36.確認
魔法で飾られた会場は、神秘的で美しかった。ふわふわの浮くキャンドルが温かく会場を照らす中、スイーツを中心とした軽食も準備されていた。お城を形取った飾りの中に置いてある趣向を凝らしたお菓子は会場の飾りにもなっている。女子生徒が喜びそうな会場の装飾に、シルフィーも勿論胸を躍らせた。
「すっごく、可愛い。おとぎ話の世界みたい。」
「本当?シルフィー、物語とか好きだからこういう雰囲気好きかな、て思ったんだ。」
シルフィーの趣味嗜好に合わせてルークがセッティングされた会場に、シルフィーはうっとりしていた。
喜ぶシルフィーの様子に、ルークも嬉しそうに微笑んだ。この会場の飾り付けを提案したとき、生徒会一同からドン引きされても突き通した甲斐があったものである。
シルフィーがキラキラ瞳を輝かせる様子を見て、ルークは心の底から満足していた。
「シルフィー様!」
シルフィーは後ろの方から呼びかけられた。おめかししたシルフィーを認識できるのは、オシャレ指南したクリスティーナしかいない。シルフィーはぱっと花が咲いたような笑顔を見せた。
「クリスティーナ様!」
そして嬉しそうにクリスティーナに駆け寄って行く。ルークが舞踏会に誘った時よりも、この会場の飾り付けを見た時よりも、うんと嬉しそうである。
それはルークとしては何となく気に食わなかったが、シルフィーが嬉しそうなので何も言えなかった。
シルフィーとクリスティーナは嬉しそうに手を取り合い、きゃっきゃっとはしゃいでいる。
「シルフィー様、今日は一段と美しいですわ。」
「クリスティーナ様もとってもとっても可愛いです!」
「まあ。ありがとうございます。…………ところで。」
クリスティーナはチラリと横目でルークを見た。シルフィーがルークと一緒にいるという事は恐らくルークが誘ったのだろうと思われた。あれだけ発破をかけたのだから、それで誘えていなかったら、クリスティーナはもっと怒り狂っていただろう。
「ルーク様からはきちんとお誘いされましたの?」
それでも一応確認のつもりでクリスティーナはシルフィーに尋ねた。けれど質問に対してシルフィーは首を傾げた。
「誘われた、のでしょうか?」
「え?」
想定外の答えにクリスティーナは驚いた。これは一言物申さずにはいられないと、身構えた時だった。
「ふふ。困った幼馴染みです。」
シルフィーが嬉しそうに微笑んだのだ。その笑顔を見たクリスティーナは怒る気持ちが萎んでいった。
「シルフィー様……いいんですの?」
「ルークって私より年下なんですよね。確かに生徒会長で成績優秀で人気者ですけど。ちょっとそういうところ、可愛いなって思っちゃったんです。だから、ちょっとお姉さんらしくしたいじゃありませんか。」
「シルフィー様ったら。」
クリスティーナは呆れたようにため息をついた。
「ルーク、可愛いくないですか?」
きっと魔王と呼ばれるルークを可愛いなんて言うのはシルフィーくらいだろう。
「まあ、シルフィー様が良いならそれでいいですわ。」
シルフィーが満足しているならば、クリスティーナが口を出すのは野暮である。不満はあったものの、クリスティーナは口を閉ざした。
「クリスティーナ様って、アラン様のそばにいる時が一番可愛らしいですね。」
「もう!シルフィー様ったら!」
突然の指摘にクリスティーナは顔を赤くした。クスクスと楽しそうに笑うシルフィーを見て、またため息をついた。
「シルフィー様はとんだ人たらしですわ。」
女子二人が和気あいあいと話している姿を、パートナーであるルークとアランは付かず離れず見守っていた。
「シルフィーはクリスティーナ嬢にメロメロだな。」
「クリスティーナもシルフィー様にぞっこんですよ。」
楽しそうな様子を見守るのはいいのだが、自分といる時よりも楽しそうなのは恋人としては思うところがある。
「シルフィーのことをあれだけ好きじゃなきゃ生徒会室に乗り込んだりしないだろうな。」
「あ、あの時は申し訳ありませんでした。」
「いや……。クリスティーナ嬢は何も悪くない。」
「まさかあんな行動に出るとは思いもしませんでしたよ。」




