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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第三幕・地下の街《スヴァルトアルヴヘイム》
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3-4フギン

「それにしても……随分と深そうですね」


「ユグドラシルの裏側に繋がってたりして〜」


「繋がってたら凄いですね〜まぁ、昔読んだ本に載ってる通りだったら、確実に繋がってませんし、仮に繋がってるとしたら多分真ん中で燃えちゃう気がしますけど」


「ハティが夢壊した〜」


 大穴へとたどり着いたものの、入る手段などは見つからない。いや、最悪の場合ソールが唱えた弐の魔導雅語の魔法で降りることは可能だろう。


 だが今から向かうのは一刻の街。なんの前触れもなく〈魔獣・鳥(モンスター・バード)〉で降りれば問題になりかねない。


 ならばこそ入国ルートを模索するが、〈魔獣・鳥(モンスター・バード)〉以外で穴の中に入るとするなら飛び降りるしかない。が、底が見えない程深い穴だ。獣人である少女達ですら飛び降りれば一溜まりもないだろう。


「うーん……仕方ないです、鳥呼びますか」


「え、鳥呼べるっスか!?」


 驚きの声を他所に白色の魔導書――第弐の魔導書・召喚(サモンズ)を取り出し、〈魔獣・鳥(モンスター・バード)〉を唱える。問題になっても入り方がわからなかったと、ちゃんとした理由を伝えれば問題は起こらないだろうと、勝手な決めつけをしてだ。


 唱えると言っても、呪文など一回使わない省略詠唱(クイック)。効力が著しく落ちるが、今この場では落ちても問題は無い。


 なにせ高く飛ぶのではなく、ただ降りるだけ。なんならその場から動くこともない。故に問題は無いと省略詠唱(クイック)で唱えた。


 刹那、夜になりかけている紫空(しぞら)から巨大な影が地上へと舞い降りる。羽ばたく度広がる漆黒の闇。さらに悪魔でも降り注いだかの如くの“恐怖”を持っていた。されども省略詠唱(クイック)により無害となっているようで、少女達は一切怯むことがなかった。


「あれ……?ソールさんが呼んだのと少し違うような……気のせいですかね」


「とりあえず行こうよ〜」


 ハティが抱えた疑問。それは紛れもない真実。ソールが呼び出したのはただの鳥……いや大鷲だ。それも無名。


 しかし少女が呼び出したのは黒い大鴉で、フギンと呼ばれる鳥だ。されども名がある鳥だとは知らず鴉の背中に乗ると、そのまま穴の中へと飛び降りた。


 羽ばたくことなく直線上に重力に沿って落ちる中、フギンの羽を強く掴む少女達は恐怖から叫んでいた。


 ……一人を除いて。


「ひゃっほ〜!」


「ちょっ!スコルさん!なに楽しんでるんですかぁぁ!」


「怖いっスゥゥゥ!!」


 急降下がまだ続いているにも関わらず、楽しむのはスコルのみ。かなりの速度があり、反発重力が襲いかかるのに片手を離したり、楽しみの表情として尻尾を振り回したりしている。


 一方で、しがみつくようにしてフギンの背中を掴む二人は、急降下の悪夢が早く終わるようにと目を回しつつ涙を流して祈るしかなかった。


 ――暫く悲鳴が穴の中でこだまする中、突然の浮遊感が三人を襲う。


 どうやら地面に着いたようだが、それよりも浮遊感で内臓を持ち上げられ、恐怖が一瞬にして吐き気に変わり、三人はフギンの背中から動けなくなっていた。


「うっぷ……気持ち悪い……けど楽しかった〜!」


 否、唯一動けたのはスコル。自身に降りかかる重力を楽しんでいたからこそか、浮遊感ですら楽しんでいた。けれども逃れられない吐き気に口を抑えてしまうが、なんとか飲み込みフギンから降りる。


 他の二人も吐き気が治まったところでフギンから降り、大地に足を踏み入れた。


「降りてきたものの……ここが地下の街スヴァルトアルヴヘイムなんですか?」


「いや、聞かれても困るっス」


「ともあれ前進あるのみだと思うんだ〜。てことでいざゆか〜ん!」


「あ、ちょ……もう仕方ないですね」


 穴の先は薄暗く、されども石が淡く光る洞窟。故に土の匂いが鼻腔を刺激し続ける。が、獣人である少女達は暗さなど一切気にすることはない。


 与えられた魔力が切れ、フギンが自然消滅した後、目の前にある洞窟を通り、次第に目に映る蒼炎を元に進んで行く。


 こうして印があるということは向かった先に何かあることは間違いない。それに蒼炎で淡く照らされている道には魔物一匹もいない。つまるところ魔除けだろう。


 現に洞窟だけあって幾つか分かれ道があるが、その先には魔物がうじゃうじゃと、到底指では数えきれない数がいるが、向こうから蒼炎の照らす道には向かってこないのだから。

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