001
「あだだだだだだだだだだ!!?!?」
町の上をひとっとび。
「な、に、し、て、や、が、ん、だ、テメェはぁあああああっ!!」
倉庫みたいな場所に着いたと思ったら、身体が浮いた。
「勝手にチョロチョロ尾行した挙句! 連中とやり合っただァ? 無茶すりゃいいってもんじゃねぇぞこの突撃魚が!!」
絞まってる! 締まってますから! ギブ! ギブっ!!
「言ったよなァ? この俺がわざわざ説明してやったよなァ言ってみろ!!」
「マ、魔法、使ウナ……」
「んで、テメェがやったのは?」
「攻撃ノ魔法、デス……」
すごい。もう痛みしか感じない。
悪かったけど、あれは俺が悪かったけど!
やっと息が吸えると思ったら、今度は冷たい床の上。
なんだろう。学校の廊下みたいな感じ。
青っぽい床。白い壁。天井の蛍光灯。
どう見ても何かの通路だった。
縦でも横でも寝そべるくらいの余裕はありそう。……っていうか、苦しいから今すぐそうしたい。
「ったく! 油断も隙もあったもんじゃねぇ。少しは考えて行動しやがれこの大馬鹿ヤロウ。そこんとこ分かってんのか?」
「貴様が言えた話でもないだろう。神堂」
「げっ……」
……またなんか来たし。
しかもこいつかよ。よりにもよってあの眼鏡かよ。
「いきなり随分な挨拶だな。天条桐葉」
「すみませんね。殴られた相手と仲良くできるほど人間できてないんで。……忘れたとは言わせませんよ?」
「だろうな。知っている」
おいそこで止めるってどういう意味だ。
そもそもあの時は説明もせずに気絶させた向こうが悪い。
殴って悪かったなの一言もないのかよ。
「橘誠一。覚えるも忘れるも貴様の勝手だ。顔を合わせる機会など滅多にないだろうが、な」
「でしょうね。俺もそうしたいですよ。そんな相手にわざわざ自己紹介ありがとうございます。天条桐葉ですご存知でしょうけど!」
「……あの時とは大違いだな」
「そっちは悪い意味で変わってないですね」
「貴様のその生意気な態度が改善したら考えてやる」
「橘さんがその無駄に高圧的な態度やめたら自ずとこっちも変わりますよ」
ムカつく。ほんっとムカつく。
友好的の『ゆ』の字もない。
師匠といい、[アライアンス]ってこんなのばっかりなのか?
さっきの[創世白教]がひどすぎるだけでこっちも相当なんじゃあ……
「ハッ、右も左もくだらねぇ意地ばっかり張りやがって。似た者同士、いい組み合わせじゃねぇか」
「「誰がだ(ですか)!」」
「ほらな?」
ない。絶対にない。
どこ見てるんだよこの人。顔面の二つの黒いのは飾りか?
「……誰がこんな説明不足の横柄野郎と……」
「聞こえているぞ、天条」
「言えば少しは改善するかなって」
「私は横柄などではない」
「……説明不足の自覚はあるんだ、あれで……」
睨まなくてもいいじゃん。
自覚あるなら直せば済む話なんだから。
「そんなのどっちでもいいんだよ。勝手にやっとけ馬鹿ども。それより橘、ちゃんと用意したんだろうな?」
「所詮は急ごしらえだ。気に入るかは知らん」
「雨と風さえしのげりゃいいんだよ。どうだって」
師匠は師匠でまたそんな極論を。
雨も風も雷も弾き返しそうな人が何言ってるんだか。
っていうか、なんの話?
「そういやオマエ靴どうした。泥だらけじゃねぇかその足」
「え、今更ですか。あの子に渡しましたけど」
「天条、貴様……そんな汚い足で……」
「いや土足。ここ土足じゃないですか。あとでちゃんと掃除しますよすみませんね」
「やらなくていい。余計汚されては敵わん。神堂、後で外の洗い場に連れて行け」
「んなまどろっこしいことする必要ねぇよ」
師匠だって別に履き替えてないのになんで俺だけ。
「って冷たっ!?」
「動くなよめんどくせぇ。わざわざ泥取ってやってんだから感謝しろほら」
「はっ?」
洗ってくれてる? 師匠が?
見れば確かに、スライムみたいに変な見た目の何かが両足を包んでた。
何これ。ひんやりしてて超気持ちいい。夏場にめちゃくちゃほしい。
どうせなら三〇分くらいこのままでいたかったけど、いきなり消えた。跡形もなく。
(……マジかよ)
最後何やったんだ? なんか泥もろとも水が消えたけど。
「魔法って便利ー……」
「こんなものを魔法とは言わん」
「この程度で驚いてるから成長が遅ぇんだよ」
「言いたい放題ですかあんたら」
すみませんね素人に毛が生えた程度の未熟者で。
「いいから話せ。この拠点に泥を持ち込んだ理由を」
「仕方なかったんですよ。あの子履いてなかったんですから。靴も、もちろん靴下も。あのワンピースっぽい服一枚だけだったんです」
「あのうっすい布切れだけだったってか? んなバカな。どんな状況だよ」
「聞いて確かめるほかない。連中の事だ。何をやったか分からん」
同感。
ムカつくけど全面的に支持してもいいくらい。
あんまり無理矢理聞きたくないし、もうちょっと落ち着いてもらっ、て――……
(……マジ?)
「あの、ところでお二方?」
「あ?」
「何だ」
右ダメ、左ダメ、後ろ――全然ダメ。
「……さっきの子……どこに行きました?」
さっきのあの子がどこにもいないんですけど。
「あぁ? んなのその辺に――……いねぇな」
「言っている場合か! 貴様も探せ!」
「分かってます!」
見ず知らずの場所なのによく一人で行動できるなぁもう!
「おーい、どこ行ったー?」
……返事もなしかぁ。
色んな意味で早く見つけたいんだけど。
「大声を出すな。驚かせたらどうする」
「だからできるだけ棘のない口調を心掛けてるんですけど」
こんなのと一緒だし。
なんで師匠じゃないんだよ。
いや、あの人のペースについて行けるわけじゃないけど。ないけど!
「見つけた時の状況を思い出せ。隠れそうな場所の見当はつく筈だ」
「環境も何もかもが違うのに無茶言わないでもらえますか」
「そのくらい分かっている。その上で考えろと言っているんだ」
「なら先にそう言ってくださいよ。大体、隠れられそうな場所ならそっちの方が詳しいんじゃないですか?」
この場所のことも詳しいんだろうし。
俺に訊くよりそっちの方が早いだろ。
「いや、貴様の情報を元に探す。この場合、余計な先入観はかえって邪魔だ」
「そんなこと言われたって――」
――prrr!
『美咲』
やっべ。
「電源も切っていなかったのか。たわけめ。着信音で見つかったらどうする」
「さっきつけたんですよ。それより出ていいですか。あとが怖いんで」
「好きにしろ。終わった後はその角を右だ」
「ご丁寧にどうも」
とにかく出ないと。
また俺のケータイ、美咲の意思を読み取ってるし。
「ど、どう言ったご用件でございますでしょうか美咲様……」
『言わなくても、分かるよね?』
「……ハイ」
無理だこれ。どうにもならないやつだ。
電話越しでも相変わらずのプレッシャー。
さすが閻魔。超能力もお手のものか。……どうやって説明すりゃいいんだこの状況。
山の中で女の子見つけて追いかけっこしたなんて言ったら頭の方を疑われるのが目に見えてる。
それ以上説明しようと思ったら[創世白教]のやつらのことも避けられないし。
「いや、そのさ? ちょっと色々あったみたいな? もうこんな時間だし例のあの人の家に泊めてもらおうと思って」
『へー……じゃあきっくんの言う色々の具体的な内容、聞かせてくれる?』
「黙秘権を行使します」
『認められません』
ですよね。
なんとなくそんな気はしてた。
でも無理。いくらマジギレ美咲が相手でもさすがに言えない。
(かくなる上は――)
「あっ、やばい! 電池が切れそうだから話の続きはまた明日! じゃあおやすみ!」
『そんな今思い付いたような言い訳で――』
明日の俺にすべてを任せる。
やらなきゃいけないことに変わりはない。
精々頑張ってくれ。電源もオフだ。
それより今はあの子を見つけないと。うん、それが先。
早くあのメガネと合流してしまわないと。
「……って」
いないじゃん。どこにも。
右だったよな。絶対に右って言ってたよな?
「おーい、橘さーん? 暴力メガネー?」
こっちもかよ。
待ってみたけど部屋から出てくる気配もない。
ほぼ部外者同然のやつを放置って正気か?
(……もういいや。勝手に探そ)
置いて行った向こうが悪い。
なんか扉が並んでるし、案外あの子もこの中のどこかにいたりして。
最初は手前から。そのつもりだった。
「……ん?」
でも何故か、左手二番目の扉が目に留まったんだ。
他と違うところなんて何もないのに。
「まあどこからでも一緒、だよな……」
さすがにない、と思う。
なんとなく気になっただけだし。ちょっと見るだけ。
本当にそのくらいのつもりだった。
「ぁ、ぅ…………」
……マジですか。




