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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第四幕・ラグナロク
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4-7騎士の誇り

 放たれた狂気の言葉。背筋を凍らせるような殺意。咄嗟にセラフに後退の指示を出そうとした刹那、一瞬でセラフの手首を捕まれ強引に懐に引き寄せる。


 咄嗟のことに頭が追いついていなく、唯一ニィっと不敵な笑みを浮かべたトールを見つめることしかできない。だが、引き寄せるだけで済めばいいのだが、そうもいかないのが命を賭けた争い。それでもなにかするとわかっていても言葉にする前に、いち早くトールは動く。


「雷帝の鉄槌」


 静かに呟き、地面に張った電気が空いている拳に帯電させると同時に、引き寄せられた勢いでセラフの胸を貫いた。術者の命や記憶、そして魔力で成り立つ天使と言えど、容姿は人そのもの。ならばと人の急所である心臓を帯電した拳で、それも一突きで貫いたのだ。


 電気を纏った一撃。内部に流れる高圧の電流と、胸部を大きく貫かれた痛みが交わって声にならない悲鳴がセラフの口から漏れる。貫かれた胸部の先にはトールのゴツい拳。その手には紅く、そして身体からもぎ取られたのに関わらず脈を二、三回打つ心臓が握られていた。


 腕で傷口は塞がれているとは言え、絶え間なく鮮血が流れ、さらに可視化された魔力も暖かな光となって空に消えていっている。回復も追いつかず、血が流れ続けることによって身体も魔力の粒子となり、もはや姿を保つのもやっとになっているのが目に見えてわかる。


 しかし、ズボッと手を引き抜かれると、命を刈り取られた身体は、虚しくも力なくその場に倒れ起き上がることもなく、ただただ静かにその場から消滅した。


「セラフが……そんな……一発で」


「あーよくやったよ。この俺をここまで本気にさせたんだからな。さて次は……楽しめなさそうな人狼からだな」


 強すぎる。もはや誰から譲ってもらったのか覚えていないが、それでも、やろうと思えば世界を支配できる魔導書の力を持った天使を一撃。それも確実に急所を突き回復すらできない状態にさせたのだ。もはや絶望の顔を浮かべるしか無い。


 だがエリスの絶望の顔など微塵も興味もない彼は、「天使様にも心臓はあるんだな」とポツリ呟き、なんとか原型を保つ心臓を力いっぱいに握りつぶす。加えて、天使が完全に消滅したことを確認すると、ゆらりと後ろを振り向いた。そこにはエリスの全力であるセラフを一撃で仕留められたことに……いや、それよりも彼が躊躇なく命を奪った瞬間を見て、顔色を青くさせている双子が身体を震わせているのだが、更に恐怖を植え付けるように睨みつける。


雷乃声明(ライメイノコエ)。お前とは十分に楽しめた。また後で処刑してやるからそこで一人寂しく見てろ」


 攻撃対象がエリスではなく、人質を除いてこの場にいる誰よりも弱い双子に行く。先程の攻撃で地面の電気はなくなったからと、急いで二人のもとに向かおうとすると、そうはさせまいと再び電気を走らせる。今度は正確にエリスの周囲だけ。一歩でも踏み出せば感電は間違いない状況だ。


 だが彼女は決してめげることはなかった。天使を一撃で殺した相手なのにも関わらず、一心不乱に足を踏み出す。


 もちろん包囲するように張られた電気は、テリトリーに入った彼女を見境なく襲う。それでも、更に足を出す。もはや彼女は満身創痍だというのに、全身痛くて、辛くて、何もわからなくなってきてるのに悲鳴すら挙げず、張られた電気の網を自力で抜け、よろめきながらも急いで双子の前に立った。


「セラフはいなくなったけど、私は……独りじゃない。頼もしい親友(なかま)がここにいる……そして私は騎士。身を挺して親友(なかま)を守らずして……騎士は語れない!」

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