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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第三幕・地下の街《スヴァルトアルヴヘイム》
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3-8穴の先①

「とりあえず私は、この穴を辿りますけど、貴女方はどうするんです?私としては人狼の貴女方が先に行って欲しいところですけどねぇ?」


「相変わらず嫌な人ですね……貴方って人は……武器を持つ騎士さんが先に行くのが妥当だと思いますけど?違いますか?」


「随分と人を疑うのが様になってきたじゃないですか。ハティ。いいですよ、貴方の顔に免じて先に行きましょう」


 若干喧嘩腰の会話ながらも、不思議と提案を妥協する騎士。本当に戦う意思はないらしい。けれどそれが本当かどうかなんてわかるはずもなく、未だ疑いの目を向ける。


 それでもそそくさと穴にはいるからこそ、少女達も跡を継いていくことにした。が、万が一のことを考え、アルミラージとアルヴィースだけは待機となった。


 まるで虫食いのように不規則な凸凹とした穴。先に進めば進むほどどこに向かっているかもわからないし、どこに繋がってるのかもわかるはずない。


 けれど暗い穴の中、確かに足を進める他なかった。一刻も早くこの事態を解決し、魔導書も回収しなければならないのだから。


 その時だった。ゴゴゴと地響きのような音が獣人の耳を貫いた。地面が震え、音が全体的に響く中、微かに右前方から大きく聞こえるのは確か。このままでいれば間違いなく、距離を置いて歩くエリスが何かに巻き込まれる。


 敵対する者同士、このまま放っておくのも悪くは無い。しかし、双子は音と共に恐怖を感じていた。この音を奏でるモノは限りなく、いや確実に二人では倒せない強者であると。


 故に。


「エリスさん!急いでこっちに戻ってきてください!」


「はぁ?なんで貴方の言うことを――」


「早くしないと〜!死ぬよ〜!」


「この地響きで頭おかしくなりやがったんです?まぁいいでしょう」


 と溜息を付きつつ、少女達の元へと戻った直後。更に地響きが大きくなると、少女達の目と鼻の先に壁ができあがった。


 いや正しくは横から生えてきたというのが正しいだろうか。でも少女達にはそんなこと気にすることは無かった。何せその壁は全て鱗であり、地響きと共に地中の中を突き進んでいるのだから。


「なるほど……柄にもなく私を助けたんですか」


「それの“声”を聞いたら、二人じゃ倒せないって感じたので」


「はい?今なんて?この音だから聞こえないんですよこっちは。いいですねぇ貴女方は、よォく聴こえる耳を持っていて」


「その変なやつの声を聴いたら、強敵だってわかったんです!で、今エリスさんを失うと全滅すると思ったんです!!」


「ふぅん。まぁ、そこまで言うなら私一人だけでも無理でしょう。それに鱗を見ただけで、何となく正体もわかりましたし……さて、この壁がなくなる前に貴女方に提案しましょう。一つは私だけを残して、貴女方は帰るか。もう一つは今この時だけ休戦とし、三人でこの化け物……いやヨルムンガンドを討伐するか。ちなみに前者を選ぶと、もれなく世界が終わりますねぇ」


 悪戯混じりの悪どい笑みを浮かべ提案してくるが、悩むことなく後者を選ぶ、いやこの状況下で後者を選ばなければならないからこそ、休戦を受け入れる。


 更にいえば、休戦だけを見ればハティ達にとって、悪く無い話だった。


 なにせ敵対する者同士であり、力量でみれば今の少女二人ではエリスに勝てることは無いのだから。


 それから暫くすると壁がなくなり、地響きも次第に収まる。すると案の定、少女達が歩くこの穴と同じ穴が出来上がっていた。やはり、今の壁ことヨルムンガンドが穴の原因であることは間違いないのだろう。


「さて右に進みましょうか」


「え?今の左に向かいましたよ?」


「わかってませんね。右から来たんですよ?てことは右の穴を進めば巣に入る可能性があるんですよ。そんなのもわからないんですかぁ?」


「ぐぬぬ……ちょっと頭いいからって私達を馬鹿にするなよ〜エリス〜!」


 休戦とは言いつつも、嫌味を混ぜた口は減ることなく、協力する意思はあまり見えない。けれどその言葉で頬を膨らませ怒るスコルも、小さくため息をつくハティも、今はただエリスの後ろをついて行くことしかできなかった。


 巨大蛇ヨルムンガンドの討伐という目的が、三人とも一致しているからこそ前へと進むのだ。


 そして敵であるエリスは前を。少女達は少しの音も聞き分ける耳で、後ろと周囲の警戒を怠らずに。

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