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いばら姫は、出来れば逃げ出したいと思った

 ……、パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカ!ガラガラガラ……、パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカッ!!ガラガラガラ。


 野太い声の集合体と、地面をえぐり削りながら進む音が近づいてくる。


「なんですの?何が来ますの?」


 身構える硬い声のローズ。


「王子様ですわ、朝のお散歩なのです」


 うっとりとした甘い声のサンドリーネ。


「世界一お馬鹿な王子様ですの?その。何処でお知り合いに?それと何時、呪われましたの?」


「それは……、これでもお母様がいらした頃は、ドレスアップをし、髪にリボンを飾り、お城へ出向いた事がありました。その日は乗馬大会の日でした。王子様は退屈されて、その場を駆け回っておられたのです。そして、手にしたクリームお菓子をポトリと落とされて……、フーフーしたら大丈夫と言ってわたくしに天使の様な微笑みを。その時からなんて可愛らしいと心を寄せているのです。呪いは……、生まれた時に名付け親の手違いだと、教えられました。呪文を間違えたらしくて……、世界一賢い王子と結ばれ、死ぬほど幸せになるという事だったらしいのですが」


 思い出に耽り話すサンドリーネ。それを聞き、七番目の魔女を思い出すローズ。


「呪文……、流行ってたのかしら?唱え間違いとか……、それよりも!馬場で落とされたクリーム菓子を?フーフー?」


「ええ、侍女が血相変えて飛んできましたわ」


 微笑み話すサンドリーネ。乗馬大会!馬場。そこで落としたクリーム菓子をフーフー!ひ~!幾ら馬丁が馬の落とし物を、見つけた毎に丁重に拾っているとはいえ、もしかしたらもしかする可能性も、なにきしもあらず……。ローズは息コクンと飲みフルル……、身震いをした。


「ああ。もうすぐ来られます。今日も駄目ですわ。きっと、男に思われてしまわれます」


 ギュッとドレスの残骸を握りしめ、音がする方向を、一心に見つめるサンドリーネ。


「あの……、何が駄目ですの?確かに男のなりをされてますが、きちんとた御令嬢に見えますけれど」


「いいえ。あのお方はとても純粋なのですわ」


「お声も女性でしてよ、喋り方も。なのに?」


 怪訝に思うローズ。悲しそうにドレスの残骸を胸に押し当てるサンドリーネ。


 チチチ!ピピ!ガサガサ!梢から小鳥が警戒音とも聞こえる鋭く甲高い声を上げると枝を揺すり、逃げる様に飛び立って行った。



 ……、パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカ!ガラガラガラ……、パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカッ!!ガラガラガラ。



 野太い声の集合体と、何かを引きずり進む音が近づいてくる。ソレに混じり王子と思われる声が、二人の元へ届く。


「パッパラリーオ!進めぇ!うまぁ!ハイドウドウ!」


「ああ!なんて可愛らしいお声なのでしょう」


 パッパラリーオ!そのフレーズを耳にした途端、ローズは不穏を感じ、小鳥や足元を転がり逃げるリスの跡を追おうかと思い、サンドリーネは頬を赤らめ恋する乙女の表情を濃くする。


「ローズ!すんごいのが来る!」


 エアリーがふわりと戻り、ローズの耳元に唇を近づけると囁く。


「すんごいの?ええ。わかりましてよ。動物達が逃げ出しましたもの。あの?サンドリーネ様、どうされたのにですか?お顔が赤いですわ、それと、何かおかしな事を仰りませんでした?今……」


「ローズ。この姫さん。パッパラリーオが好きなんとちゃうか?」


「は?嘘……、その、サンドリーネ様は、今から来られるお方がお好きなのですか?」


「ええ。フーフーした時の笑顔が天使のようでした。それからずっと心に決めた殿方ですの……、そしてわたくしは、きっと王子様の運命の相手……」


 夢見るサンドリーネ。彼女が甘い吐息に絡め言葉を漏らした時、野太い声とは別方向から正真正銘、馬の蹄の音が近付いてきた。


 ……、パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカ!ガラガラガラ……、パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカッ!ヒヒヒン!


 ソレに気がついたエアリーが、ちょいと見てくる。と言い置くと場を離れる。蹄の音に混じりサンドリーネの名を叫ぶあたり構わず叫ぶ声が届く。


「お父様ですわ!ああ!何てこと……」


 ボロ布と化した亡き母の形見のドレスを握りしめ、顔色を青くするサンドリーネ。


「サンドリーネぇぇぇぇぇ!泉だなぁぁ!サンドリーネぇぇぇ!」


 前門から猛り狂った獣の咆哮。


「パッパラリーオ!進めぇ!うまぁ!ハイドウドウ!」


 パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカ!ガラガラガラ……、パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカッ!!ガラガラガラ。


 後門からは、世界一お馬鹿だという王子の声に混じる、野太い声の集合体。


小鳥は飛んで逃げていく。ポチャン!跳ねる水飛沫。クラウンを作ると小魚達が、水中奥深く潜って行く泉。ローズの足元で、リスがコロコロ、転がるように駆けていく。


 ……、呪文を唱えて逃げようかしら。


 ローズが場を離れようと、詠唱の言葉を出そうとした時。


「おねがいします。魔女様。ここにいてくださいまし!」


 ひしっと腕を掴んで来たサンドリーネ。ローズを真っ向から見る瞳には、全身全霊で助けを求める色が浮かんでいる。


「サンドリーネぇぇぇぇぇ!泉だなぁぁ!サンドリーネぇぇぇ!」


「パッパラリーオ!進めぇ!うまぁ!ハイドウドウ!」


 パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカ!ガラガラガラ……、パッカッ!パッカッ!パッカッ!パッカッ!!ガラガラガラ。


「ローズ!むっちゃ!すんごいおっさんが、鬼みたくなってな!こっちに来よるわ!パッパラリーオとまさかの対決!」


 おもろなってきた!エアリーが笑いながら空を舞い、戸惑うローズの元へと降りてくる……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 滅茶苦茶面白いwwww
[一言] すみません。 「パッカッ!」が「バッカッ!」に見えて来ました。
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