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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Soaring Chick
38/596

016

「橘さん! これって……!」

「貴様が想像している通りだ。そのままそこで待っていろ。直に終わる」


 そんなこと言われたって。


 文句を言う間もなく橘さんはどこかに行ってしまった。


 あの警報の音は篝さんに教わった。

 またどこかに[創世白教バカ]が化け物引き連れて現れたんだろう。


 でも、本音を言えばちょっとだけ安心してた。


 今までは向こうがいきなり目の前に現れて襲って来たから余計にそう思う。

 組織の人からしてみればこっちが普通なんだろうな。やっぱり。


「……また、出た?」

「みたい。大人しくしとけってさ。これじゃ帰るのも遅れるな、きっと」

「れんらく、する」

「分かってる分かってる。今日でよかったよ本当に……」


 昨日だったらまた美咲を待たせてたから。

 今日は母さんたちも遅いみたいだしなんとかなるだろ。

 折角だし夕食も食って帰ろうか。


 師匠がいれば片付くだろうけど、今はどこかに行ってるみたいだし。

 どこでもひとっとびだろうから場所も分からない。


 なんか前に『各地を飛び回ってる』とか言ってたけど、まさかここから?

 ……あり得そうなのが嫌だな。


「ごめんね二人とも。放置しちゃって。……あ。もしかして二人きりの方がよかった?」

「こんな状況じゃなかったらそれも悪くないんですけどね。ちなみにどこへ?」

「ちょっとした野暮用だよー。そんなに気になる?」

「まあ、少し。最近の篝さん、少し眉間に皺が寄ってましたから。な?」

「しら、ない」

「おいおいそんな……え、冗談だよな?」

「しら、ない」


 マジですかそうですか。


 言われてみればイリアはそんなに気にしてなかったような。

 俺のちょっとした怪我でもすぐ気付くのに。もうちょっとくらい興味持てって。


 ……っていうか、不貞腐れてる?


「…………」

「篝さん? 篝さーん? そんなに目を丸くしてどうしたんですか? ……聞こえてます?」

「聞こえてるよぉ。桐葉くんがずっと私のこと見てたってー」

「ちゃんと聞いてそれならすぐ耳鼻科行って診てもらった方がいいと思いますよ」


 ない。さすがにない。


 イリアの事ならまだ分かるけど。

 それもあくまで拠点にいる間だけだし。それ以上は物理的に無理。


「冗談だよぉ。ちょっとびっくりしちゃってー……私、そんなに怖い顔だった?」

「何もない場所を睨んでることなら何度か」

「ちなみに、いつからぁ?」

「三週間くらい前……ですかね? あのヘンテコ機械に放り込まれるようになった頃だと思います」

「もっと早く言ってよー!」


 だって考えごとしてると思ってたし。

 邪魔しない方がいいなって思ってただけなんだけどな。


 イリアも背中を叩かないで。痛いから。それ地味に痛いから。


「でも、ほんとに見てたんだねー? そんなに気になった?」

「そりゃ気になりますよ。俺達の件で色々考えてもらってるわけですし。でも確かに、もっと早く言うべきでした。すみません」


 タイミングが難しい。

 ドタバタしてたのはあるけどさすがに長すぎた。


「あ、謝ってほしいわけじゃなくてぇ……むしろ逆っていうかー……」


『――別動隊を発見! 手の空いている者は急行せよ!』


「……なんで邪魔するかなー……」


 篝さんは何か言いたげだったけど、っそれどころじゃなかった。


 別動隊って。

 そんなのありか。どれだけいるんだよ。


 この前一斉にとっ捕まえたのはどうした。他所から来たってか。

 セキュリティガバガバかよ。


「これ、いかない?」

「え? ああ……俺達のことがあるから残ってくれてるんだろ。ですよね?」

「んー……そのつもりだったんだけどぉ……」


 けど?


 なんだろう。すごく不安になる言い方。

 イリアもそろそろ『あれ』とか『これ』とか言うの止めろって。


「ね、二人とも」


 篝さんは何故かケータイを見てた。

 電話がかかって来てるっぽいのに、開きもせず無視を決め込んでる。


 誰だろう。師匠か橘さん?

 ……さすがにあのデタラメオーバースペックも頭の中までは読めないよな?


「ちょっとだけ、我慢してもらってもいーい?」


 でも篝さんの真剣な表情を見て、これ以上バカなことなんて考えられるわけがなかった。






「はぁい、通りますよぉー」


 台車を押す篝。

 荷台に積み重なったダンボールはテープで固く繋ぎ止められていた。


 この日は本来、荷物の搬入が行われる予定もなかった。


 まして非常事態の真っ只中。

 すれ違う組織のメンバーの表情も歓迎的なものではない。


 奇異の視線も構わず台車を押し続ける篝も、さすがに足を止めなければならない場所はあった。


「え? あっと……」

「篝です。篝彩希那。ちょっとあの子達が使った物の片付けがあってー」

「なるほど。これは失敬。どうぞ。大変ですね」

「いえいえー。どうもぉ」


 にこやかな笑みを浮かべながら、現在使われている倉庫とは無関係の方へと向かう。

 一つ目の角を曲がった今、見張りの青年から篝の姿は見えなくなっていた。


 拠点の構造を把握している篝の足取りに迷いはない。


 右折と左折を繰り返し、時には長い直線を突き進む。


 そうして最後、動く歩道に台車と乗った。


 その時、またしても篝のポケットからアップテンポなメロディが流れ出す。

 流行りのドラマの主題歌だ。


「……了解」


 送られたメールを一瞥した篝はすぐに携帯電話を仕舞い込む。


 明かりもほとんどないトンネルめいた空間の中、一方通行の床は全身を続けていた。


 やがて辿り着いたのは、赤いランプに照らされた鋼の扉。


 そこは[アライアンス]が保有する地下駐車場に繋がる隠し通路だった。


 駐車場の利用者は[アライアンス]のメンバーだけではない。

 辺鄙な場所にあるため決して多くはなかったものの、利用する民間人もいない訳ではなかった。


 外からの侵入はこちらも不可能。

 魔法や兵器で破壊しようものならすぐさま拠点に伝わるようになっている。


 幾つもの認証を通り抜けた篝。

 乗用車が並ぶ地下駐車場には先客がいた。


「ご苦労様です。篝彩希那さん。何故あなたがこのような場所へ?」

「あなたこそどちら様ー? 見た覚えがないんだけどー……」


 小首を傾げ、篝は働き盛りと呼べそうな年齢の男を見やる。


 スーツに身を包んだその姿はサラリーマンにしか見えない。

 しかし男は、紛れもなくその身に魔力を宿していた。


「それはそうでしょう。あなたのことはこちらで調べただけですから」

「有名になるような事なんてしてないけどぉ?」

「存じております」

「だったらぁ――」


「我々もあなたに用はありませんから」


 突如、爆ぜた。


「きゃっ……!?」


 台車の真下に浮かんだ赤い魔法陣。

 それを篝が認識した時にはもう、何もかもが終わった後だった。


 連続した爆発。

 既に台車も、段ボールも残っていない。


 燃え盛る炎の中、真っ黒に焦げた物体が二つ、横たわっている。


「用があるのはこの箱の中身だったのですよ。馬鹿ですねぇ。こんな見え見えの方法で運ぶなんて」

「っ……」

「もう遅いですよ。底と蓋を切り抜いたダンボールを重ねたんでしょう? あのサイズ……中学生くらいの子供であれば()()入りますよね?」


 男の傍らには漆黒の怪物の姿があった。


「さあ、おい来なさい。跡形もなく引き千切るのです。例の少年は後回しで結構」


 男は[創世白教]の人間だった。

 トレードマークとも言える純白の外套は、このためにあえて纏わなかったに過ぎない。


 篝の携帯に届いたメールは、男が[アライアンス]のメンバーの携帯電話を奪って送ったものだった。


 他にも複数の個所に信徒がそれぞれ待機していた。

 どこから連れ出されても仕留められるように。


「……どうしたのですか? 早く千切りなさい!」


 完全なる勝利を確信していた男。

 しかし、引き連れて来た怪物たちの様子がおかしい。


 本来であればものの一分で追える筈の作業が未だに終わっていない。

 こんなことはあり得なかった。あってはならない事だった。


「……無理だよぉ?」

「……どういうことです?」

「こういうことだ」


 突如、場内が照らされる。


「あはぁ、見え見えはどっちだろうねー? こんな罠に引っかかるなんてー」

「貴様等のお遊戯もそこまでだ。……観念して投降しろ」

「馬鹿な……!?」


 そこには既に、橘を含めた[アライアンス]のメンバーが五人も待ち構えていたのである。


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