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双子獣人と不思議な魔導書  作者: 夜色シアン
第二幕・牙を穿て
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2-24フェンリルと蘇る記憶①

死国(ヘルヘイム)で、少女達の親ーーフェンリルが死霊の山を連れ宮殿から出てきてーー

「お母さん……」と、茶髪の人狼は死霊の先頭に立つ人物に向け、ぼそりと言葉を放つ。


「久しぶりね、ハティ。スコル。それと九ちゃん」


「その名は嫌いだと言ってるんだけどねぇ」


 死霊の大群がヘルの後ろに並び終わるのと同時に、フェンリルは前へ、前へと歩みを進め自分の娘に、友人の九尾に挨拶を交わす。


 だが彼女は決して生き返った訳では無い。証拠に彼女の肌が焼け爛れていたり、青く変色している部分が見て取れるからだ。


「母さん……許してください……魔導書を取られてしまいました」


「まぁヘルが持ってる時点でそうかなと思ったけど……私は取り返してあなた達に返すことができないわ。今は……ヘルの操り人形なんだから」


「話はそこまでだ……やれ死霊達」


 殺意の篭もった言葉が耳を貫くと、並んでいた死霊が少女達を襲うーー


 ーーはずだった。


железо.() клеть.() изоляция(隔離)


 聞き慣れない言葉がフェンリルの口から放たれる。刹那、襲いかかろうとしていた死霊の山を、ヘルを、九尾を隔離するかの如く、硬い檻で少女達とフェンリルを覆い尽す。


 まさにそれが錬詠唱(オーダー)。今の一瞬で一から魔法を作りだしたのだ。


「ヘル。これは私達親子の戦いよ?九ちゃんも手出し不要だからね?」


「チッ……忌まわしいフェンリルが余計なことを……」


「ハティ!スコル!気をつけるんだよ!」


 死した今でも自らの力は健在なのか、操り人形と言えど完全には操られていない様子。


 だからこそ、親子同士の戦いに水を差して欲しくはないのだろう。


「さてと……ハティ。見た感じハティは魔法使いみたいね。なら錬詠唱(オーダー)を良く聞いてなさい。そしてスコル。私の動きをよく見て動くのよ。じゃないと殺しちゃうから」


「や、やるしかないんですか……」


 実の親を相手に戦闘になる事に震える少女達。だがパンパンと手を軽く叩き、「それじゃあ行くわよ」と、震える少女をよそに、本気の殺気と共に彼女は動き出す。


「Песочное() жел()езо. воды.() пуля.() сверло.(ドリル)


 されども少女達に隙は与えることなく、錬詠唱(オーダー)を使用。一から作り出した魔法は、水の弾丸。それもただの水ではなく、砂鉄を含み、鋭く尖る水の弾丸。それが二つ彼女の周りに作り出されるや否や、かするだけでも、肉を抉るほど強く速いものがハティとスコルに襲いかかる。


 が、少女は生まれつき動体視力が良い。故に水の弾丸の速度は変わらないものの、どこに来るかはわかる。ならばやることは簡単。


「ひゃっ!」「と〜う」


 避ける。だ。


 だが、フェンリルは逃すことなくスコルに向かって駆けつつ、無詠唱で〈爆発(ブロア)〉をハティが避けた先に向け発動。


 ボンッと小さな爆発に巻き込まれると、少女は爆風により檻の端まで勢いよく吹き飛ばされる。刹那、スコルには飛び蹴りが襲いかかり、ハティとは逆の方向に放物線を描き勢いよく飛ばされる。


 これは双子達を離し、一人ずつ相手をする作戦。さすが少女達の親。戦闘慣れしてるからこそ、我が子を容赦なく優位に相手しようというのだ。


 しかし、少女達も負けていられない。意図的に離れ離れになった少女達は何とか体勢を戻すと、即座に行動を移す。


「あ……〈加速(アクセル)〉!」


 飛び蹴りに加え、硬い檻に背をぶつけ吐血したスコルは、痛む身体に鞭を打ち〈加速(アクセル)〉を使いフェンリルに攻撃を仕掛ける。


 同じくしてハティも爆風と檻に身体を打ち、痛む身体に鞭を打ち〈(フレイム)〉を……いや、違う。エリスのメモに書いていた、〈爆発(ブロア)〉を思い出し、小さく唱え始めていた。


「甘いわよ!」


 〈加速(アクセル)〉を利用した拳突き〈加速撃(アクセルドロップ)〉を繰り出すも、相手は同じ人狼。彼女にとって一瞬は見切れるものであるが、水の弾丸よりも高速で来るものは回避到底不可能に等しい。ならばと無詠唱で〈(ウインド)〉をクッションの代わりにしつつ、スコルの攻撃を受ける。


 と捕まれまいと少女は横に跳ぶと、同時に、スコルが唱えていた魔法、それも大きめの〈爆発(ブロア)〉がフェンリルを襲う。


 戦闘慣れした彼女のことだ。これも対処するのだろう。その場の誰しもがそう思った。


「あ……あぁぁぁぁぁあ!!!」


 爆発の中で悲鳴が轟く。


 実の親に殺されまいと必死になった少女達も、その光景を見てピタリと止まってしまう。


 正しくその光景は、あの時、目の前で実の親を焼かれた光景とほぼ同じ。


「ごめん……なさい」


「うぁぁ……!」


 またしても、実の親が焼かれる、それも自分達の手で焼いてしまい、トラウマの記憶が蘇ったのだ。

39話を読んでいただきありがとうございます。

今回は、英語タイトルではないですが、続編がある話となります。


そして、今回登場した錬詠唱(オーダー)。見てわかる通り、ロシア語を古代語の代わりとして引用してます。それぞれの意味はとても単調なもので、詠唱って言うほど詠唱してませんね……(汗)それにさほど強力なものが出てないという……まぁ、それはおいおい考えます。


さて次回は②近日中に公開です!


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