25.おめかし
図書室の中の事務室は今ドレッサールームと化していた。
そんな中、シルフィーは着せ替え人形の如くクリスティーナから沢山のドレスを着せられたり、化粧されたりしていた。クリスティーナがああでも無いこうでも無いと吟味に吟味を重ね、シルフィーを着飾っていく。
その様子をラビはのんびりと見守っていた。
「できましたわ。」
クリスティーナがようやく満足のいく仕上がりになったようである。
ラビはクリスティーナの言葉でピクリと耳を動かした。
「ほ、本当ですか?クリスティーナ様。」
クリスティーナは思いっきり頷いた。そしてシルフィーはクリスティーナに背中を押されながらラビの前に出てきた。
ラビはゆらゆらと尻尾を揺らし、嬉しそうに笑った。
「シルフィー様可愛いですわ!!」
「うむ可愛くなったの。」
嬉しそうなクリスティーナの笑顔と、満足げに頷くラビの前に、シルフィーは顔を真っ赤にして棒のように立っていた。
いつも髪の毛はボサボサで化粧もしていないシルフィーだが、今はクリスティーナによって艶めく髪を綺麗に結い上げて、うっすらと化粧もしている。
それだけでも見違えるほど可愛くなった。
「あ、ありがとう。」
こういう事に慣れていないシルフィーは照れ笑いするしかなかった。
「やはりシルフィー様は元が良いですから、お化粧も力が入ってしまいますわ。ああ。もっと可愛い服を持ってくるべきでしたわ。」
「また明日持ってくればよいではないか。」
「まあ。ラビ様、明日もここを使って良いのですか?」
「勿論じゃ。」
「え、あ、明日も?」
「ええ!明日はもっとやりますわよ!」
「ならばルークの好みも知っておかねばなるまい。」
「あら。ルーク様にお会いする予定があるのですか?」
「あいつは隙を見つけてはシルフィーに会いにここに来る。」
「忙しいって言ってたから、毎日じゃないけどね。」
「そうなんですね。ではラビ様、少しお願いがありますの。シルフィー様、少しだけ席を外してもらえますか?」
「あ。じゃあ図書室の整理の続き、やってきます。」
「うむ。よろしく頼むぞ。」
ほんの少しだけ解放されたシルフィーは大きくため息をついた。
「シルフィー。」
聞き覚えのある穏やかな声に、シルフィーは大きく心臓が跳ねた。そしてバクバクと早く鼓動がなっていく。
間違いであってほしい。
そう思いながら、シルフィーはゆっくりと振り返った。
しかし、そこにはシルフィーが想像した人物が立っていた。
「……ヒューズ。」
へらっと力なく笑うヒューズは、見るからに何かあったようである。しかし、それを聞くほどシルフィーはお人好しでもない。なんせヒューズから婚約破棄されているのだ。
しかしシルフィーの後ろに立ったまま動かず何も言わないヒューズにシルフィーはつい口を開いた。
「なにか用?」
「あの……はは。最近どう?」
「別に。」
なるべく素気なくしているが、ヒューズは動く気配が全くない。
「あのねヒューズ。私やる事があるの。」
「そっか……。ねえ、少しでいいから話さない?」
全くシルフィーの話を聞いていない。自分のことにいっぱいいっぱいになっているようで、シルフィーのこともろくに見ていない。
自分が世界で一番不幸だと言わんばかりの様子にシルフィーは言葉を失った。
「シルフィーと二人っきりって久しぶりだよね。」
「そうね。」
「昔はさ、よく三人で遊んだよね。」
三人とは、シルフィーとヒューズとルークの事である。公爵子息であるヒューズとルークは魔法伯爵に魔法を学んでいて、その関係でシルフィーとも顔見知りであった。まだ幼い頃は歳の近い三人でよく遊んでいた。
けれどシルフィーがヒューズと婚約してから、ルークと会うこともなくなり、この学園で数年ぶりに再会したのだ。
まさかヒューズと婚約破棄してルークのかりそめの花嫁になるなんて、幼い頃は夢にも見ていなかった。
シルフィーは忘れかけていた昔の記憶を思い出してゆっくりと頷いた。
「……ええ。」
「まさかその一人が入学早々生徒会長だよ?すごいよね。」
「そうね。」
「シルフィーもずっと学年で成績トップだしさ。なんだか俺は置いていかれた気分だよ。」
ヒューズは力なく笑ってみせた。
「ねえ、シルフィー。」
「なに?」
「俺たち、やり直せないかな……?」
「は……?」




