tail-04: 仕立
「これが見取り図っす」
リグが広げた模造紙は半分に会場内を、残り半分に縮尺違いで市街地から見た会場を描いている。長さが必要な部分にはメートル法で、傾斜は度数法で、時刻と方角は目立つ影の位置に弧度法で、角度の意味が目安以上ならミルで。補助線と矢印と記号と数字が並ぶ地図に青と赤の駒を置いて初期配置の候補を示した。
「次に襲撃者の候補がこっちの写真」
服装を合印にした組織について解説はロゼが担う。資料は隠し撮りした歩き姿で、体格は往来との比較で。
「この写真の緑のほうはRORA、青のほうは黄昏組、どっちも乱暴者の集まりだ。主張は少しずつ違うが私らから見たら同じ、せいぜいRORAのほうが資金繰りが上手い程度だな。装備は写真通りの年代物カラシニコフ、あと聴いた話からの推測だがニコノフもある」
「やけに詳しいのね」
「鹵獲はやめておけ。粗悪弾の可能性がある」
ロゼは矢印がない通路を指した。
「ここらは左右の荷物が視界と射線を遮る上に狭い、しかも元からだから向こうも知ってる」
「ほぼ通行止め、せいぜい逃げ道に便利程度ね」
「想定ルートはふたつだ」
ひとつは西側正面から来る場合。舞台から見て右の入り口から来る経路だ。これで来たら単純な防衛戦になる。一般人を巻き添えにして利があるかはさておき、メイドにとっては大義ができるので動きやすい。
もうひとつは北東側倉庫から来る場合。舞台から見て左の舞台袖、あるいは控え室に来る。巻き添えがまずないので警備が薄くなりやすく、一般人への応対に追われれば見落としやすくもなる。こちらが本命だ。
倉庫でCQBをしたら、流れ弾が壁を破って観客を巻き込みそうだが、実際は微妙な窪地になっている。意図的に上へ撃たなければキツツキごっこ止まりになる。
「あとは使える設備っすね」
会場には演出用の無線ドローンがある。管理用の中継機として有線ドローンが二機、ここには動画配信用のカメラも載せているので空からの目で異変を逸早く見つけられる。操作は二階の通信席からおこなう。
倉庫の遮蔽物はすでにロゼが用意した。戦場を整えられる点で防衛側が有利になる。
廊下や舞台袖にも鉄パイプを束ねた置物がある。空気が多いので鉄の塊より軽く、どうやっても斜めに当たるので貫通せず跳弾する。有り合わせのガラクタだが身を隠すには足りる。
「そして、届いた得物がこれです」
サウジ経由の長旅をした箱から各人に支給した品を取り出す。銃なんてあまり使わない仕事だが念のための訓練が活きてしまう機会がきた。
レデイアは急に仕事が増えても対応できるよう、取り回し重視で銃身を切り詰めたモデルだ。
ダスクの銃は取り回しよりも威力と精度を優先している。万が一の時にロゼが使いやすいよう勝手を近づける意味もある。
そのロゼは支給品ではなく私物の銃だ。経路の都合で他人の手元にあったから入念に確認している。光学照準器のコイン電池は自分で持ち込んだ新品を入れて、赤点の位置と濃さを確認する。
「うわ、416っすか。噂には聞いてましたけど」
「なんだ?」
「そんなの使うのはロゼさんくらいだって言ってるんすよ」
掛け値なしに優れた銃にも不人気な理由がある。高額、この二文字はあらゆる分野でつきまとう。仕事に合わせて調整が効くとはいえ、使用者あっての道具、目的あっての使用者だ。目的の幅がさほど広くない以上、最初から調整後にあわせたそれなりの品を多く用意したほうが安くつく。調達も整備も輸送も。
「私は妥協しない。それよりもっと変な銃があるな。リグのそれはなんだ」
わざとらしく胸の前で見せつけるように揺らした。拳銃よりひと回り大きい程度の短機関銃は、弾が小さいので威力も劣るが、リグは裏方、主武装は通信機と救急箱だ。
「ただのスコーピオンっすね。うちはメディックっすよ」
「誤魔化すな。後ろの、棒高跳びみたいなそっちだ」
苦笑いと共に解説した。身長より長い二メートル、全員分の銃より重い二十二キロ、この銃は巨大な対物銃ゲパードM6だ。戦車を貫くとか、コンクリートの壁に穴を開けるとか、おおよそ護衛とは無縁の逸品だが。
「結構前の話なんすけど、渋々で使ったんすよ。逃げる車のエンジンを止めるとか、壁越しに水道管を撃って逃げさせるとか。そんなのが何度か続いたら勝手に愛銃だと思われちゃって」
「運ぶ手段は?」
「普通に担ぎますがね。いざとなったら放棄しても」
「持ってみていいか?」
「ご自由に。落としたら埋蔵金チャンスっすよ」
レデイアじゃないんだから、床に穴は開けない。謝罪用の特別予算はレデイア以外には出ない。
銃の重さは鉄の重さだ。爆発で吹き飛ぶ破片を狙った場所へ飛ばす仕掛けなので、まずは爆発に耐える必要がある。燃焼ガスの膨張圧ではびくともしない剛性で。
ゲパードの弾はフランクフルトで、他の銃の弾はウィンナーだ。拳銃弾ならポークビッツだ。巨大さのほとんどは火薬であり、相応に大きな爆発が起こる。当たり前の話だが、薄い鉄では耐えられなくても厚い鉄なら耐えられる。厚くなれば重くなる。作用反作用の法則とエネルギー保存の法則、頑丈なものを貫くには頑丈なものが必要になる。
「本気か?」
こんな重い塊をまともに使えるのか、の意味だ。
「ロゼさんはあまり意識しなかったかもしれませんがね。うちらはメイドっすよ。喫茶じゃないほうの、さしづめ純メイドですかね。荷物が重くて持てないヨーとか、ないでしょ。仕事になりませんよそんなの」
今のように機械の小型化をできなかった頃、携帯電話が肩掛け鞄サイズの頃よりさらに前、家電の普及に伴い必要な作業がある。誰かが運び込んで、誰かが配線を整えて、誰かが整備する。誰がやるか? 世のお父さんがいい所を見せたり、若息子が一人前になったアピールチャンスを求めたりもするだろうが、能ある一流は爪の使い所を選ぶ。自分たちだけの役に立つ程度のくだらない作業は使用人に任せて、得た時間を大勢の役に立つ事業に注ぎ込む。そのために使用人が知識も体力も用意する。担うか、失業か。メイドとはジェネラリストだ。
あらゆる小道具を用いて襲撃者を排する。観客は何も気づかずに楽しんで帰る。両方をやるのがメイドの役目だ。遠くの銃声ならやかましい音楽で隠せるし、近くで銃声は鳴らさせない。
「ロゼが持てなくても私が持てるから」
「と、ルルさんも言ってくれてますので安心してくださいよ」
自信の源は前情報と信頼だ。政治組織だろうがギャングだろうが、まともな人員は五十人もなく、少なくとも八割には本来の業務がある。まともでない人員には力を持たせない。刃を持たせれば自分たちにも向く。
人間のあらゆる行動は誰がやっても大差にならない。時間は平等であり、筋力は誤差だ。差を作る手段はふたつ。知識による最適化と、道具による拡張だ。この世に確かな情報はない。不確かな混沌の渦を乗りこなす。知識で見るべき場所を決めて、予想で打つ手を決めて、技術で間に合わせる。
銃は攻撃力と防御力を平等にする。鋼の肉体は価値を失い、秒間十二発のロケットパンチを誰でも指一本で放つ。当たれば一分後には失血死する。体力には男女差も人種差もない。残る格差は銃を持つかどうかの権力と貧富と意思だ。
ドローンは目を拡張する。地上同士なら隠せても空から見下ろせば隠せない。
こちらは巨人だ。上空から見下ろし、正しい位置へ腕を伸ばし、秒間十二発のロケットパンチを放つ。人間がカブトムシの群れに勝つのと同じく、巨人は人間の群れに勝つ。森では最強らしいが、森ごと開拓して最強を塗り替える。
「これらを基に、各自の配置は暫定でこんなもん、いかがでしょう」
叩き台としてリグが並べた駒に異論はなく、満場一致で決めた。それぞれの特長や目標をすでに知っているので精度は十分、不測の事態は起こってから対処する。
話がまとまりつつある所で扉が開いた。雇い主はメイドの部屋にいつでも入ってよく、見せて情けない状態にはしない。
「楽しそうなことをしてる」
アリナが野次馬をしにきた。自分たちの命がかかっているのに今この場を楽しむしか考えていないような動きだ。
「今は無礼講でいいから。夜は対等な勤め人、ね」
「大人しく守られててくださいよ、女子高生さん」
「頼りにしてる。ここだけの話、こっそりあなたたちをジャスティス・レンジャーズって呼んでるから」
「なんと呼んでも構いませんがね。うちらは正義とか平和とかとは程遠い存在、わかってますよ。秩序は正義でも平和でもないっす」
頭と手を休ませる間、お留守になる脳を口へ回した。厄介になる前にレデイアとロゼは荷物をしまい、ダスクは注目先にするため出しておく。主な応対はリグが担った。分担でも、アリナの意図でも。
「永久欠番がそれを言うの、面白いわね」
「うちのことっすよね。どういう意味かそろそろ教えてくださいよ」
「およそ五百年前、五階が発足した当時、ある組織が社会に敵対した」
昔話だ。語り部が五階なのでどこまで信じられるかは不明だが、調べられる話があれば裏を取れる。
「ある女の離反により勢力図は五階に傾いた。母親はモンゴル人で父親はシンガポール人、国籍はどういうわけか日本で、産みの親は試験管」
「クローン、いや、デザイナーズベイビーっすか」
「彼女の名は戸浦リティス、奇しくも聞き覚えが?」
話が見えないが、リグと関わりがあるのはわかった。表立ってざわつきはしないが、リグ本人が知らない話だ。表情でわかる。アリナが愉悦そうににやけている。
「五階は襲名制でね。関わるごとに名簿が増えて、名前に役目を割り振る。つまりはオリジナルや先代までのアリナさんやレンドウさんがいて、同じくリティスもいた」
「うちの関係者、っすか」
「なぜあなたが永久欠番なのか。リティスの離反が三度も続いたから、縁起で永久欠番にしたのよ。最後の一人はヒカエミ・リティス、これなら知ってるでしょう?」
注目の先は勝ち誇った顔への反応になった。リグの目にも涙だ。目が大きいので涙を湛えても視界が塞がらない。
「おばあちゃん」
「まさかに備えて監視対象にしたら、見事にそっちに抜かれていった。裏切り者の遺伝子でもあるのかしらね」
運命なんか信じてない。すべては人間の選択であり、選択は環境と報酬だ。しかし、可能なすべてを説明し尽くしたとき、分からないことさえ分からない範囲があるかもしれない。縁起はそうして決まる。考えが変われば元に戻せる。百年後や二百年後になるかもしれない。個人が滅んでも共同体は滅びない。
「お嬢様、ひとつ」
「どうぞ特別予算。仕事熱心ね」
「なぜ今その話を? 関わりあるように思えませんが、何をお望みなのでしょう」
リグが新情報を受け入れる間の忙しい背中はレデイアが守る。アリナは自嘲じみた笑みで返した。
「関わりないけど、関わりたいのよ。私がね。今日が最後のチャンスだから。手土産もなしに頼めない話を」
憂いた顔で続けた。今度も一見して関わりない話から。
「生物は分業により能力を高めた」
単細胞生物はひとつの細胞がすべてを持っている。補食から排泄まではもちろん、泳ぐ歩くも鞭毛でできる。多機能な細胞が単細胞生物だ。対する多細胞生物は、ひとつしか機能を持たない細胞をいくつも繋ぎ合わせて総合的にはより優れた機能を得た。まず体が大きい。顕微鏡がなくても見える。
その多細胞生物がさらに集まって群れを作った。草食獣は外敵からの生存率を高められる。肉食獣は獲物にありつく機会が増える。これらはまだ、大きさの他は単細胞生物と同じだ。どこかが抜けたら抜けた後の群れとして練り直す。群れは大きな個だ。
群れをさらに集めて社会を築く生き物もいる。ハチだ。収集担当の群れがいて、生殖担当の群れがいて、給餌担当の群れがいる。巣のひとつごとに巨大な一匹かのように振る舞う。社会は巨人だ。
そしてお待ちかねの人間は、細胞を集めた個人、個人を集めた群れ、群れを集めた社会、そして社会を集めた国家を築く。人は巨人の一部だ。指一本さえいくつもの細胞の群れで成り立つ。群れが五つで指も五本となり、それらへ指示を出す神経があり、必要な資材を運ぶ血液がある。血液の通り道の血管がある。すべてが細胞でできている。すなわち、製造者と商社と運送業と建築業だ。
もし人間をさらに強くするならきっと国家をさらに集める。ただし、今はそうするだけの理由がない。外敵あるいは獲物がいないからだ。たとえ宇宙人が現れようと、既存の分類を覆せるかはまだ怪しい。相手側も同等に文明を築いただろうから、地球文明と異天体文明の間で付き合うかもしれない。
「五階の役目は人間で埋める。人間は代替可能な駒で、名前さえ借り物を使う。ただの歯車なのよ、わたしたちは。わたしはわたしでいたい。誰でもない役割なんかじゃなくて」
アリナの吐露にはそれぞれ同情するところがある。レデイアは政略結婚の弾として育てられ逃げてから個人になった。リグは反対を振り切ってメイドの道へ挑んだ。ロゼは境遇に抗い続けた。ダスクは役割から個人に戻してくれたからロゼに付き従っている。
メイドたちは自分のための生き方を求めた。得られる場所が偶然にもメイドだった。理屈の上では別の道もある。レデイアは家を離れられるならどこでもよかった。ロゼは落とし前をつけさせられるならどこでもよかった。警察でも、弁護士でも、医師でも、運送業でも販売員でも音楽家でも、自分の生き方ができる道はいくつでもあった。選びやすいものを選んだだけだ。どこへ行こうとリグとダスクはついてくる。
ロゼが試すように口を挟んだ。「歯車にも個性がある」
アリナは鼻で笑った。「知ってる。歯の形がベルヌーイ曲線で、歯の数を互いに素の関係にして、負荷を減らすほど寿命が伸びる。でもそんなのは個性じゃない。ただの性能差でしょう」
ロゼは食い下がる。「もっと前の話で、回転軸に対し平行、垂直、斜めだけで十分だ」
アリナも食い下がる。「それは役割」
ロゼは持論につなげた。「役割を先に考えるからそうなる。半端な角度でさえ噛み合えば回る。歯車の話は終わりだ。人に戻ってこい」
文化は思考を左右する。誰が、何を、どのように、どうする。優先順は文化圏が決める。五階は主語に無頓着で、メイドは補語に無頓着だ。
「強情な。人が先にいて役割を充てがうって? ならばあふれた役割はどうなる?」
「どうにもならない。足りないなら足りないなりに動く。求人でもいい。習得でもいい。諦めでさえ選択肢にある」
「結局は役割を埋めていくでしょう」
「水掛け論になってる。どうやら前提から違う」
「そうね。でも没落令嬢、組織としては役割が先。これは譲れない」
「正しい。組織として優れてるのはそっちと私も認めてる」
「組織として以外なら優れられる、と。じゃあ個人?」
「そうかもな。私は私が生きやすい場所を求めて今この場にいる」
「野生の獣みたい。四人とも、今も、末路も」
「知らないか? 靴を履くなら手より足、道具を持つなら足より手だ」
熱くなった頭に冷や水をかける。すぐ言い返すには難解、焦って間違えれば言葉がわからなかった猿、なので落ち着いて読み取って答える。
適材適所。無い物ねだり。隣の芝生は青い。意味だけなら簡単だが、なぜ言ったか。話の流れにどう噛み合うか。組織と個人の話だった。流れて文明と野生の話へ向かった。組織が先か個人が先か。この問題は単純で、鶏の後には卵だけだが卵の後には鶏以外もあるので卵が先だ。同じロジックで個人が先だ。個人は文明にも野生にもなる。
「わたしが組織の一員でなく生きる道は、わたしが一歩を踏み出す勇気にかかってる、と」
「意外と伝わるもんだな」
「わかった。わかったよ。よーくわかった。ありがとう、あとは自分でやれるから」
「応援しておりますわ、お嬢様」
嫌味のように慇懃に、それでもアリナは意を決したような笑みで返した。
五階にも悩み事があった。たとえ組織にいても細胞にした個人がなくなりはしない。
「ならロゼ、その理屈に合わせたら、敵の評価は」
最有力となる候補に絞って答えた。名はRORA、過激な行動も見られるが流通の窓口のひとつを担うので積極的には潰れていない。
ロゼは「人狼の群れ」と評した。表向きには人間らしく分担した巨人のようにも見えるが、実際は狼のように個々人は好き勝手にやる。
「そっちと何が違うのよ」
「私らは名目上の分担もしてない。ただの狼だ。レデイアは猿」
「未来がない狼ね」
自分でも分かっている。言わせておく。再生産に寄与しない職能のブラックホール、親から子へ奨めない職業ランキング上位の常連、なくても困らない職。元を辿れば産業革命だ。道具の力で誰もが同程度の成果を出せるので貴族の権威が薄れた。メイドへの賃金をはじめ再分配は行政が担った。労働力は洗濯機と食器洗い機とロボットが担った。メイドはかつての栄華を失った。今もさらに。内偵として活躍するほど内偵として役に立ちにくくなっていく。
生き物としても。同性愛に未来はない。自分が死んだら終わりだ。少数なので余力で養えるし、子孫でない方法での社会参加もあるが、すべては死ぬまでのせいぜい五十年だけだ。経済は五十年より長く続く。ある世界的に有名なユダヤ人の没後二千年以上を記録している。生き続けた人間はいないが、細胞分裂により寿命をリセットして血族が残っている。
すべて理解した上で、自分を犠牲にはしない決断をした。向き不向きの問題だ。
「で? 狼さんのスカートは仕事向きなの?」
満を辞してレデイアが割り込んだ。
「もちろんですお嬢様。秘密をお見せしましょう」
スカートをめくった。自分のではなく、ロゼの下半身を勝手に見せつけた。
皆が期待した艶かしい脚はなく、蒸れを解消するタイツに始まり、砂利があっても平気なニーパッド、数を見誤らせる予備弾倉、破れかぶれに備えたナイフと小型拳銃、そしていくつもの投擲物が並ぶ。破片手榴弾、煙幕、フラッシュバン、テーザー銃など、あまり使いたくないが必要かもしれない品だ。ひと息つける状況でスカートから出しても間に合うような。あとは股間に、非常時に備えたGPSを隠し持つ。武装解除してもしばらくは残せるように。
「自分のをめくれ!」
「ロゼのほうが多いでしょ」
ではロゼがやり返すとレデイアの脚には身軽にナイフと小型拳銃のみ、犬猿の仲を見て笑顔のリグとダスクといえば、パニエで膨らませているように見えても内側はニッカポッカ風に裾を絞ったスカンツだ。片足を持ち上げたらわかる。
「うちはメディックなんで、隠し持つ利点とかないんすよね」
「私も身軽なほうが、それに私の分までロゼが持っていますし」
拳銃のホルスターは閉所での動きかた次第で位置が変わる。レデイアは普段からマスターキーとして慣れた太ももに、ロゼは足首に、リグは腋に、ダスクは一人だけ大きいのでエプロン下に。
賑やかなブリーフィングを終えた。使える道具は出揃った。使える空間を頭に入れた。あらゆる動き方をイメージした。明日が本番だ。




