23.おしゃれ指南
シルフィーは覚悟を決めていた。
授業前の教室の中、シルフィーはハットン家の秘術を駆使して気配を消してじっと座っている。
そして、じっと窓際の席を見つめていた。
高鳴る鼓動を何度も呼吸を整えて沈め、窓際の席の主を待っている。
ーー来た……!
姿勢良く凛とした態度の令嬢が教室に戻ってきた。シルフィーは立ち上がり、その令嬢・クリスティーナの元へと歩き始めた。
「クリスティーナ様」
シルフィーに声をかけられたクリスティーナは少し驚いた様子だった。
「あの……ちょっとご相談が。」
「シルフィー様。何かありましたか?」
クリスティーナはすぐに嬉しそうに笑顔を見せた。
「あの……クリスティーナ様って……。」
「はい。」
「すごくかわいいですよね。」
「え、あ。ありがとうございます。」
「それにオシャレだし、」
「あ、あの?」
「素敵だし、」
「シルフィー様?」
「品があるし、」
「ちょっ。」
「令嬢達の憧れの的ですよね。」
一気に言い切ったシルフィーはようやくクリスティーナを見た。するとクリスティーナは両手で顔を覆っている。少し見えている耳が真っ赤に染まっているのしか分からない。
「あれ?クリスティーナ様?」
シルフィーは首を傾げた。
「シルフィー様……。」
少し気持ちを整えたクリスティーナが何とも言えない表情をしていた。そしてコホンと咳をした。
「ほ、褒め過ぎですわ……。」
クリスティーナの耳はまだ赤い。
「はあ……。」
シルフィーは訳もわからず首を傾げていた。
そんなシルフィーの様子に、クリスティーナはため息をついた。
「そ、それで何をして欲しいんですの?」
「あ。そ、その……クリスティーナ様に、おしゃれの仕方を教えてほしいな、て。」
今度はシルフィーが赤くなる番だった。
シルフィーは勉強一筋で流行りのドレスや化粧といったオシャレにとことん疎い。カリナのように可愛い令嬢になるためには、令嬢の鑑であるクリスティーナを頼るのが一番だと考えたのだ。
「まあまあまあ!」
クリスティーナはみるみると表情を明るくした。そして少し前のめりになってシルフィーに尋ねた。
「それはルーク様と歓迎舞踏会に行くのためですか?」
「え。」
クリスティーナの質問に、シルフィーは首を傾げた。それどころか舞踏会の事などすっかり忘れていた。
キョトンとした表情に、クリスティーナは動揺を隠せなかった。
「え?え???」
「あの……私、ルークと舞踏会に行く予定……あり、ま、せん……」
「え???え????」
すっかりルークと舞踏会に行くからオシャレしたいのかと思い込んでいたクリスティーナは、混乱した。
「あの……ルーク様からまだ誘われていないのですか?」
「はい。生徒会で忙しいので、会えなくなるって言われましたが、お誘いは特にありませんでしたよ。」
「そんな!!」
クリスティーナは眉間に皺を乗せた。そしてシルフィーの手を握って、何かに燃えた表情を見せた。
「シルフィー様!!!」
「は、はい。」
クリスティーナの気迫に気圧されて、シルフィーは目を丸くした。
「やりましょう。」
「え。」
「いっぱいおめかしして、ルーク様に見せてやりましょう!」
物凄い勢いのクリスティーナに反論すること等、シルフィーには出来なかった。
「あ……はい…。」
返事はイエス。
それ以外は言えなかった。




