27.魔王の恋愛相談
シルフィーやラビと入れ替わってアランがひょっこりと顔を出した。図書室にクリスティーナを迎えに来ていたアランはラビに事情を話していた時に、異変を感じてラビと一緒に駆けつけていたのだ。
だがなかなか顔を出せず、ようやく今になって顔を出したのだ。
「ルーク、大丈夫ですか?」
「だいじょばない。」
ルークは大きくて長いため息をついた。
先程のシルフィーを思い出すと、ルークはみるみると落ち込んでしまう。
顔を真っ赤にしたシルフィー。
どう考えても警戒された。
そう考えるとまたため息が漏れる。
「怖がらせた。失敗した。」
アランはシルフィーとラビが行った方向を見つめていた。
「そうでしょうか。」
アランの言葉にルーク目を丸くした。何もわかっていない様子のルークは、ぽかんとしている。魔王と呼ばれるルークのそんな表情が見れるとは思ってもいなかったアランは、つい笑みが溢れた。
「俺にはシルフィー嬢は嫌がってるようには見えませんでしたよ?」
「……本当か?」
すがるようなルークの声は、なんとも微笑ましい。愛する人の行動に一喜一憂して、ちょっとした仕草にも振り回されてしまうその姿は、アランと全く同じなのだ。
アランも何度クリスティーナの行動に振り回されたことか。
「はい。乙女心は複雑ですよね。」
アランの困ったようで幸せそうな笑顔を見て、ルークもつい笑みが溢れた。
アランのような表情を自分もしているのかと思うと、笑わずにはおれなかった。
あの日、シルフィーと契約結婚した日。
絶対に手放すものか、と己に誓った。
もう二度と、シルフィーを手放さない。
そう、誓ったのに。
「アラン……。」
ルークは再び長くて大きなため息をついた。そのどんよりとしたルークの様子に、アランは首を傾げた。
「アランはどうやってクリスティーナ嬢を舞踏会に誘ったのだ?」
「え。」
アランは思わず素っ頓狂な声を上げた。
「俺、まだ誘えてないんだ。」
そつなく何でもこなしているように見えたルークが、まさかまだシルフィーを誘っていなかったなんて、想像してもいなかったのだ。
「……。」
何と言って良いのか、言葉が見つからない。
「どうしよう。」
ルークは天を仰いだ。
本当に、どうしたらよいのか、アランは分からなかった。
◆◆◆
「私の愛を取り戻したいなら、悪い男になってきてぇ。」
カリナに言われた言葉が、ヒューズの頭の中でぐるぐると回る。甘く耳に響く声と、カリナの甘過ぎる香りがヒューズの心をとらえて離さない。
なのに、ヒューズは今、動揺していた。
パニックになってルークを押し倒そうとして、誤ってシルフィーを押し倒してしまったヒューズは、慌てて図書室から逃げ出した。
ーー俺……何してるんだ……!?
息を切らしながらカリナの声と、自分がしてしまった事が頭から離れない。
カリナの言う通り悪い人になろうとした。
シルフィーに近付いて、シルフィーが持っている本を貸してもらうつもりだった。けれど図書室にこっそりと忍び込み、シルフィーと話そうとした時、クリスティーナに着飾ってもらっているシルフィーを見かけた。「女として見れない」と言って婚約破棄したはずのシルフィーが見違えるほどかわいくなっていて目を疑った。
けど、それはヒューズのためではない。
ヒューズはかなり複雑な気持ちだった。
カリナのことは愛している。
可愛くて守ってあげたくなるカリナ。
彼女のために出来ることは何でもやりたいと思った。だから、気まずいシルフィーにも近付こうと思った。
だが、そのシルフィーが可愛くなっている姿を見て、心が揺らいだ。カリナと話している時に感じたぼんやりと靄のかかった頭が、急にはっきりした気持ちだった。
そしたらいつの間にか復縁を言い寄っていた。
ーー俺、本当に……どうしたいんだ。
シルフィーとカリナ。
二人のことを思い浮かべ、ヒューズはその場にうずくまった。そして、少し離れたところに見える図書室を見た。
「……本。」
シルフィーとカリナを再び思い浮かべ、そして、ヒューズは何かを決意したように口をぎゅっと結んだ。
「カリナ。」
ヒューズは立ち上がり、図書室をじっと見つめた。




