表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/24

いばら姫と騒がしき森の中

 胸いっぱいに吸い込めば、すぅとした薄荷水の様な空気に満ちる森の中に漂う、張り詰めた気配。それを醸しているのは、サンドリーネ。


「ん!男の子!ん!」


 男の成りをしている彼女には、てんで興味がない様子のパッパリーヤな王子。ふん!ズルズル……。ゼリー状のソレをひと息吸い込む。一度合わした視線を、プイッとローズの方に向けた。


 満足そうに微笑むペロー伯爵。娘に続いて臣下の礼を取る。


「ごきげんよう、殿下。朝のお散歩で御座いますか?」


「ん!えと?だれ」


「お城に仕える者ですよ、そしてサンディの父親でございます」


「サンディ?」


 フン!ズルズル……。タリリ。視線を再びサンドリーネに移した王子。慌てて父親の言葉を打ち消す彼女。


「ち!違いましてよお父様。わたくしの名前はサンドリーネですわ!」


「?……、女の子の名前だよ!ソレ!知ってるもんね、あの子はいないの!おしろに来ないもん!君は男の子なのに、どしてその子の名前を言う?」


「わたくしは女ですわ、王子様、事情があり、男の服を着ておりますが……、れっきとした令嬢で御座います」


 ズルズル……、テリリ。グルグル……、クルルルルル!渦巻きが高速回転をし始めた!視線を下げているローズだが、エアリーのちょっと見てみん?目玉グルグルやで。の声にそろりと見れば……。


 ……、はう!なんですの?目玉のグルグル模様が動いてましてよ!魔女達にお聞きしたいですわ。それか魔法書で調べてみたいですわ。あら?何かしら……。


 手のひらがムズムズと、こそばゆくなったローズ。彼女の本の虫が動いている様子。キュッと握りこぶしを作ると、だめよ。後でね。となだめた彼女。


「はくひゃく令嬢?男のコの服を着てる?変だ!おかしい!このまえ読んだ、おとぎ話ではあべこべの服着た、悪い魔女が出てきたしぃ!はぅ!お前はその本から出てきた魔女らな!魔女は火炙りって、書いてあったし!えひえい!えひえい」


 ローズがグッパグッパとしている最中、ますます騒がしくなる森の中。木馬を引っ張っていた衛兵が命を受け、動くべきかどうか、状況を見定めている。そこに哀れなサンドリーネの声が響く。


「ち!違いましてよ!王子様」


 妻にそっくりな娘の事が、愛おしい父親の声が重なる。


「違います!我が息子は少しばかりおつむりが奇しく!バカなのです!自分のことを女だという病気なのです。殿下!」


「お父様!バカとはどういう事ですの?」


「サンディや!お前は男なのだよ!殿下もそう仰られておる」


「フン!ズルズル。およふく、間違ってないよ!僕は。エッヘン!そだよ。女のコがドレス着てないのは、おかしいのだ!」


 そうでございますとも!殿下!お利口さんでいらっしゃいます!王子に付き添う侍従のひとりが、場を収める為に声を上げた。そして封書を一通、恭しく主に手渡した。


「フン!ズルズル、ズルズル……。エッヘン!そこな赤いおよふくの女のコ。近うよれ」


 ひい!手のひらに気を取られていたローズは、息を飲んだ。とんでもない事が起こりそうな予感が、彼女をひしひしと包む。やはり空に逃げ出しておけば……。後悔の念が胸の内にフツフツと音立て沸き起こる。


「はい……」


 頭を深く下げたままで、ドレスを上に引き上げしずしずと近づく。


「フン!ズルズル……、お名前は?こたえよ!」


「名は……、ローズですわ」


「ローズ!コレをそなたに、城で待ってる!」


 手にした封書を、再び侍従に手渡した王子なのだが……。それを受け取った侍従は少しばかり顔をしかめると、見たところ異国の御方でございますゆえ。と申し立てた。


「少しばかり彼女とお話をしてもよろしいでしょうか?殿下」


 伺う彼に鷹揚に頷くパッパリーヤな王子。木馬に跨った彼は両足をパンパン、腹に当てて遊び始める。


「失礼では御座いますが、旅の途中でしょうか?お嬢様」


 ローズに問いかけた侍従。


「ええ、そうで御座いますわ。向こうでお供の者達がいますの」


 エアリーがサワサワ、ザワザワと枝葉を揺する。


「お急ぎでございますか?」


「ええ」


 ローズの答えを受けた侍従は、白馬の木馬に騎乗する主に、この『舞踏会の招待状』をお渡しする事は、無理ではないでしょうか。と伺う。


「ん!旅の途中?むぅ!せっかくの、赤いおよふくの女のコなのに!」


「それはそうでございますが、殿下。今宵の舞踏会は特別なもので御座います。他国の御方をお呼びになられるのは……」


「おととい、読んだお話だと、旅の途中のお姫様と結婚する!王子様がいた!だから渡せ!ダイジョーブなのら!」


 青の瞳に描かれた渦巻きが、再び高速回転を始める。



 ……、ダイジョーブではありませんわ!


 即座に断りたいローズ。


「でも殿下、先をお急ぎになられているのですよ」


「うううん!渡せ!渡さないと、これから、お野菜食べないもんね!ケーキばっかり食べるもんね!フーンだ!フーンだ!ぷんぷん!」


 足をバタバタと動かすパッパリーヤな王子。困り果てた侍従。宙に浮いた一通の招待状。それを羨まし気に見つめるサンドリーネに気がついたローズは。



 ……、もしかして、招待状を手に入れれば、わたくしの代わりにお城へ……、という事も出来るのではないかしら……。


 ふと、思いついた。プンスカ!プンスカだもんねぇ!お城に戻ったら、お母様に言いつけてやるモンモン!フーンだ!とタダをこねる主をどうしようかと悩む姿の侍従に、ローズは声をかける。


「行けるかどうかは、お供の者に聞かなければなりませんが……、お受け取りだけなら、受け取りましょう」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 個性的なキャラきましたね! これはもしかして良展開へ向かっていくのでは!(期待)
[一言] 王子が気になって内容が入ってこないwww
[一言] 「王子」のキャラ凄すぎです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ