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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
My Hometown
179/596

022

「桐葉くん、荷物はちゃんと全部持ったぁ? 忘れ物はなぁい? 重いならちょっとだけ持ってあげよっかぁ?」


 駅の南入口にある駐車場。

 平日でも休日でも空きだらけの駐車場は、今日も相変わらずだった。


「大丈夫、本当に大丈夫ですから。……すみません。せっかくここまで送ってもらったのに」

「いいよぉ。お父さんとお母さんが来てくれてるんだもん。しっかり話しておかなきゃ……おかなきゃ……うぅっ」


 荷物なんてほとんどない。

 送れそうなものは殆ど郵送してくれた。向こうの人が搬入までしてくれたとか。頭が上がらない。


「いつでも遠慮せずに電話していいからねぇ? 体調にも気を付けてぇ、それからぁ――」

「勿論です。いざって時に動けなかったら洒落にもなりませんから。……なのでひとまず、今はそのくらいで」

「……心配性が過ぎるのもそれはそれで考えものですね」


 あとは現地に向かうだけ。その後はゆっくり休んでおくように言われてる。


「篝さんこそ大丈夫なんですか? 部屋の方は。書類整理とか、色々やることが増えたって聞きましたけど」

「今だけだよぉ。どこに何があるかちゃぁんと分かってるから大丈夫」

「そんな言われ方をされると微妙に不安になるんですけど」

「整理下手の常套句でしょう。いつものことですよ」

「イリアもそういうこと言わない」


 いくら篝さんがスルーしてくれるようになったからって。……全面否定はしないけど。

 別にダメージを受けてないわけじゃないんだから。慣れただけで。


「そのくらいにしておけ。出発の時間もある」

「それはそうですけどー……」


 とにかく、準備は万全。心配するようなこともほとんどない。


「先に行っておきなさい、桐葉。話しておきたいこともあるでしょう。これの相手は私がしておきますから」

「なんていう上から目線……」

「この期に及んで駄々をこねる相手にはこれで十分です。……渡しそびれてもいいんですか?」

「それは困る。……じゃあ、お願い。橘さんも」

「フン、言われるまでもない。……向こうでも気を抜くなよ」

「…………はい!」


 今までほとんど何もできてなかったんだから、せめてこのくらい。


 何かを待ち望んでいるような篝さんには悪いけど、こればっかりは後回しにできない。

 出発前になどか帰らせてもらったけど……なんていうか、物足りない。


(もう……今日なんだよな)


 思えばあっという間だった。

 言われたその日からも、戦いが始まったあの日からも。


 通勤ラッシュも、お昼の混雑もないこの時間。

 元からこの辺りでは大きい方だけど、こうも人がいないとやけに広く感じる。


「――どこで何してたの。電車に乗るのはあんたなのに」


 今こうしてここに居るのに、まだ微妙に実感が湧かない。


「向こうの都合で色々と。それにほら、まだ出発まで三〇分以上あるし」

「そういう考えはよしなさいといつも言っているだろう。向こうに迷惑をかけたらどうするんだ」

「いつもは色々とルーズなくせに……」

「それはそれ、これはこれ」


 父さんも、母さんも、桜華も見送りに来てくれてるっていうのに。

 春休みになったのは卒業生くらい。こんな日じゃなかったら、さすがに二人ともそろうことはなかったかも。


「いくらなんでも早過ぎだって。今日、他の用事は?」

「きっくんの見送りが先。……こんな日に出発しなくてもいいのに」

「向こうの都合でこの日にしてくれって頼まれちゃって。本当、申し訳ない」


 あと一日。無茶なお願いをすれば、そのくらいはなんとかなったのかもしれない。

 このエリアの拠点が本格的に再稼働しようとしているこの時期でなければ。


「もー……ひどいお兄ちゃんだよねー? おーちゃんの誕生日なのに」


 妹の一歳の誕生日の当日に出なきゃいけないなんてことは、きっとなかった。

 本来なら当日まで残るのも厳しいって言われたくらいなんだから。


「……ぁう」

「ほら、おーちゃんも起こってる」

「誰か余計なこと吹き込んでない? なぁ」


 そこまでしてもらって、こんなものを用意するのがやっとだった。


 でもさすがに、桜華もそんなことは言ってない。多分。自信はないけど。

 この歳で本当にそこまで言えるならきっと将来は安心だよ。色々な意味で。


「これでも一応、気にしてるんだって。……だからってわけじゃないけど……これ。桜華に」


 特に高校にいる三年間は、そのつもりがあっても好きな時期に帰ることなんて絶対にできないんだから。


「何よ、この袋。……どこの店? あんたの趣味じゃなさそうだけど」

「北の方のアクセサリー店。桜華のプレゼントに自分の趣味なんて出してどうするんだよ」

「アクセサリぃ?」


 中身を見る前からこの反応。

 何もそこまで変な目を向けなくても。柄じゃないのは自分でも分かってる。


 袋の中身を取り出してみても、父さんも母さんも相変わらず。

 疑いを隠そうともしない不思議な目。実の息子に向けるようなものじゃない。


「……ベビーリング?」

「それそれ。一歳の誕生日に贈ることもあるって聞いたから」


 小振りの、アクアマリンが埋め込まれた金色の指輪。

 必要なことだけ伝えて、後はほとんど店の人にお願いした。


「ちょっと、触ってみてもいい? ――見てみて、おーちゃん。おーちゃんにお兄ちゃんからプレゼントだって」


 橘さんも篝さんも、さすがにこういう話題には弱かった。経験がないんだから仕方がない。

 買う時にはついて来てもらったけど。俺一人で買えるようなものじゃないし。


「また随分、思い切ったものを選んだな……」

「そうじゃないでしょ。あんた、お金は? まさか出してもらったんじゃないでしょうね?」

「出世払いで。……バイトをしながら返すつもり。それを見越して予算も組んでもらったから」

「なんてこと……」


 組織の活動も、ある程度お金が払われるみたい。

 中学の頃のことは知らない。一応、向こうで通帳は渡してもらえるみたいだけど。


「まあまあ、落ち着いて。今回はありがたく受け取っておこう。返すのもそれはそれで失礼だ」

「だからってねぇ……」


 借金みたいでいい気がしないっていうのもまあ、分かるけど。

 父さんも母さんもそういうのは苦手だから。


「橘さん達の方から協力するって言ってくれたんだよ。直接お祝いはできないからって。今回限り」

「当たり前よ。二度目はないと思いなさい」

「怖っ……」


 元々は橘さんが出すって言ったのを気持ちだけ受け取らせてもらった。

 さすがにそんなところまで甘えられるわけがない。


「でもおーちゃん、気に入ったみたいです。もうすっかり抱え込んじゃって」

「……ベビーカーに載せておくのもそれはそれで危なくない?」

「仕方ないでしょー。預かろうとしただけで泣きそうになるんだもん」

「桜華が気に入ってくれたならよかったよ」


 父さんが見ておいてくれるみたいだから、大丈夫。


(…………うん、大丈夫)


 それにそろそろ、いい時間。


 近くの時計に目を向けてみても、やっぱり変わらない。

 丁度、向こうの話も終わったみたい。呆れ顔のイリアが見える。



「――それじゃあ……俺、行ってきます」



 話し込んでいたせいか、本当にあっという間だった。

 もうちょっとって、思わず欲張りそうになるくらい。


「たまには、連絡くらいしなさい。都合のいいタイミングでいいから」

「向こうには迷惑をかけないようにね。あくまでお世話になる側なんだから」

「ん、分かってる。……ありがと」


 もう、余計な心配をしなくて済むように。

 誰かが見えない影におびえる必要のないように。


「ほら、桜華。桜華もお兄ちゃんにばいばーい、って」

「ぅ……?」


 母さんに抱っこされながら手を振ってる桜華が大きくなる頃には、戦いが過去のものとして語られるように。


「はは……ありがと。じゃあ、桜華。いい子にしてろよー?」

「きっくんにだけは言われたくないと思うなぁ……」

「そこまで言うか」


 美咲が二度と、巻き込まれる事のないように。


「自分の行動、振り返ってみたら? 少しは分かるかもよ?」

「あ、それいただき。それは行きの電車でやることなんてないし」


 あの日みたいに出かけることができるのは、先のことになってしまうけど。


「着いたら、すぐに連絡するから」

「…………約束、だからね?」


 そのいつかが、遠い日にならないために。


「――行ってらっしゃい、きっくん」


 俺は今日、この町を出る。






 みるみるうちに遠ざかっていくホーム。


 これまで何度も見た筈なのに、全く知らない景色みたい。


「……少しは、いい時間を過ごせましたか?」

「おかげさまで。ありがとう、イリア」

「いいんですよ。私自身のためでもあるんですから」


 普段使わない、特急列車の指定席っていうことを差し引いても……やっぱり、そう思う。


「そういえば……イリアはよかったのか? 美咲と話さなくて」

「これが今生の別れになるわけではありませんから。向こうに着いたら電話をするつもりです。あなたの後で」

「そこまで気を遣わなくてもいいのに」

「約束を邪魔するなんて野暮な真似はしませんよ」


 隣にイリアがいてくれることを差し引いても、やっぱり同じ。


「それに……あの場所はあなただけのものです。私の入り込む隙なんてある筈がないでしょう?」

「……そこまで?」

「ええ、そこまでです」


 この日が来るって、ずっと前から分かっていた。必要なことだと思ってた。


(……自分の意思で、決めたことだから)


 寂しくないと言えば嘘になるけど、それでも。


「じゃあ、先に話をさせてもらおうかな……片付けは明日、ってことで」

「やることは山積み、というわけですか……」

「生活面以外でも、な」


 生まれ育った町の景色は、飛ぶように遠ざかっていった――




(Go To The Next Stage......)


 ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました。


 これにて『リヴァイバー・ゼロ』の最初の物語は幕引きとなります。


 中学時代、知らないことだらけだった桐葉。

 そんな彼が周囲の人々の影響を受けながら成長していくまでの道のり。

 様々な思いを胸に旅立つまでのお話となりました。


 この先、桐葉がどのような道のりを歩んでいくのか。そちらは今後の展開をお楽しみに。


 高校での日々が幕を開けるまで、これまで描かれることのなかったスキマの物語をお楽しみください。


 これからも、応援よろしくお願いいたします。

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