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リヴァイバー・ゼロ  作者: 風降よさず
Missing Comfort
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010

「…………変」


 一晩待った末に衣璃亜が手にしたのは、あまりに大きな違和感だった。


 昨日の夕方送られた一通を最後に、美咲から何の連絡も来なくなってしまったのだ。

 電話をかけても全く繋がらない。


 衣璃亜が事態を『異常』とみなすのはごく自然なことだった。


(美咲……どうしたの?)


 美咲のメールの返信が日を跨いだことは一度もない。

 寝る前には決まって一言、その旨を衣璃亜に伝えていた。やり取りの機会が増えるにつれ、おおよそ時間を衣璃亜も把握していた。


 しかし、最後に届いたのはそれより三時間以上前。

 衣璃亜の返信も確かに送られていたのに、だ。


 何かの不都合が起きたのであれば仕方がないと衣璃亜も思っていた。

 翌朝になれば何かしらの連絡は届くだろうと考えていた。


「……どう考えても、変」


 何度確かめても、誰からの連絡も届いていない。

 桐葉からさえ、何の連絡も届いていなかった。


 その桐葉の姿も今朝はまだ見ていなかった。

 本来であればもう到着していてもおかしくない時間でありながら、桐葉が衣璃亜の元を訪れることはない。


 そう思っていた、まさにその時の事だった。


「――よかった、ここにいた……!」


 慣習となったノックもなく、ほとんど転がり込むように桐葉が現れた。


「桐、葉? 汗、拭く?」

「ああ、大丈夫。今朝は大丈夫。……どうしても、イリアに伝えておきたいことがあって」


 その上、衣璃亜の目から見ても普段とは明らかに違っていた。

 疲れ切った表情で訪れる事の多い桐葉が、ほとんど息切れすらしていなかった。


 その事実が、今度はまた別の違和感を衣璃亜に抱かせる。


(何か、あったの……?)


 しかしながら、それをすぐに言葉にできる雰囲気ではなかった。

 切羽詰まったような、一刻を争うかのような雰囲気の桐葉の言葉をただ待つしかなかった。


 そして。


「――ごめんっ!」


 唐突に、桐葉は深く頭を下げた。


「……ぅ?」


 何を誤られているかすら分からない衣璃亜には、それをどうすることも出来なかったのである。






「あの感じ、やっぱり気付いてたんじゃなぁい? 今からでも伝えたらぁ?」

「……かも、しれないですね」


 組織の車を降りて、歩き始めたかと思ったら。


 篝さんに訊かれてしまった。

 さっきのことを思いっきり聞かれてしまった。


 最後の最後まで迷った。

 本当は伝えた方がいいんじゃないかって。今伝えなくても、結局先延ばしにしかならないんじゃないかって。


 それでも結局、言わなかった。

 大雑把に、急に外せない任務が入ったって伝えることしかなかった。


(……バレたら怒られるどころじゃすまないかもな、これ)


 出かける前に橘さんとも話した。

 もしかしたらイリアが聞きに行くかもしれないから。といっても、向かう先を聞くついでだったんだけど。


 ほぼ間違いなくないだろうけど、あくまで念のため。

 正直、何を言われるかまるで予想がつかなかった。


『……そうか』


 だからその一言で済んだ時は何事かと思った。

 叱るにしても、そうじゃないにしても、もうちょっと何かあると思ってたから。


「……でも、やっぱり言えません。なんか、今言ったら……イリアにまで甘えてしまいそうで」


 まだ記憶も戻ってない。

 それがどれだけ怖いことか、俺には想像もできなかった。


「……衣璃亜ちゃん、嫌がらないと思うよぉ? むしろ、頼ってほしいって思ってるんじゃなぁい?」

「だといいですけど……それでもやっぱり、自分が許せない、みたいな。すみません。我がままに付き合ってもらっちゃって」

「私は別に気にしないけどー……」


 今までだって教団が手を出したせいで何度も危ない目に遭った。

 言うとしても、全部片付いた後。美咲が無事に戻って来てくれてからじゃなきゃ駄目だ。


 頑張って、って、あの時みたいに一言励ましてくれるだけでも、きっと。

 イリアに励ましてもらわなきゃ動けない駄目人間になんてなってたまるか。


(……絶対、見つける)


 ちょっと乱暴な手段になったっていい。

 知ってるやつがいるならそいつに自白させたっていい。


 開始時点でもうほとんど手詰まりみたいなもの。

 でも、どこかでじっとしてたって何も変わらない。変えられない。


 イリアにとっても、美咲は大切な友達だと思う。

 でも、それでも、美咲のことに関してだけは譲れない。


 イリアだろうと、深山だろうと、師匠だろうと……とにかく、他の誰が相手でも。


「桐葉くんの気持ちは分かったけど、一人で突っ込んじゃ駄目だからねぇ? 向こうも迎撃の準備は整えてるんだからぁ」

「分かってます。……そんな何回も言わなくても。って言うか、何回言うんですか」

「何度でもだよぉ。桐葉くん、どうしても聞いてほしいときに限って私の言うことくれないんだもん。この前みたいにぃ」

「あれはお互い様ですよ。そういうことで篝さんも納得してくれたじゃないですか。篝さんこそ、次はもうあんなことしないでくださいね?」

「お姉ちゃん、そういうところが心配なんだけどなぁ……」

「俺こそ、篝さんの優し過ぎるところが心配です」


 ……これだけ篝さんに頼ってるし、今更かもしれないけど。


「じゃあ、そっちは後で決めよっかぁ。魔力の反応もないみたいだし」

「実は地面の下に、とか……ないですかね?」

「そういうのもちゃんと分かるようになってるよぉ。妨害されたらすぐに分かるって、言わなかったっけぇ?」

「……でしたね」


 唯一最大の問題は、どこから探せばいいのか分からないこと。


 まず、学校とかその周辺――人目につくような場所はもう誰かが調べてると思う。


 昔よく遊んだ公園も、とても一晩過ごせるような場所じゃない。

 そもそも家出じゃないんだから選択肢外。昨日見た時もいなかった。


 怪しげな建物とか、そういういかにもな場所はそんなに多くない。

 あっても、潰れた店の跡地とか。ここ最近、ちょっと増えてるらしい。


 だから、真っ先に候補に挙がったのがそういう場所だった。

 俺が思いつけるのはそのくらいだった。


 でも、そういう場所を拠点にする可能性は低いだろうって橘さんは言った。

 活動拠点にするにしては狭すぎるから、って。


 そういう場所ならあの拠点みたいな地下基地があるかもって、一瞬思った。


 でも滅茶苦茶手間がかかるみたいだし、ほぼ間違いなくバレる。

 空き店舗って言ったって、大抵近くに誰かが住んでるんだから。


 例外は郊外のスーパーくらい。

 でも、そういう施設が最近閉まったって話は聞いてない。


 あいつらが好きに出入りできて、作業しても気付かれなくて、そこそこの広さが確保できるなんてそんな都合のいい場所――……


「……あっ」


 あった。一か所あった。


 あいつらに関わりがあって、警察は調べてない場所。


「もしかして、なにか心当たりがあるのぉ? それなら遠慮なく言って。……行ける場所だよねぇ?」

「勿論です。……篝さんにとっては、ちょっと近付きたくない場所かもしれないですけど」


 しかも丁度、担当区域と被ってる。


 ……多分、橘さんの差し金だ。


 その時点で外れだって確定してるようなもの。

 だけど、行くのを止めようなんてこれっぽっちも思えなかった。

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