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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Soaring Chick
26/596

004

「くぁ……」


 眠い。


 柔らかいカーペットの上。

 頭を預けたベッドの主は未だに穏やかな寝息を立てていた。


(ほんと、すやすや眠っちゃってまあ……)


 それでも手はしっかり握られたまま。

 少しでも離そうとすると途端に強く握りしめられる。


 いつもなら師匠のトレーニングに間に合わせるよう起きる時間。

 朝日もないのにこれだ。身に染みついた習慣が今朝ばかりは恨めしい。


 昨日だって何時に寝たかも分からないのに。

 逃げ回って、身体洗って、何とかこの部屋まで戻って来て……マジで何時に寝たんだか。


 部屋の中からガラスの向こうは見えない。

 でも誰か一人くらい入るんだろう。部屋には入りたくても入れないだけで。


 昨日の夜もそうだった。

 橘さんが中に入ろうとしただけでも呻き出す始末。結局そういう方向で話もまとまった。


 俺だけは例外的にとことん信頼されてるらしい。ちょっと重いくらいに。

 そりゃあ師匠もあんなこと言いたくなる。


(……そういえば)


 一番の問題がまだ残ってた。


 幸い今日は休み。だから学校に行くかどうかで揉めることもない。

 でも、でもだ。昨日のマジギレ電話が何も解決していない。


(怒ってないわけないしなぁ……マジでどうしよう)


 朝にも家に突撃してるかも。

 昨日寝ぼけながら母さんにだけメールしたけど、これからどうなるか分からない。

 そういえば昨日、母さんも何か言ってたよな。美咲がどうとかって。


 まさかここで生活するわけにもいかないし。

 夏休みに入ればまあ、色々と理由をつけてそれも出来たんだろうけど。


 大体あと二週間。さすがにこれから毎日自主休校なんてできっこない。美咲が怖い。


 でもこの子に来てもらうなんてさすがにできないし。

 っていうか橘さんから一蹴されて終わりだろう。記憶が戻ればいいんだけど。


(ちょっとごめんよ、っと)


 とにかく美咲にメールだけはしておかないと。よくもやりやがったな昨日の俺め。


 あの子の手だけは離さないように。

 起こしたら悪い。折角こんな気持ちよさそうに寝てるのに。


 その辺りも考えて手が届く範囲には老いておいたから――


「ひぇ……」


 開くんじゃなかった。開くんじゃなかった!!


 着信履歴には綾河美咲、綾河美咲、綾河美咲――上から下まで美咲の名前。

 メールもほとんど同じようなもの。スパムの方がまだマシ。そんなレベル。


 録音メッセージが一〇件。

 最初は怒り半分、気遣い半分だったメールも段々心配が増えてた。

 でも日付が変わるくらい――丁度母さんにメール出した辺りを境に一気に雰囲気がガラッと変わった。


 マジもマジ。大マジのキレモード。読み上げるのも怖い。

 段々『です・ます』調に変わっていって、仕舞いには妙に不穏な絵文字が一つのメールが何通も。


 爆弾とかドクロとか。

 包丁がここまで怖く見えるのも珍しい。


(やだよこれ。どうしたらいいんだよ)


 こんな状態の美咲にどう連絡しろと。

 思いついたアイデアも最終的には『BAD END』の文字以外見えなくなる。


 でもこれ、絶対に時間が経てば経つほど怖いことになるパターンだ。

 せめて今の内に、特大の雷を叩きつけられるくらいで済むうちに諦めないと死ぬ。

 肉体的にはともかく。


(ええい、ままよ)


 説教なんて知ったことか。

 これも度胸試しだやってやる。この短期間で何回やったと思ってるんだ。


「『昨日はごめん。真面目な相談もあるって言われたから無視できないと思ったんだよ。何もなかったから大丈夫。ちゃんと帰ります。本当にごめんなさい』っと……ふぅー……」


 とびっきりのため息が出た。


 こんなに緊張したメール、今までに一度もない。初恋かよ。

 でも送った。確かに送った。これでとりあえずあとは返信を待つだk


 ――prrr!!


「ひぅっ!?」


 ……思わず変な声出ちゃったじゃん。


 いやでも、これは違う。俺は悪くない。事故だ事故。

 まさか秒でかかって来るなんて思わないし。マナーモードのままだと思ってたし。


 大体なんでこんなに反応速いんだよ。待ち伏せでもしてたのかよ。


 メロディは鳴りやまない。心なしか、音が乱暴になってる気がした。

 取らなきゃ今度こそヤバい。分かっていても手が震える。


「すぅ――はぁ……よしっ」


 もういい。なるようになれ。

 美咲もまさか電話越しにビンタなんてできないだろ。

 ビンタの方が何万倍も可愛いけど。


「も、もしもし」

『おはようございます天条桐葉君』


 聞いたことのない冷たい声だった。

 一瞬、一瞬だけだったけど本気で心が折れそうになるくらい。


 背筋が凍るなんてもんじゃない。

 心臓がきゅっと、締め付けられるような感じがした。


 電話越しでこれなんだから目の前にいたら本当にショックで気絶くらいはしてたかもしれない。


「あの、美咲? 昨日の電話とメールの山は……」

『なんのことでしょう。天条桐葉君』

「本当、俺が悪かったから。ごめん。ごめんなさい」

『どうしたんですか? 何か怒られるようなことをしたって自覚があるんですか?』


 やばいやばいやばいやばい!!


 こんな時期なのに体が震える。

 冷房なんて必要ない。そんなのなくても背筋が震えあがってる。


「あ、ある。あります。昨日の電話と、外泊の事後承諾と、連絡の無視と――って、我ながらメチャクチャ酷いなこれ」

『何を一人でブツブツ言っているんですか? 聞こえませんよ?』

「それはないだろさすがに」

『口答えしないでください』


 取り付く島もないわこれ。


 どうしよう。本当にどうしよう。

 このまま切ったらそれこそ本当に終わりだし。助けて。誰か助けて。


『……人の気も知らないで』

「え?」

『な、なんでもありません。言いたいことはそれだけですか?』


 今のって――


(あっ……!)


 そうだ。それだ。そのせいだ。

 派手に走り回ったせいでそんなことも忘れてた。……そりゃバカバカ言われるわ。俺。


「ごめん」

『……そうですか。もうないんですか』

「違うって。やっと思い出した。そりゃ怒るわ。昨日、夕食そっちでご馳走になるって話だったのに」

『……知らない』

「謝って済む話じゃないことくらい分かってる! すっぽかしたことも、忘れてたことも、本当にごめん」

『……』


 これまでにもそういう機会はあった。


 もう中学生だから大丈夫っていくら言っても、両家の親が話し合ってそういう取り決めを作ってた。


 それでも最近はそういう機会も減ってて、久しぶりにそういう話になってたんだ。


「美咲も何か作ってくれてたんだよな。なのに、すっぽかすどころか忘れて……本当どうやって謝ったらいいのか……」

『……本気でそう思ってる?』

「思ってる。俺にできることならなんでもする。それで美咲が納得するなら」

『ふーん……なんでも』

「そこだけ強調するようにリピートしないで?」


 ないだろうけど。美咲のことだしさすがにないだろうけど。


『じゃあ、食べたくないわけじゃないんだ?』

「当たり前だろ。美咲何作ってもおいしいんだし。楽しみだったんだからな?」

『でも忘れてた』

「うぐっ」


 そうだけど。そうなんだけど。


『うそ嘘。もうさっきほど怒ってないから』

「具体的にどのくらい?」

『んー……一つ下?』

「それ聞いて俺はどう安心したらいいんだよ」

『自己責任です。諦めなさい』


 そりゃそうだ。


 でも、一安心。

 美咲にも心配かけまくったわけだし。

 何かお詫びとかした方がいいかなぁ……母の日過ぎたんだよな。


「んぅ……?」


 すっかり安心してた。

 だから、すぐには気付かなかった。


「きり、は……?」

「あ、起きた? ごめん美咲。ちょっと待ってもらっていい?」

『女の子の声……?』

「えっ」


 地獄耳かよ。じゃなくて!


「え、いや……妹さん、みたいな? うん。なんていうか、そんな感じ」

『ふぅん……』


 ……詰んだ。


『ねぇきっくん。もうちょっとだけ、お話しよっか?』


 誰か、タスケテ。

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