38.断罪
美しい色あいのドレスを身にまとい楽しそうな笑顔で煌びやかな会場を彩る女子生徒たちの中で、一際目立っていたのがカリナだった。無駄に宝石を身につけて、発光しているかのようにキラキラしている。あまりに気品のない派手さに、自然と生徒たちは視線を向けるが、カリナはその視線の意味に気がつかない。
自信満々に胸を張り、悠々とした態度で会場を見渡した。カリナを彩る最後の宝石ーールークを探しているのだ。
何の取り柄もない成り上がりの伯爵令嬢であるカリナは、まるで自分がおとぎ話のお姫様にでもなったかのように幸せな気分だった。
魔法伯爵の娘シルフィーを蹴落として学園の優秀な生徒の座を手に入れて、学園の王であるルークと結ばれる。そんな物語を、カリナの頭の中で描いているのだ。
まさかシルフィーとルークが知り合いであったのはカリナの中では想定外だったのだが、結果良ければ全て良しである。
勝利を確信したカリナは笑いが止まらない。
ニヤニヤと笑いながら会場を見渡すと、肩くらいまである黒髪を一つに結った背の高い男性が見えた。鷲色の瞳と目が合うと、カリナはご満悦であった。
「ルーク様ぁ〜!」
わざと周囲に聞こえるように大きな声でルークの名前を呼んで駆け寄って行った。
「カリナ嬢。」
「待っていましたわぁ。」
ルークの名前に周囲は驚きを隠せなかった。そして馴れ馴れしいカリナの態度にルークが不機嫌になっていないのにも驚いた。
カリナはルークの腕に抱きついた。豊満な胸を押しつけて、甘い笑顔で微笑んで見せる。こうやってヒューズを落としたカリナは、ルークもこれで落ちると確信していた。
ルークは無表情のまま、カリナをじっと見つめた。
「今日は一段とおめかししているのですね。」
「勿論ですわぁ。ルーク様のためですよぉ?」
「それは嬉しいですね。」
表情は全く変わらないし、態度も全く変わらないが、容姿を褒められたカリナは満足した。見た目でわからないだけで、きっと本心では動揺しているに違いないと思ったのだ。
羨望の眼差しを一身に受けて、カリナは恍惚の笑みを浮かべる。
ーー最高っ……!
世の中全て思い通りになったような気持ちでカリナはルークに寄り添っていた。
しかし、ルークは全く反対の気持ちだった。
ーー最悪……。
早くこんな茶番を終わらせたいが、そのためにはカリナと話をしなければならない。不機嫌を全面に出すと周囲の態度でカリナにも気付かれてしまう可能性がある。我慢に我慢を重ねて、貴族らしく仮面をかぶって対応しなければと何度も心の中で唱える。おかげで表情が消えて、不機嫌な気持ちは伝わっていない。しかし喜びも感じ取られないので、異様に見えていることだろう。
鬱々とした気持ちでいたルークは、耳にダンスの曲が聴こえてきた。周囲の恋人たちも嬉しそうにダンスホールに集まっていく。
「カリナ嬢。研究でお疲れでしょうが、一曲踊ってくれませんか?」
ルークも歯を食いしばってそう誘った。
その言葉を待っていましたとばかりに、カリナの表情が明るくなった。
「勿論ですわぁ。研究の疲れなんて、ルーク様と踊ればすぐに吹き飛びますのよぉ。」
カリナはルークの手を取り、二人でダンスホールへと向かう。
「それはそれは。次のカリナ嬢の研究、楽しみにしていますよ。」
「ふふ。次は本の研究ですのよぉ。まだ途中なんですけどぉ。」
ルークとダンスを踊るということで注目の的になっているカリナは気持ちよくなっていた。
曲が始まり、ルークはカリナは優しくリードして踊り始めた。
「そうですか。」
ルークはちらりと周囲を見渡した。探している人物は見当たらないところを見ると、どうやら彼はすでに動いているようだ。
魔法の実力といい、仕事の早さといい、ルークは脱帽するしかなかった。
カリナから聞きたい事は聞けた。
もうカリナには用がないが、時間を稼ぐためにもこの曲が終わるまでは優しく対応しようと決めた。
「ねえ、ルーク様ぁ。」
「どうしました?カリナ嬢。」
「『石に刺さった剣』なんて、口実ですのぉ。」
カリナへ頬を紅潮させて色っぽく上目遣いでルークを見た。
「本当は私、ルーク様が、好き。」
ルークは表情を少し和らげて答えた。
「『石に刺さった剣』を奪ってでも、私とのきっかけが欲しかったんですね。」
「そうなのぉ。」
ちょっとした悪戯と思ってカリナは可愛くルークに謝った。
「ありがとうございます。」
「ルーク様ぁ。」
「貴方が盗んだという証言が欲しかった。」
「え。」
ルークの表情が不機嫌そのものになった。これはまずいと逃げようとするも、いつの間にか周囲は囲まれてしまっていた。
「さよなら、カリナ=グリッド嬢」
「は?」
カリナは訳もわかないまま、衛兵たちに捕らえられてしまった。
こうして、冒頭に戻る。




