44.春の気配
シルフィーに研究室が与えられて数日が経った。ラビが渋ったので時間がかかってしまったが、今日ようやくシルフィーの研究室が決まったのだ。ほくほく顔のシルフィーは、いそいそと研究室の整理をしている。
シルフィーはめでたく図書室の奥の自習室を研究室とする事ができたのだ。そのせいで、外はポカポカ陽気の晴れの日なのに、シルフィーは研究室の整理に夢中になって引きこもっている。
ラビはシルフィーの思い通りになってしまい、項垂れていて、手伝ってくれそうな様子はなかった。
「シルフィー、これはどこに置いたらいいかな。」
「それはこっちの本棚にお願い。ルーク。」
シルフィーの手伝いをしてくれていたのは、ルークだけだった。二人だけの研究室で、シルフィーとルークは慌ただしく部屋の整理をしていた。
何とも忙しそうに動き回っているが、シルフィーはとても嬉しそうにしている。嬉しそうなシルフィーに、ルークまで嬉しくなっていく。
「よかったね、シルフィー。」
「うん!」
明るく頷いたシルフィーを見て、ルークは胸が締め付けられる思いがした。
「シルフィー。俺、シルフィーを見つけられて本当に嬉しい。」
ルークはシルフィーを優しく包み込むように抱きしめた。突然のルークの行動に、シルフィーは鼓動が速くなった。
「急にどうしたの?!」
「シルフィーがヒューズ先輩と婚約した時、本当、諦めてたんだ。けど忘れたくても忘れられなくて。学園に入ってからもずっと探してた。」
「ルーク……。」
「俺さ、シルフィーの前ではカッコつけていたいのに、舞踏会のパートナーにも誘えないような臆病者で、たまに手段も選ばないような時もあるんだけど、シルフィーのこと、好きだから。」
上を向くと、ルークはまっすぐな瞳でシルフィーを見つめていた。そんな真剣な眼差しで告白されて、シルフィーは次第に顔が真っ赤になっていく。
「シルフィー、こんな俺だけど、これからもよろしくね。」
懇願するようなすがりつくような笑顔でそう言われたら、シルフィーの答えなんて、一つしかない。
「こちらこそ、よろしくね。」
シルフィーがそう言うと、ルークは満面の笑みを見せた。そして今度は力強くシルフィーを抱きしめた。
こんな事されたら、かりそめじゃあ満足できなくなっていくのも仕方ない。シルフィーは高まる気持ちを何とか抑えようと必死だった。
その努力とは裏腹に、気持ちはどんどん大きくなっていく。
ーーこのまま、この時間が続いてほしい。
それが、贅沢な我が儘なんだとしても。
シルフィーはそう思わずにはおれなかった。
けれど、シルフィーはまだその気持ちの名前を知らない。
シルフィーはルークから少し離れ、ルークの手を握った。シルフィーの贅沢な我が儘を言葉にすることは出来ないけれど、すがるような気持ちでルークの手にぎゅっと力を込める。
するとルークもシルフィーの手を握り返してくれた。
そんなささやかな事がとても嬉しくて、シルフィーは笑みをこぼした。
外は明るく、春の陽気に包まれている。
きっと顔が熱いのも春の陽気のせいだと、シルフィーは思うことにした。
ーー春の季節がやってきたんだなあ。
春の芽吹きの季節。
シルフィーの中でも、小さく何かが芽吹き始めていた。
end.
これまで多くのいいねや評価・ブクマ、ありがとうございました。とても励みになり、物語を無事終わらせる事ができました。
皆様に、少しでも拙作を楽しんで貰えていれば幸いです。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました。




