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変なヤツ

 ――第一印象は、よくもなければ悪くもなかった。


 中学に上がって新しくできた友達の幼馴染。

 ただのクラスメイトから、少しだけ関係が変わったきっかけもその時。


 天条への印象は、その日から一気に変わっていった。


 まず生意気。全体的なこともそうだけど、成績がいいのが一番ムカつく。


 そこまで熱心に授業を受けてるわけでもないのに。

 先生にバレないように居眠りもしてた。美咲に起こされるところも見た。


 そのくせ試験になるとしっかり点数を取ってくるところがほんとにムカつく。

 そこだけは、よく天条と喋る三人と同じ気持ちだった。……あっちは勉強してないも原因みたいだけど。


 ああ言えばこういうし、余計な言葉を付け加えて言い返してくるのがムカつく。

 そういうところ以外はまともっていうか、真面目なところもあるのが余計にムカつく。


 いつもくだらない冗談ばっかり言うのに、美咲の係の仕事が大変そうな時は真っ先に手伝うところとか。

 テスト前にあの三人の勉強を見てたこともあった。一人で。文句ばっかり言ってたけど。


 美咲によく叱られてるのに、その美咲に一番頼りにされてる変なヤツ。同じくらい、美咲を頼りにしてる変なヤツ。


 ……天条には言えないけど、付き合ってないって聞いたときは驚いた。


 ただの幼馴染じゃないのは見てれば分かる。

 クラスの皆も口を揃えてそう言った。


 お互いが相手のことを、大切に思ってる……みたいな。変なところで中学生らしくない。



 ――だから、まさかどっちかから離れようとするなんて思わなかった。






「で、そろそろ吐いたら? そろそろ疲れてきたんだけど」

「無理。黙秘権を全力で行使する」

「天条にそんなのあると思う?」

「お前は俺のことをなんだと思ってるんだよ」


 そりゃあるよ。別に何もやらかしてないんだからあるに決まってるだろ。

 ……何もやらかしてない、は嘘か。訂正。


 いきなり昼休みに呼び出されたと思ったらこれだ。

 最近になってやっと復帰できたって言うのにこの女王様ときたら。


「だから、ちょっとした事故なんだって。本当に大したことない。うん。なんでもない」

「じゃあその事故について言えること喋ってみてよ」

「今もいろいろ捜査されてるのに喋れるかよ。何がどうなってるのか自分でもよく分かってないのに」


 あの男の行方とか。


 一応、逃げた可能性が高いって話だけは聞いた。

 ……あんなのを受けて平気とは思えないけど、師匠も『逃げた』って言うんだからさすがに間違いない。


 ――本音を言えば、それだけが不安だった。


 本当、あのときはまるで自分じゃないみたいだった。

 そのくらい、攻撃の一つ一つが強かった。あんなのを受けたらきっとひとたまりもない。


 ……起きて早々、逃げた可能性が高いって教えてもらわなかったらどうなってたか。


「じゃあ、年末に校舎が壊れたこととは関係ないんだ?」

「たまたま近い時期だっただけだって。違うことくらい深山も知ってるだろ?」

「近いどころか同じ日だったみたいだけど?」

「それを俺に言われても。何も知らないんだって。本当に」


 学校が、クラスメイトが渡されたのは組織が用意した偽の情報。

 そこまで用意しても、かなり苦しい言い訳になったんだと思う。


 ……篝さんも大学大丈夫なのかな。このくらいの時期に試験があるって聞いたけど。


 本当はそんなこと考えてる場合じゃない。

 場合じゃないんだけど、こうも粘り強く詰められたら他のことを考えたくもなる。


「……天条さ、ちゃんと言ってくれない? 何があったのか」

「深山が知ってる以上の事は話せないんだって。本当に。固く口止めされてるから」

「全然捜査が進んでないもんね? あれからなんの続報もないってどうなってるの」


 ……正直、予想外だった。


 美咲に迷惑をかけたことで色々言われるだろうって思ってたけど、ここまでなんて。

 そのためだけにいろんなニュースを確認したみたいだし。


「俺が今ここにいるってことで、ここはなんとか。……駄目?」

「それで見逃してくれるのは美咲だけよ」

「お前は美咲をなんだと思ってるんだよ……」


 あえて深く追求しないっていうところだけは同じ。


 でもさすがにそこまで甘くない。こんな言い訳で誤魔化せて堪るか。


 あの事件のことだけでもこれだ。

 中学卒業に合わせて(意味不明な)引越しをするって深山に話したらどうなることか……ちょっと、想像できそうにない。






「……はァ?」


 いつだったかの予想は、恐ろしいほどに的中した。どうせなら外れてほしかった。


 怖いったらない。師匠や橘さんにはさすがに負けるけど、さすがにこれは怖い。


「馬鹿なの? ね、馬鹿なんでしょ。一回見てもらってきなさいよ。頭」

「そこまで言うか……」


 ようやく行先も決まって、一年先に向けて準備を始められるようになった頃。


 正直伝えるのは不安だった。何を言われるのか気が気じゃなかった。

 それでもと思って伝えたらこれだ。こんなプレッシャー、マジギレした美咲以外から感じたことなんて一度もない。


「自分が何言ってるのか本当に分かってる? 引っ越しはともかく、親御さんがいないっておかしいでしょ。常識的に考えて」

「それはまあ、色々複雑な事情があると言いますか……」

「何よ。色々な事情って。誤魔化さないといけないようなことなわけ?」


 組織が対応してくれるのは、天条家と綾河家だけ。

 それも本来なら両親だけで済ませる筈だった。家族同然の暮らしをしていたからこういう対応が取られただけ。


 友達には俺の口から最低限説明しなきゃいけない。

 ……イリアの事もあるから、なんだかんだ納得してくれてたんだけど。皆。


「美咲には言った? まさか言ってないなんて言わないでしょうね。引きずり回すわよ」

「どこでだよ。止めろよ。その顔本気にしか見えないんだって」

「本気で言ってるんだから当たり前じゃない」

「……俺、今度からお前と話すときは防犯ブザー持ってきていい?」

「取られてもいいなら好きにすれば?」


 ……ここまで怒ったのは、深山が初めて。


 おかしいと思われるのは仕方ないけど、ちょっと意外だった。まさかここまでの反応が返ってくるなんて。


 あと怖い。発想が怖い。

 一体俺をどこで、どうやって引きずり回すつもりだったんだよ。


「……言ったよ。美咲には。一番最初に。必ず帰るっていう約束で」


 別にそんなに睨まなくても喋るっての。ちゃんと。納得してもらえないだろうけど。


「当たり前のことなんだけど。帰らない方がおかしいのよ。そもそも」

「……それに関してはちょっと言い返せない」

「それだけだと思ったら大間違い。まだ言わなきゃわからない?」


 ――その日だけでも、昼休みまるまる罵倒大会。


 旅立つ前日まで、深山は反対の立場にいたんだと思う。

 きっと、美咲が言わなかった分も。






 ――本当に、変なヤツだった。


 あんな時期に、いきなり町を出るとか言い出して。

 しかも、あの子と一緒。本当、わけわかんない。


 ……いつも、美咲と楽しそうにしてたくせに。




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