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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
My Hometown
168/596

011

(と、トカゲ人間……!?)


 現れた怪物を見て真っ先に桐葉が抱いた感想は『奇妙』の一言に尽きた。

 しかしその原因は外見的な特徴によるものではない。


 泥の混じったような質感の黒い身体にギラギラ光る深紅の眼。

 これまで現れた個体に共通する特徴を、桐葉達の前に現れた怪物もまた同様に受け継いでいる。


(……どうして、あんなにおとなしくして……)


 教団の操る怪物とは、桐葉にとってはただの破壊兵器でしかない。

 発見した標的へと襲い掛かり、相手の命すら奪う勢いで襲い掛かる存在。


 出合頭に何もしない。その点に限っても、桐葉の目には奇妙なものとして映った。

 彼らの目の前に現れた個体のように、静かに姿を現す事など滅多になかったからだ。


『――じょ、君。――、が……!?』

「緊急事態です! とりあえず後で改めて連絡しますから!」


 組織の側に確かめることすらできない。

 確かめようにも、突然の機材トラブルが組織との連絡を阻んでいた。


(さっきまではちゃんと使えてたんだけどな……っ)


 怪物の接近と無関係である筈がない。

 確かな証拠がなくとも、その時ばかりは桐葉も確信をもって言い切ることができた。


 ノイズが混じり始めたのは、怪物が現れるより少し前。

 桐葉が覚えのない感覚に戸惑っていた頃、突如として音に乱れが生じた。


(ここからの連絡が途絶えたら、組織もすぐにおかしいと思う筈だから……)


 怪物に通信を妨害する能力が備わっているという話は聞いたことがない。


 しかし先日、桐葉は非常によく似た状況を経験していた。

 橘の友人まで巻き込まれた一連の事件に置いて、通信機器が前触れなく使えなくなったことを思い出していた。


 未だに原因の分かっていない不可解な現象。

 突然の通信妨害は、今回の不調によく似ているものだ、と。


(先手必勝っ!)


 目の前の怪物が、機材の不調に何かしら関わっているに違いない。


「――焼き切れ、《熱線》!」


 怪物の消滅が、何かしらの変化をもたらすかもしれない。


 桐葉の期待が込められた灼熱の魔法は、ブレることなく一直線に伸び続ける。

 前かがみの怪物の首を貫くまで、ひたすらに真っ直ぐ突き進む。


「――捕えろ、《土偶》!」


 右手を真っ直ぐ突き出したまま、桐葉は空いた左手で空を掴み、勢いよく振り下ろす。


 たちまち周囲の土が盛り上がり、塊となって怪物の両足を抑え込む。

 一筋の灼熱の到達と同時に、怪物の自由を封じ込める。


「――仕留めろ、《火炎》!」


 桐葉の《熱線》が怪物の身体を軽々貫き、その身体に風穴を開けた。

 その瞬間に怪物を襲ったのは、燃え盛る赤い炎。


 他の魔法に阻まれることなく、《土偶》の魔法で身動きを封じられた怪物を焼き続ける。

 既に《熱線》は虚空へ消え去り、残された怪物の身体をひたすらに燃やし続ける。


 比較的早い段階で会得したこの魔法だからこそ、桐葉も他の魔法と比べて扱いなれていた。

 発動地点、範囲、火力――ただ撃ち出すのではなく、活用の幅を広げるべく始めた特訓は早くも実を結んでいた。


(このくらいやれば倒れそうなもの、なんだけど……)


 しかし、成果を前にしてなおキリハの表情が晴れることはない。


(動くわけでもないのに、どうなって……)


 桐葉の起こした炎は消えない。消すことができない。

 怪物が未だに消えることなく残っている今、魔法を止めるという選択肢は桐葉の中から消されていた。


 前かがみの怪物は、攻撃どころか足を一歩踏み出そうとすらしない。


 それでいて、他の怪物の様に消え去ることもない。

 まだ完全に倒したわけではないのだと桐葉が考えるには十分だった。戸惑いながらも、魔法を維持するしかなかった。


「…………?」


 そんな桐葉の姿を見た衣璃亜もまた、違和感を覚えた。

 しかしそれは、怪物に対するものではない。


「何をしているんですか。桐葉。雪が解けると言ったのはあなたでしょう。それなのにいつまでもいつまでも……もうそこには何もいませんよ?」

「へっ? は? いやいや、イリア。何言ってるんだよ。現にあそこに、まだ……」


 それは、いつまでも魔法を解くことのない桐葉に対して向けた言葉。


 しかし桐葉はその言葉によって、一層戸惑う。

 彼の目の前には確かに今も燃え続ける怪物がしっかりと映っていたからだ。


「…………そういうことですか」


 衣璃亜の呟きは聞こえても、その意味がまるで桐葉には分からなかった。


 周囲の雪も溶けることなく、いつまでも怪物はその場に在り続ける。

 異様な光景だという認識こそあれど、その原因は何一つとして分からない。


「……少し、じっとしていてくださいね」

「そんなこと言われても。今、動きたくても動けないから。あんまり危ないことは……」

「心配することはありませんよ。一瞬ですから」


 衣璃亜がそっと微笑み桐葉の頬に手を触れさせる。

 そのまま顔を近づけ、思わず桐葉が目を逸らしそうになったその瞬間、


「――ぃッ!?」


 焼け焦がすような電流が、桐葉の身体を駆け抜けた。


 突然の衝撃。何より、他でもないイリアの手による攻撃。

 二つの衝撃はたちまち桐葉の意識を飛ばし、彼が維持していた魔法もたちまち虚空へと消えていった。


「あっ、ちょっ……あ……!? イリア、なにして……!」

「それは私の……いえ、違いますね。あちらを見なさい。あなたが見ていた怪物のいた場所を。百聞は一見に如かず、と言うでしょう?」

「前に授業でもやったな、それ……」


 懐かしい記憶を追いやると、桐葉は衣璃亜の指示に従い視線を前へと向ける。

 今も怪物が炎に包まれている筈のその場所を。


「…………あれっ?」


 しかし、底には怪物の姿などどこにもない。


 雪の絨毯を破った二つの凸と、中途半端に溶けた雪。

 残されているのはたったそれだけ。怪物の姿は何度探しても見つからない。


「……さっき、いたよな? 一匹」

「ええ、いましたよ。確かに。あなたの《熱線》を受けてすぐに消滅してしまいましたが」

「いやいや、まさか。そんなわけないって。だってさっきまで、俺の魔法を食らっても平然として……」

「……やはり、そのように見えていたんですね」


 困り果てたようにため息をつく衣璃亜。


 しかし桐葉にはまるで分らない。

 先程まで確かにそこにいた怪物が突然消失した事で、すっかり困惑に呑まれてしまっていた。


「――あなたは幻を見せられていたんです、桐葉。おそらく、あなたが倒した怪物によって」


 故に、衣璃亜の言葉もすぐには呑み込むことができなかったのである。


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