43.後始末
数日後に、学園の掲示板には衝撃のニュースが張り出された。
『カリナ=グリッド 退学』
このニュースは学園の生徒たちに大きな衝撃を与えた。
研究室を与えられた生徒が舞踏会で捕縛されたという噂もあったのだが、魔王の花嫁が実在したというニュースの方が衝撃が大きく、あまり生徒たちの記憶に残らなかった。
「自業自得ですわ。」
クリスティーナはつんとした態度でシルフィーにそう話した。図書室の中の事務室にはシルフィーとクリスティーナしかいない。ラビは本の整理のため図書室内をウロウロとしているのだ。
シルフィーはカリナが退学したというニュースに、何とも言えない気持ちになっていた。
「シルフィー様。気にしてはいけませんわ。あの方は罪を犯したんですのよ。いくら友達といえど、罪は罪。それを庇うのは友情ではありません。」
「そう、ですね。」
それでも考えてしまうのだ。
カリナが退学したのはシルフィーのせいではないか、と。
そんなシルフィーの考えを読み取ったクリスティーナは大きくため息をついた。
「全く。シルフィー様は優しすぎますわ。」
「え。そう、ですか?」
「ええ。そこが良いところでもあるんですけど。」
シルフィーは少し戸惑っている様子だった。そんな困ったシルフィーも可愛くて、クリスティーナはにっこりと微笑んだ。
この可愛い世間に疎いシルフィーを守りたいと思うクリスティーナは、こほんと一つ咳払いした。
「いいですか、シルフィー様。カリナ様はシルフィー様が何もしなくても罪を犯しているのに変わりありません。絶対にシルフィー様のせいでは、ありません。」
カリナは連れて行かれた後、色々と調べられて、他にも色々と小さな犯罪を犯している事が判明している。脅迫や詐欺なんて当たり前で、シルフィーだけでなく多くの人々にシルフィーと同じような目に合わせてきたようなのだ。
それはシルフィーも知っていた。
「そうですね。」
シルフィーはクスリと微笑んだ。シルフィーのことを考えて助言してくれるクリスティーナという存在が、なによりも嬉しい。
シルフィーから全てを奪っていくカリナと違い、シルフィーを思い助言してくれるクリスティーナ。
そのクリスティーナのためにも、シルフィーは前を向くと決めたのだ。
ーーカリナ。さようなら。
一時は友人として楽しい時を過ごしたカリナに、シルフィーは心の中で別れを告げた。
「それに、私はそんなニュースよりもシルフィー様の嬉しいニュースの方を話したいですわ。」
そう。学園の衝撃ニュースはもう一つあった。
『シルフィー=ハットン 研究室授与』
学園の生徒たちからはようやくか、といった反応ばかりで、あまり話題にはならなかった。しかし、シルフィーは本当に嬉しかった。
「はい。嬉しいです。」
魔法が大好きなシルフィーが、その研究に没頭する権利を与えられたのだ。生徒の憧れの的である研究室に、ようやくシルフィーも手に入れられる。
「まあ、シルフィー様ならば当然ですわ。」
「ふふ。」
何故かとても自慢げなクリスティーナに、シルフィーは笑みをこぼした。
「でもカリナ嬢の使っていた部屋に入れ替わりで入るのは何だか癪ですわ。」
そう。カリナが退学し、それと同時にシルフィーに研究室が与えられたということは、カリナが使っていた部屋に入るという事。
それはシルフィーもなんとなく嫌だった。なんせあの場所には良い思い出がないのだ。
「私もそれは嫌なんで、ちょっとお願いしているところなんです。」
「お願い、ですか?」
「はい。前にラビさんにお願いしていたんです。」
クリスティーナは首を傾げた。
「図書室の一角に、作ってください、てお願いしましたよね。」
「シ、シルフィー。覚えておったのか。」
図書室の整理から戻ってきていたラビは、不穏な気配を察して、コソコソと事務室に入ってきていた。そこをシルフィーに見つかったラビは、尻尾をピンと立てて、冷や汗を流していた。
そうして仕方なくシルフィーとクリスティーナのもとに近寄っていく。
「勿論ですよ。」
「いや、でもあの時は検討するとしか言っておらんぞ。」
ラビは誤魔化そうと必死になっていた。
「確かにそうですね。でも私の研究、魔導書についてなんです。だから学園にも『これから魔導書の研究に集中するためにも図書室に研究室を置きたい』ってお願いしたんです。」
「な。シルフィー!?」
魔導書の恐ろしさについて話したはずなのに、いつの間にか魔導書について研究していて、しかもそれを論文として提出し、研究室を与えられてしまった。
「魔導書は危ないと言ったではないか!」
「ちゃんと処理された魔導書を研究しますよ。今回の論文は学園の人たちだけではなく結構上の人たちも認めてくれたらしいので、特別に処理された魔導書のみ研究できる事になったんです。」
「シルフィー……お主というやつは……。」
ラビは深い深いため息をついた。
「そういうことで、いいですよね。ラビさん。」
ラビとは違い、シルフィーは、してやったりの表情を見せた。
ラビはもう何も言えなかった。
シルフィーには本ではなく、外の世界を知ってほしいと願うラビの気持ちとは裏腹に、シルフィーにはとうとう図書室に引きこもる大義名分ができてしまったのだった。
次でラストとなります。本日夕方に更新予定です。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
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