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18.魔導書の恐ろしさ

 模擬戦の後、クリスティーナはシルフィーに、図書室から借りていた本『石に刺さった剣(エクスカリバー)』を渡した。

 「シルフィー様にこの本が必要なんだろうな、となんとなくわかっていましたから。」

 そう言って、クリスティーナは詳しくは聞かなかった。本を受け取ったシルフィーは、何も聞かず本を渡してくれたクリスティーナに心から感謝した。


 そして翌日。

 シルフィーは登校して一番に図書室へ向かった。

 図書室ではルークとラビがのんびりとお茶を飲んでいた。どこか嬉しそうな様子のシルフィーに、ラビは期待を胸に、尻尾をゆらゆらと動かした。


「ラビさん!『石に刺さった剣(エクスカリバー)』返してもらいましたよ!」

「よくやったぞ!シルフィー!」


シルフィーは『石に刺さった剣(エクスカリバー)』を自慢げにラビに見せつけた。

 ラビは嬉しさのあまり、もふもふな体でシルフィーに抱きついた。勢いよく抱きついてきたラビのふわふわな体を、シルフィーはしっかりと抱きとめて受け止めた。抱きしめるとラビからは、ほんのりとお日様の香りがして、シルフィーはほっこりとした気持ちになった。

 そしてラビはシルフィーから離れ、『石に刺さった剣(エクスカリバー)』をほくほくとした笑顔で見つめた。


「ラビさん、その本どうするんですか?」


シルフィーは興味津々に魔導書グリモワールを見つめていた。


「ん?これは魔導書専門の司書官から処理をしてもらってから、影響が出ないようになってから本棚に並べるんじゃ。」

「そうなんですね。」


じっと魔導書グリモワールを見つめ続けるシルフィーを、ラビは不安げに見つめた。


「いいかシルフィー。そもそも魔導書グリモワールは危ない物なんじゃ。今回はたまたま良い方向に魔法が作用したが、負の感情に引きづられる事だってある。例えば、この『石に刺さった剣(エクスカリバー)』が悪い輩の手に渡っていて、その者が大量虐殺したいと思っていたとするじゃろ。その感情に作用して魔導書グリモワールが発動していたら、殺しの才能を持つ者に魔剣が渡って、大惨事になっておったんじゃぞ!」

「あ……そうですよね。」


 シルフィーは少し落ち込んでしまった。

 無知な者が興味本意で手を出してはいけないものなのだ。シルフィーが好奇心で手を出そうとした事がラビにはお見通しだったようである。

 シルフィーがしょんぼりしていると、優しく頭をポンポンと撫でられた。ふと横を見ると、そこにはルークが寄り添ってくれていた。


「シルフィーならいつか魔導書グリモワールの研究できるよ。シルフィーの実力をもっと示して、周りが認めてくれれば、ね。シルフィーにはそれが出来るはずだよ。」

「確かに、魔導書グリモワールの研究にはある程度の実績が必要じゃ。シルフィーももっと実績を積めば、出来るじゃろう。」


 ラビもルークの意見に頷いた。

 優しく撫でてくれるルークに、少し甘えるようにシルフィーは擦り寄った。そんなシルフィーの様子に、ルークは満足そうに笑顔になった。


「まあ、今回はシルフィーも頑張ったのじゃし、少しご褒美をやらねばのう。」


ラビは魔導書グリモワールを机の上に置いた。そして小さな声で何かを唱えると、魔導書グリモワールを囲むように魔法陣が浮かび上がってきた。


「ラ、ラビさん?」

「ふふふ。今から魔導書グリモワールの処理を見せてやろう。」


ラビが魔法陣に手をかざす。すると、魔法陣はぼんやりと光を放ち始めた。


「え。処理って……魔導書専門の司書がやるんじゃないですか。」

「何を言う。」


シルフィーの疑問に、ラビは不敵に笑って見せた。


「この図書室を守護する知恵の精霊にとって、魔導書グリモワールの処理が出来んと思っておるのか。」


 ぶわっと魔法陣から風が舞う。

 魔法陣から出てきた風は、風の繭のように魔導書グリモワールを包み込んだ。

 しかしそれも少しの間の事で、風は徐々に穏やかになっていった。


「ラ、ラビさん……?」

「こんなもんじゃろう。」

「凄い。さすが知恵の精霊ですね。」

「ふっふっふっ。このくらい朝飯前じゃ。まあ、簡易的な処置じゃから、魔導書専門司書に渡してきちんと処理してもらう必要があるがな。」


ラビは『石に刺さった剣(エクスカリバー)』をシルフィーに差し出した。


「気になるじゃろ。少しの間なら構わんぞ。」

「ラビさん……!」


 シルフィーは顔を綻ばせて魔導書グリモワールを受け取った。そしてぎゅっと抱きしめる。

 ルークはそんなシルフィーを優しく抱きしめるのだった。


「じゃが!ちゃあんと図書室の本の整理もしてもらうぞ。」

「はい!ありがとうございます!ラビさん!」


シルフィーは抱きしめていた本をしまうために事務室の方へと駆けて行った。

 嬉しそうなシルフィーを見守りつつ、ルークは隣のラビに声をかけた。


「ラビさん、大丈夫なんですか。」

「まあ数日くらいならあれで充分じゃからな。シルフィーなら変な風にはせんじゃろうて。」

「何だかんだ、ラビさんもシルフィーには甘いですね。」

「お主には言われたくないがのう。」


 不敵な笑みを浮かべたラビはふわりと尻尾を揺らしたのだった。




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