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33話「異能のたまり場」


 後輩の半田くんとジムに行った帰り、茨城さんにラーメンを御馳走になり、半田くんはジムに入会を決めていた。


「ケントくんも入るだろ?」

 茨城さんは分厚い筋肉を見せながら聞いてきた。

「いや、入らないですよ」

「リング上で何人の腕を折りかけたんだ?」

「それは、地獄帰りに戦いを挑むということは骨を狙われるということです。地獄の当然の流儀です。むしろ首を狙わなかっただけ、現世に合わせてるんですよ」

「違う武術ならやるのか?」

「だから、武道はやりませんよ。戦うセンスはないので」

「いや、異能者でそれだけ体が動く人間はいないんだよ」

「天狗さんがいるじゃないですか。俺は天狗さんの弟子ですよ。俺くらいでいいなら天狗さんに会いに行けばいい」

「山籠りをしろってか……。悪くないんだけど……」

「井戸さんに流れを聞けば、天狗さんが行きそうな場所はわかりますよ」

「そうっすっかなぁ……」

「コラコラコラコラ! 会長、何を言ってるんですか!? 今どき、山籠りなんて無理ですからね。それこそ訴えられちゃいますよ」

 横でラーメンを食べていたジムの人が反対していた。


「ケントくんは訴えたか?」

「いいえ。両親公認です」

「高校生でも行ってるんだぞ。恥ずかしくないのか? お前ら」

「恥ずかしいとかそういうことじゃなくて、死んじゃいますよ」

「ケントくん、山籠りは死ぬのか?」

「そりゃあ、死にかけないと強くはなれませんよ。え? どういうことですか? 強さじゃなくて、ルールの中で戦う方法を考えたいってことなら向いてませんよ」

「ほらぁ、会長、うちはスポーツジムですからね」

「んん……」


 茨城さんは仁王像のような顔で俺を見てきた。従業員には理解されないのだろう。だから、鬼頭さん家の道場に通っているのか。自分の実力を発揮できないということは、それなりに辛いのだろうな。


「道場で誘ってみては?」

「あそこは爺しかいないからな。でも、まぁ、そういうことだよな……」

 茨城さんは寂しそうにラーメンをおかわりしていた。

 


 翌日、美術部は休みのはずだったのだが、何故か鬼頭さんとブンちゃん、コンちゃんが来ていた。


「なに? どうしたの?」

「私も入部することにしたから」

「なんで?」

「美術部っていうと異能が出ても都合がいいってことに気付いたから」

「私たちもそんな感じ。尻尾が見えても美術部のコスプレとして成立できるでしょ?」

「だからって、なんで他校に来てるんだよ?」

「交流でしょ? 部活としてなら交流しても怒られないんだから、ルールの穴を突いてやったのよ! どう?」

「どうって言われても、なんかする? 別になにもないよ。絵描いてく?」

「いや、そうじゃなくて異能者の後輩が入ったって聞いたけど?」

「ああ、半田くんね。ハンターなんだって。茨城さんのジムに連れて行ったら、入会するって言ってた。時々、部活には顔を出すようになると思うよ」

「ああ、茨城さんの……」

「強いの?」

 コンちゃんは純粋に聞いてきた。


「鬼だからね。筋肉が動いている感じ」

「それ、伝説上では渡辺綱に腕を切り落とされた鬼じゃないの?」

 ブンちゃんは意外とものしりだ。


「そうなのかも。でも腕はあるよ」

「後、とんでもなく強いわ。打たれ強さが段違いって感じ。この街でなにかあった時は茨城さんに応援を頼むんじゃない?」

「そうなんだぁ……。そうなりたいね。私たちも」

「この案件なら、こいつに頼むしかないみたいな?」

「今は陰陽寮でも頼られないの?」

「木っ端も木っ端だからね。考えても見てよ。火を吹けて、影分身できるだけだよ。大道芸人への道しかない」

「そんなことないだろう。というか、大道芸だってお客を呼べなきゃ難しいからね」

「ええ? どうにか仕事を……」

「まぁ、そんな感じで、異能者界隈の情報交換をしたいのよ。美術部だったら別に何を聞かれても、美術の話にできるじゃない?」

「そうか……。異能者の学生たちの隠れ蓑か。それはいいかもね。美術室は広いし」


 そんな風に、美術室が異能者の溜まり場と化した。鬼頭さんもいるし、学外の学生も来るし、ムキムキの1年生まで所属しているという、ちょっと異様な場所になっている。

 警察のインターンと陰陽寮の若手との交流の場になり、意外と大人たちからは何も言われない。コンちゃんたちの許可も学校側で取ってくれた。鬼頭さんの交渉術だと本人たちは言っていたが、大きな街でもないので、高校が少ないというのもあるだろう。


 この時点で、この3人は通常の職業とは違う職能があると思っていた。

 コンちゃんたちを誘ったのは鬼頭さんだ。おそらく鬼頭家は何かを取りまとめるようなことが得意だ。だから実は、戦闘力なんかよりももっと、人を集めたり、先頭に立って交渉したりする仕事をしたほうがいいんじゃないか。特に異能者たちは交渉事で損をする機会も多いだろうから。


 コンちゃんは、共感性が高い。これはあまり能力と思われないことが多いが、共感というのは物事を理解できて、再現できる道筋にある。つまり、そもそも事象に対する理解力が高いことを意味している。

 とかく異能者は、異能故に理解されないことが多く、コンちゃんが繋ぎ役になったら、かなり行きやすくなる異能者も多いだろう。


 その理解力はブンちゃんにもある。ブンちゃんは陰からずっと観察しているタイプだ。影分身などを出した時の反応を必ず見ている。異能に対する反応を観察し、これをデータ収集して指標を作れたら、異能者たちが住みやすい場所、理解されやすい地区がわかってくる。異能者のコンサルタントになれるだろう。


「なに?」

「黙って私たちを見ていたでしょ?」

「え? ああ、今、異能者の分類学みたいなのを作っていてさ」

「なにそれ? 面白そう」

「学問を作るつもりか?」

「ないから作るだけだ。妄想でいいから、あると安心する異能者もいると思ってね。ブンちゃんは学問的には結構、優秀だと思うけどね」

「そう!?」

「え? 私は?」


 俺は、ノートに異能と一緒に、なかなか評価されない特性を書き出していって、3人に見せた。


「すごい。本当にケントが書いたの!?」

「見ていただろ?」

「よく、こんなことわかるね」

「性格診断とかあるけど、スキルとして異能と結びつけられると、自分でもそういう将来があると思えるわ」

 割と感心された。


「ケント、これ、もっとやりなよ。私は協力するから」

「私も!」

「ケント、これ私がいたほうが捗るでしょ?」

「そうだね」

 窓の外では夕日が山に落ちていく。


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