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21.やきもち

 カリナが去った後、シルフィーは一気に体の力が抜けていき、その場に座り込んでしまった。


「シルフィー!」


ルークに肩を支えられて、シルフィーはようやく気分が落ち着いてきた。

 カリナから耳を疑う提案をされ、さらに次はルークを狙っているようなのだ。シルフィーはルークにしがみついた。


「シっ!シルフィー!?」


ルークの焦ったような声が聞こえたが、シルフィーは離れたくなかった。

 カリナに触れさせて欲しくなかった。

 カリナと話して欲しくなかった。

 カリナを見て欲しくなかった。


ーールークは私を見てればいいのに……。


一瞬、シルフィーの思考が停止した。


ーー私……今何考えたの!?


そうしてシルフィーは急に顔が熱くなり、ルークを突き飛ばすように離れた。

 ルークもシルフィーにしがみつかれたと思ったら突き飛ばされて、何が何やら分からない。ただ顔を赤くして困った表情でシルフィーを見つめる。

 シルフィーもシルフィーで顔を赤くして、どうしていいか分からずにルークを見つめている。


「シ、シルフィー……。えっと……その?」

「忘れて!」

「え!?な、何を!?」

「全部!!」

「全部!?えっと、シルフィーとにかく落ち着いて?」

「おおお、落ち着いてきたら色々と……やっぱり忘れてぇ!!」


シルフィーは恥ずかしさに耐えられず、真っ赤になった顔を両手で覆った。そして恥ずかしすぎて少し潤んだ瞳で懇願するようにルークを見つめる。

 恥ずかしさに耐えられず、穴があったら入りたい気持ちでいっぱいである。

 そんなシルフィーの姿に、ルークは目が離せなかった。いますがにでも抱きしめたい気持ちをなんとか堪えて、シルフィーをじっと見つめる。今のシルフィーに抱きついたら気を失うのは間違いないだろう。そしてその後警戒されてなかなか近寄れなくなる未来が見えている。引きこもりのプロであるハットン家が本気を出したら、ルークには見つけることが出来ないだろう。

 ルークはなんとか自分の気持ちを抑えて、平静を装って話しかけた。


「シルフィー、えっと……カリナ嬢とは何話してたの?」


すると今度はシルフィーが嫌そうに表情を歪めた。


「……別に。」


むくれたような様子に、ルークは首を傾げた。


「カリナ嬢は研究室をもらってるんだよね。次の研究もシルフィーと一緒にするの?」

「…………。」

「シ、シルフィー?」


むすっとしたシルフィーの様子にルークは戸惑った。大人しくていつも自信のない様子のシルフィーがこんなに嫌そうな態度を見せる事はかなり珍しい。

 カリナがシルフィーの婚約者を奪った事は有名な話だ。二人の確執のことを考えれば、当然である。

 話題を選び間違えてしまったと思ったルークは慌てて次の話題を考え始めた。


「ルーク……。」

「な……何?」


シルフィーはまだ顔を赤く染めていて、じっと睨むようにルークを見つめてくる。


「カリナのこと……好きになっちゃった?」

「え?俺が好きなのはシルフィーだよ?」


ルークはキョトンとした表情であっさりと答えた。


「シルフィー。シルフィーは俺の奥さんでしょ?」

「そ、そうだけど……。」

「カリナ嬢は昔シルフィーと仲が良かったって聞いてたから知ってたんだよ。」


ルークの言葉に、シルフィーは目をパチクリさせた。


「じゃあ、カリナのことは……?」

「別になんとも。」


カリナよりも可愛い令嬢や色っぽい令嬢に言い寄られた経験があるルークにしてみれば、カリナはモブと一緒。正直顔もうろ覚えである。

 シルフィーは本当に何も気にしていない様子のルークに、胸を撫で下ろした。


「そっか……。」

「シルフィー?」

「私、ルークがカリナのこと好きになっちゃったんだと思っちゃった。」


心の底から安心してこぼれたシルフィーの笑顔に、ルークは胸が高鳴った。何か言おうとして、何も言葉が出なかった。


「ねえルーク。」

「な、何?」


シルフィーのおねだりするような視線に、ルークは胸の高鳴りが止まらなかった。


「あんまりカリナと仲良くしないでね。」


ルークは言葉を失った。


「ルーク、聞いてる?」

「あ。うん……。そりゃあ、勿論。」


 シルフィーは満足そうに笑った。


 それからシルフィーは図書の整理を始めた。

 残されたルークは顔を赤くしたまま、嬉しそうに笑うシルフィーを見つめていたのだった。



◆◆◆




ーーカリナと仲良くしないでね、かぁ。


ルークはニヤニヤするのを堪えるのに必死だった。長年思い続けていたシルフィーがやきもち妬いてくれたのだから当然である。


ーー嗚呼。ようやくシルフィーが手に入る。


 嬉しくて堪らない。

 ルークは生徒会室の椅子にゆったりと座って、シルフィーの笑顔を思い出しては喜びを噛み締めていた。


「カリナ嬢には感謝しないといけないかな。」


まさかこんな形でシルフィーの気持ちを確かめることが出来るとは思いもしなかった。


「ルーク生徒会長!」


物思いにふけっていると、大声で呼びかけられた。せっかくのいい気分が少し損なわれた。


「何だゼノ。」

「その顔、怖いからやめろ。魔王が何故かニヤニヤしてるってみんな怖がってる。」

「放っておけ。」


ルークはツンとした態度でゼノから視線を逸らした。そんな態度のルークにゼノはため息をついた。


「しっかりしてくれよ。もうすぐ舞踏会なんだからよ。」

「そうか……。」

「え?」

「忘れてた。」


ゼノはがっくりと肩を落とした。ルークはシルフィーの事で頭いっぱいですっかり忘れていたのだ。


「舞踏会、か。」


どうやってシルフィーを誘おうか。

ルークの頭の中はその事でいっぱいだった。



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