2-38「仲間を救ってくれた人に、悪い人はいない。少なくともボクは、そう信じる」
九尾とウォンが目を覚まし、マーニから約束の第二の魔導書と氷獄の実を貰い受けるハティ。
ふと少女は黒蝕狼について尋ねるのだが……
「少なくともスコルが死ぬか、封印を解かなければね」
ライラプスがその言葉を発すると同時に治療を受け眠っていた九尾とウォンが起き上がり、こちらを凝視していた。
「も、もう大丈夫そうだね……」
「あ、九尾さん!ウォンさん!」
「全く、なに自分の力に呑まれてんだ人狼……危うく死ぬところだったんだぞ」
凝視していたのはハティが未だ暴走してるのではないかと心配したから。それもそうだろう、先程まで九尾とウォンは暴走したハティに襲われていたのだ。仕方ない事ではある。
「で、ハティ。目的の魔導書と実は手に入れたのかい?」
「あ!そうでした!ソールさんマーニさん!一応私勝ったのですから魔導書と氷獄の実を!」
魔導書と氷獄の実のことをすっかり忘れていたハティ。九尾にいわれなければずっと忘れたままその場から離れてしまっていただろう。
そんな様子を見てマーニはキョトンとした顔をうかべる。が、「確かに負けは負けだものね」と隠していた白い魔導書と氷でできた林檎の様な実をそのまま渡す。
「ってさっきとなんか雰囲気違いますね!?こんなに軽く渡されるなんて……」
「話聞いてたら信じるしかないからね……ソールを傷つけたことは許したくもない事実だけど、我を取り戻したあと必死に回復魔法使ってたのわかってたし……それにしても魔導書はともかく、その実はどうするの?」
「え、あ……えーと食べるん……ですかね?あでも硬いし大きくて口に入らないです……」
「ハティ〜それ一口でじゃなくて少しずつだよ〜」とハティの耳元で呟くスコル。耳元で呟く必要など無いはずだが、スコルだけは必要だと思ったのだ。ソールとマーニの口付けを見せつけられた為、こっちも見せつけようという魂胆だ。
しかし少女の行動は仇となる。というのも耳元で呟かれ顔を赤らめたハティが、驚いた拍子に「やぁっ」と色っぽい声を出し、後ろにいたスコルを突き飛ばしたのだから。
だが、似たもの同士と言うだけあり、マーニは表情を変えることはない。強いて変わったと言うならばソールだ。もう時間も経っているというのにハティの行動一つ一つに脅えてしまっている。
暴走する前まであんなにも元気が良かったのに、最早別人の如く元気がない。
「……あ、負けたしソールを助けたお礼。なんか聞きたいことあれば聞いていいよ一個だけ」
はぁ……と氷獄の実をヒョイっと取り上げると、魔力を氷獄の実に流す。するとガラスにヒビが入る音が響き、氷獄の実は四つに割ける。
「氷獄の実はこうやって食べるの……で、聞きたいことは?」
「あ、ありがとうございます」と裂けた氷獄の実を受け取るハティは、
「な、なら黒蝕狼知りませんか!?」
「げ、黒蝕狼……それなら人の街の地下、屍眠る牢獄に……って人狼ちゃん本気!?」
黒蝕狼の名を出した瞬間。ソールは驚きを隠せなかった。なにせ黒蝕狼は数が少なくなってるとはいえ凶暴な魔物。噛まれれば四肢が絶たれ機能も失う。更には一分も経たないうちに腐敗が始まるほどの病を持つといわれているのだから。
しかしそれを聞いて止まってはいられない。少女達には魔導書を完成し、終末を止めなければならない使命がある。
他言無用なんてことは言われてはいなく、今回の氷獄の実と黒蝕狼を倒さなければならない理由を話す。
どれもこれも意識が無いうちに、ソールを傷つけ殺してしまいそうになったお詫びとして、敵である彼女達に話した。
「――聞いたことある……終末……世界を変えるための兵器……まさかそれが人の街にあるなんて」
「私も聞いた時は驚いたよ。まさか終末があるなんて……それも止めるにはその魔導書が必要なんてね。それにしても疑わないんだね」
「ソールを救ってくれた人、獣人には悪い人はいないから……少なくともボクはそう信じてる」
普通敵同士ならば相手の言葉など信じる必要性がない。なのにも関わらずマーニは自信の大切な者を、ソールを助けただけの理由でハティの言葉を信じる。いやそれだけではない。ハティを信じなければならない確かな理由があった。それは――
55話を読んでいただきありがとうございます。
今回初めての台詞型サブタイトルにしました!
それより次回。次回は敵地に乗り込む話です!お楽しみに!




