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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Awaking Tempest
139/596

005

 桐葉が捉えたのは五匹。茂みの中から姿を現したのも、同じく五匹。


 それらは例外なく四本の足を持っていた。

 犬型や猫型と呼ぶには大きく、獅子と評せる程の迫力もない。


 丸々と太った大きな胴。短いながらも、木の幹のように太い四肢。

 桐葉の腰を僅かに超える程度の体高。やや長い頭部は確かに獲物を捕らえている。


(一体どうなってるって言うんだよ、今度は!)


 背中を合わせた桐葉と橘を取り囲んだのは一瞬のこと。

 大地を殴りつけるがごとく、怪物は桐葉に迫る。


 闇に覆われた森の中から、新たに赤目の怪物が姿を見せることはない。

 にもかかわらず、桐葉と橘の周りには未だに怪物が五匹いた。


 しかしその動きは、桐葉の目から見ても『速い』と感じられない程度のものだった。


「――ッはぁ!」


 怪物より一瞬後に動き出した桐葉が、右手の拳を正確に叩きつける。

 あえて怪物の動きを待つ余裕さえ、桐葉にはあった。


 しかし。


(またかよ、チクショウ!)


 怪物は倒れない。軽いその身を宙に躍らせながらも、よろめくことすらない。


(当たってただろ。どう見ても頭に直撃してただろ、今の……! )


 桐葉の拳を正面から受け止めたにもかかわらず、平然とした様子で二度、三度と彼らに牙を剥く。


「本当になんなんですかね、こいつら……っ! こんな堅かったですっけ!?」

「見ての通りだ。考えるのは後で構わん。とにかく隙だけは見せるな!」

「分かってます……!」


 再び触れ合う両者の背中。

 たちまち離れて、怪物へと向かう二人。


 桐葉を目掛けて一直線に突き進む怪物は、決して小回りの利く方ではない。


(前が、駄目なら――!)


 ほんの僅かなステップを刻むだけで、容易く進路を逃れられる。

 同時に桐葉は、ありったけの力で地面を蹴った。


「――潰れちまえ!」


 左右を重ね合わせ、固く握ったその手を叩きつけた。


(だから、堅いんだって……!)


 その結果地面を打ったのは、桐葉だった。


(手ごたえはある筈、なんだけどっ!)


 それでも、負けるものかと起き上がったその瞬間飛び掛かる。

 怪物が振り向くより早く。怪物の抵抗よりはるかに強い力で押さえつけ、そして。


 背に手を乗せ、膝を叩きつける。


 全身が痺れるような衝撃を味わったのは、やはり桐葉だった。

 握り拳を叩きつければ叩きつける程、痛みは桐葉へも跳ね返る。


「このっ、この……! 大人しく、しやがれって……のッ!」


 桐葉が味わっていたのは、たたんだ布団のような感触。しかし彼の拳が触れる度、桐葉を鈍い痛みが襲い掛かる。


 怪物を作り上げる黒紫も確かに、飛び散っていた。

 それでも怪物の動きが鈍ることはない。桐葉の拘束を抜け出そうと暴れ回り、力が強くなる一方。


「――退け!」


 しかし桐葉も、まだ周囲を見失ってはいなかった。

 橘の短い指示を受け入れすぐさま実行に移すだけの冷静さは残っていた。


 桐葉が立っていたその場所で爆発が起こったのは、彼が飛び退いた直後のこと。


 降り立つと同時に、背後から爆発を起こした張本人の気配を桐葉は感じた。


「貴様も理解しただろう。多少の攻撃では何の効果もない。攻めるだけこちらが損だ」

「他に誰もいなくてよかったですよ……本当に。あの車の運転手さん次第ですけど……」

「忘れろ。本人が現れるまではな。今は目の前のことにだけ集中していればいい」


 桐葉の行動も、決して無意味なものではなかった。


 桐葉が乗りかかり、押さえつけ、その手足を何度も叩きつけた個体は、魔法の爆発も相まって唯一微かに消耗していた。

 ほんの僅かだが、背中の一部も欠けている。


「そういうことなら、橘さん。俺、さっきやりあって一つ気付いたことがあるんですけど」

「言ってみろ」

「あいつら、見た目の割には軽いですよね?」

「何を巻き込むか分からん。却下だ」


「下に落とせば、ですよね? だったら大丈夫ですよ。橘さんが避けてくれるなら」

「何? ……おい、まさか貴様――」


 橘が言い切るより早く、桐葉は駆けだした。


「なーに、こっちもお前が目当てだよ……!」


 一度は最も肉薄し、今もまた自身へと向かって来る怪物目掛けて走り出した。


「――広がれ《飛翼》!」


 その背に白く光る翼を広げたまま。

 速度を緩めることなく向かい、飛んだ。


「こんにゃろッ……!」


 怪物の背に回り込むべく、小さく跳んだ。


(やっぱりこいつ、見た目の割には軽い……! このくらいなら、なんとか――)


 桐葉はひたすらに力を込める。

 両腕に、激しく羽ばたく翼に、もっと強くと何度も命じる。


「ぅ、お……っ?」


 浮かび上がっても気を緩めることなく、念じ続けた。

 中途半端な高さで怪物を手放す事のないように。橘の姿がほとんど見えなくなるまで、高く。


「あっ、おい暴れるな、暴れるなって! こんな高さじゃ……!」


 怪物の抵抗に、力負けすることのないように。


 怪物の全長は、桐葉の身長を優に超えている。

 全身をくねらせ暴れ続ける怪物の力は、地上での抵抗をはるかに上回る。


 抵抗の中、大きく持ち上げるだけでも桐葉にとっては至難の業。


「ちょっとくらい、大人しくしろよ……!」


 舗装された道路に、自身を見上げる怪物に叩きつけようと思えば、更に難易度は跳ね上がる。


「足りなくなる――……だろッ!!」


 そのために桐葉は、最初想定していた通りの勢いで投げつけることができなかった。


 桐葉の手を離れた怪物は落ちていく。

 重力に引かれ、真っ逆さまのまま落ちていく。その勢いを増しながら。


 翼のない怪物に姿勢を立て直す術などない。

 進む方向も、態勢も桐葉の手を離れた時のまま――最も近くの怪物に、ぶつかった。


 桐葉に連れ去られる直前、最も近くにいた怪物を巻き込み消え去った。


「っぜぇ、はぁ……お、思い知ったか、この野郎……」

「貴様はもう少し考えてから行動しろ。この大馬鹿者めが」

っ!?」


 桐葉の意図を察していた橘が、巻き込まれる筈もない。


 ふらつきながらも降り立った桐葉に向かって、説教代わりの手刀を落とす。


 桐葉の選んだ方法は周囲を、味方を巻き込みかねない危険なもの。

 途中、今にも手から落としそうになっていたところもしっかり橘の視界に収まっていた。


「あんな落とし方をすれば味方どころか市民迄巻き込みかねん。分かっているのか貴様は」

「今はいないのを確認したって言い訳……は、通じないですよね。分かってます」

「言い訳と分かっているならそもそも口にするな」

「ちょっ、痛い、四発! 分かりましたから! 反省してますから止めてくださいってば!!?」


 数を減らせたのは事実。

 しかし当然のことながら、その危険性を無視する理由にはならない。


「貴様と言うやつは……神堂に教わったか? 違うだろう。この前の反省をもう忘れたか」

「し、仕方ないじゃないですか。他に方法がなかったんだから」

「だからと言ってあんな危険な方法を選ぶな馬鹿者。そんなに処分を味わいたいか」

「うぐ……」


 桐葉の表情に、以前のような焦りはない。

 しかしある意味、余計に問題とも言える。


「……そもそも、まだ戦闘は終わっていない。気を抜くな」


 ――倒した後で、もう少し指導をしてやる必要があるかもしれん。


 深い深い橘のため息には、そんな思いが込められていた。


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