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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
True Feelings
124/596

005

「――また、明日」


 結局、帰り道まで一緒に歩いてくれた。

 そこまでしなくたっていいのに、わざわざ本当に家のすぐ傍まで。


「また明日。……サンキュ。ここまで付き合ってくれて。本当なら俺が送らなきゃいけないのに」


 早すぎないけど遅すぎない、丁度いいペース。あえて言うならちょっとゆっくり。

 なんてことのないやりとりをしながら、ごくごく普通の帰り道を歩いてた。


 暗くなる時間はまだまだ遠い。

 まだ、周りの景色もしっかり見える時間帯。


(……この前は、それでも狙われたんだし、気を付けないと――)


「そこ、まで」

「んぅっ!?」


 ゆ、指!? 息……なら、普通にできるけど!


「い、イリア? いきなり何して……」

「考えごと、禁止。最初の約束、忘れてない、よね?」

「いやいやいや、別に考えごとなんて……ちょっと暗くなるかもなーって思ったくらいで」

「それも、駄目」


 ……バレてる。この顔、どう見ても分かってるって顔だ。

 俺の考えてることとか、ほとんど大体お見通しって感じの顔。


「……ちょっと、気にしてた。またあいつらが何かやるんじゃないかって。ごめん」

「どう、して? 別に謝らなくていい、よ?」

「そういうわけにもいかないんだって。誤魔化そうとしちゃったんだし」


 しかもこんなに心配してくれてる相手に向かって。

 もっとしっかりしろって思ってる筈なのに、なんか上手くいかない。


「でも本当、無理だけはしなくていいから。あいつらだって、まだ諦めたわけじゃないだろうし……」


 あいつらがイリアを狙う理由もまだ分かってない。

 失くした記憶にヒントがあるのかもしれないけど、無理矢理に思い出したっていいことなんかない。


「平気。それに、嬉しい。今まで桐葉にやってもらってた、から」

「帰り道? いやいや、俺は付き添ってただけなんだけど。なんなら俺の仕事ほぼなかったんだけど」

「違う。全然。一緒に、いてくれて、嬉しかった。……桐葉は、どう? 嬉しい?」

「そりゃまあ、勿論……なんかその、安心したっていうか……少しだけ落ち着けた、みたいな……」


 ……なに言ってるんだろ。俺。こんな時に。


「安心……私と、同じ? 違う? もっと、いたい? ……どう?」

「回答拒否! ついでにこの話も終わり! 危ないから戻った戻った!」


 こんな時なのに。美咲もまだ目を覚ましてない――


「照れ、た?」

「あーあーそうだよ、照れてるんだよ! これ以上恥ずかしい姿とか見せたくないんだよ!」

「見てみたい。……見せ、て?」

「絶対無理! 篝さーん! お願いですからイリアと拠点に! 早くー!!」


 そうでもしないとイリアが止まってくれそうにないんですよ、今日!






「ず、随分攻めたねぇ? 桐葉くん、最後叫んでたよぉ?」


 後部座席。衣璃亜の反対側。

 ほんの数舜前までの出来事を振り返った篝には、やはり違和感があった。


 桐葉に強引に迫る姿が、どことなく普段の衣璃亜とはかけ離れているように思えた。


「…………」

「話くらい聞いてよぉ……」


 今は何も変わらない。車窓の景色を無言で眺める姿は、桐葉がいない時の衣璃亜と大差ない。

 車に乗せられ浮かべた不満そうな表情。それは篝にとって見慣れたものだった。


 しかし感情的には当然別。

 答えが返ってくることがないと分かっていても、無視されることを期待しているわけではない。


「…………駄目、だから」


 しかしその日の衣璃亜は、そこでも違った。

 しばらくの間をおいて、詰まったものを吐き出すようにそっと語り出した。


「今の桐葉には、このくらいしないと、駄目だから。……悪い方向にばっかり考える、から」


 篝の質問に対して、衣璃亜は明確な答えを返した。


「じゃあ、さっきの全部演技だったのぉ? 衣璃亜ちゃん、いつの間にそんなこと……」

「そこまで、言ってない。そんなこと、ない。全部、本心。嘘なんてつかない」

「だ、だよねぇ? びっくりしたぁ……」


 ほっと胸を撫でおろしつつ、そこでも篝は違和感を覚えた。

 否定するその声にも、いつも以上に感情が宿っていたのだ。


「……もっと一緒にいたい、のに」

「だからそれは無理だって言ってるのに……気持ちは分かるけど、お願いだから抜け出さないでよぉ~……」

「……分かる? 何、が?」


 昨夜と、今朝。

 それぞれ衣璃亜は橘の元を訪れた。その時に一つ、聞き入れられなかった要望があった。


 しかし桐葉の自宅に襲撃があった際、対応しきれない。

 桐葉との登下校は、衣璃亜と橘の間の妥協案でもあった。


「何が、分かるの? さっきの、話?」

「そ、それは別にぃ……なんでもないよぉ? 聞き間違いじゃなぁい?」

「この距離、で? 外もうるさくない、のに?」


 桐葉の精神状態の移り変わりは、橘にとっても警戒対象の一つだった。


 問題の一件についても、送るべきではないとすら考えていた。

 送ってしまえば、桐葉は確実に目を通すだろうと分かっていたのだ。


 それでも、中途半端な情報を持たせるのは逆効果だろうと考えてのことだった。


 調べようと思えば調べられるだけの情報を持ってしまっている。

 安易に桐葉本人の調査能力を前提に考えることなど、橘にできる筈がなかった。


「私だって心配してるんだよぉ? 桐葉くん、ここのところずっと顔色よくなかったし、トレーニングもどんどん増やそうとしてたんだから……」

「増えてないから、いい。……ちゃんと、納得してる、から」

「納得って……桐葉くん、話してたのぉ? 衣璃亜ちゃんに?」

「聞いてたら、駄目?」


 衣璃亜が知るきっかけとなったのは、その結果。

 桐葉が小さくうなりながら、衣璃亜の部屋へ戻って来た時のこと。


 しかし桐葉はそれ以上不満を口にすることはなかった。

 衣璃亜の目にも、それを受け入れているように見えた。


「衣璃亜ちゃん、ちょっとぐいぐいいき過ぎだよぉ? あんまりやり過ぎちゃったら、桐葉くんも警戒しちゃうかも……」

「そんなこと、ない。……そうなっても、桐葉が考え込まないなら、いい」


 ある予感が衣璃亜の中から離れなかった。

 そしてそれは、一度現実のものになりかけた。


 感情の暴走。

 今回は上手く抑えられたに過ぎないと、衣璃亜もまた理解していた。


(……私、だって……)


 決して、今回のような方法を望んでいたわけではない。


 しかしながら、桐葉の意識を今は少しでも逸らそうと考えていた。

 戦いに関わることだけは、どうしても考えさせたくなかった。


「あんな力……使わせられ、ない」


 そして更に、もう一つ。

 無関係とは言い難い、しかしそれだけは済まされない、もう一つの大きな要因。


「ふぇ? なにか言ったぁ?」


 それをぽつりと、衣璃亜はこぼした。


「別に。なんでも。……着くまで、静かに、して」

「うるさくしなかったらいいのぉ? それなら気を付けるから、もうちょっと仲良くお話ししようよぉ~」

「嫌」


 しかしそのひと言を、誰も正確に捉えてはいなかった。


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