力の込め方を間違えたらいつ滑ってもおかしくない気がして仕方ない。


 気が付いた頃には地面も遠くて、イリアの力がまた強くなる。


 気なんて抜けない。

 鍛えてもらってるおかげで落ちることはないけど、上に行くほど身体を後ろに引かれる。


「いたく、ない?」

「師匠のあれこれに比べたら軽いって。……本当、あんなのに比べたら」


 空から放り投げられたときはさすがに心臓止まるかと思った。


 いるって分かった上で[創世白教]とやらせたり。


 攻撃されないだけ何倍もマシだ。

 上に近付いて、段々身体も慣れてくる。


 鉄の蓋に手が届くまでそう時間はかからなかった。


 イリアに首に手を回してもらって、右手で何とか開けにかかる。


 それがもう馬鹿みたいに重かった。

 押せば押すほど手首が悲鳴を上げる。


 開けるだけでも何分かかったことか。


「っ、ふぅ……なんだよこれ、なんでやたら重いんだよ……」


 なんとか這い上がったけどもうクタクタだ。


 よく見たら雑草まで生えてる。

 土も乗せてたのかよ。そりゃ重いわ。


「たて、そう?」

「あー、ちょっと待って……ふぅ、はぁ……っし、回復ぅ……!」


 こんなところで弱音なんて吐いたらまた師匠に叱られる。

 あとはもう、師匠と合流してそのまま帰って終わり。それだけだ


「……くら、い」

「極力明かりは使うなってさ。まあどうせすぐそこだろうし、焦らずゆっくり――」


「ご苦労なことですねぇ」


 突然、視界がブレた。


「……え?」


 木が横になってる?


 イリアは?


 左耳の冷たい感覚は?


 目の前の茶色は何だ?


「い、や……!」


 倒れた。倒された。

 後ろからぶつかられたせいだって気付いたのは、イリアの悲鳴が聞こえて来た時。


「そう邪険に扱わないでもらいたいものです。私もお務めでなければこのようなことはしませんよ」


 不愉快極まりない白ローブの姿を見つけたまさにそのときのことだった。

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