6 一号、二号、三号
のんびりまったり進んでいく予定
豊かな水源から溢れ出した水は川となり、いくつもの分岐を作って町に流れ込んでいる。
川沿いには、植物が群生しているかのように水車を有した建物がいくつも並ぶ。
建物ごとに特徴があるのか、速く回る水車もあれば、ものすごくゆっくり回る水車もある。
緩急ある川の流れが水車小屋の動きに色を添え、水面に反射する光が陰影を与え彩を与えていた。
「わぁ、綺麗ですねぇ」
橋の上から居並ぶ水車小屋を見て、コロナは言った。
「あそこで小麦粉も挽いてるらしいぞ」
そう言って、俺は小屋に出入りする人たちを指差す。
水車小屋の建物部分では、粉挽きが行われている。
王国内で大量に生産された小麦を小麦粉に加工しているのも、この町の産業の一つだ。
俺とコロナは小屋の前まで移動。
小屋の前では麻袋に詰められた小麦粉が積んである。
作業していた人に中も見せてもらえないか聞いてみると、あっさりと見せてもらえることになった。
中を見せてもらうと、水車の動力で上段の石臼を回転させ小麦を挽く方法だった。
部屋の中は、大きな石臼が二段に重ねられ、上段の石臼がゆっくり回っており、その上に向きの違う大きな歯車が二つ並んで規則的に回転している。歯車の一つは外の水車に繋がり、もう一つは上段の大きな石臼に繋がっていた。
大きな石臼の横には足場が組まれていて、作業者たちが石臼に向かって小麦を流し込んでいる。中央がへこんでいる臼に流し込まれた小麦は傾斜により中央へと流れ込む。
中央にある穴を通り臼の中へと落ち、臼に擦り潰され、臼の重なった部分から外周沿いに小麦粉となって吐き出される。
「ここは粗挽きの作業場だ。このあと別の場所へ持っていって精製していくんだ」
その場で作業していた中年の男性が教えてくれた。
頼まなくても説明してくれたが、観光名所になっているからだろう。
「へー、こうやって大量に小麦粉を作ってるんですね。すごーい、はやーい」
どこの村でも小麦粉は作っているけれど、これほどの規模で効率よく生産はできない。
ここまで生産力を高めるのに、相当苦労したことだろうと思う。
数多くある水車小屋を見て回り満足したコロナは、次は市場を見たいと言い出した。
商店が並ぶ市場には露店も数多く並んでいる。
異国からの商人もいるようで、この国にはない物を売っている店もあった。
並んでいる露店の商品を遠目に眺めながら、市場を進む。
コロナがとある露店を見つけた。
「ウォルフさん、スライムが売ってます」
「お、こんな露店で売ってるなんて珍しいな」
「はい、そこのお嬢さん。どうです。調教済みのスライムだよ」
丸い桶の中に大きさが小さなお椀ほどのスライムが三匹。
赤、青、黄色のスライムが一匹ずつ。
三匹とも桶の中でじっとしていて、体をプヨプヨさせている。
『鑑定』
名前:なし
種族:レッドプチスライム
性別:なし
年齢:1歳
Lv:1
スキル:炎耐性
名前:なし
種族:ブループチスライム
性別:なし
年齢:1歳
Lv:1
スキル:水・氷耐性
名前:なし
種族:イエロープチスライム
性別:なし
年齢:2歳
Lv:2
スキル:雷耐性
偽物かと思えば本物だった。
プチスライム種はどれだけ成長しても30㎝ほどしか大きくならない。
人懐っこい大人しい性質の魔物に分類される。
「主、こいつら本物だな」
「お、旦那さん目がいいね」
コロナはしゃがみ込んでレッドスライムを指でつんつんと突っつく。
レッドスライムは指でつつかれてもプルプルと体を揺らすだけ。
「うはー、何だか大人しくて可愛いですねー」
「主、こいつら売って大丈夫なのか?」
「あっしは魔物販売許可証をちゃんと国からいただいてますから。といっても、商品はこいつらだけなんですけどね。ちゃんと審査を受けてますんで安心してください」
店の主はブルースライムの近くで桶の底に手を添えると、ブルースライムがぴょんと手に乗る。
「ちゃんと可愛がってやれば、懐くんで。それに、あまり大きくならない種類のスライムなのでおすすめですぜ」
「お値段いくらでしょうか?」
「お、お嬢ちゃん買いたいのか。1匹銀貨40枚だ」
この商人、かなりのお人好しだな。
プチスライムなんて普通銀貨50枚は下らないぞ。
何か問題でもあるのか?
鑑定で見る限りは特に問題なさげだし、商人とプチスライムとの間で隷属状態にもなっていないから、プチスライムが懐いているのは天然で懐いているとみなしていい。
コロナが、俺の袖をクイクイと引っ張る。
俺はしゃがんで高さを合わせてやると、商人に聞こえないようにそっと耳打ちしてくる。
「スライム欲しいなと思うんですけど、相場が分かりません」
「はっきり言って相場より安い。金があるなら買えばいいだろ。ちゃんと面倒見るなら反対しないぞ」
俺が答えると、コロナはうんうん悩み始めた。
「あの、まけてもらうのって大丈夫ですか?」
「お、お嬢ちゃん買う気になった?」
「ちょこっと足りないのでまけてもらいたいんですけど……」
「おっと、そうきたかー。お嬢ちゃんいくら持ってるの?」
「金貨1枚と銀貨12枚それと銅貨30枚です」
俺と商人は頭を傾げる。
提示された金額に十分足りるほどコロナは持っているからだ。
「三匹とも欲しいんですけど……一匹だけだと寂しいだろうし、二匹だと残った一匹が可哀想で」
アビエル、お前いい子に育てたな。
お前を褒めてやれないのが残念だよ。
「お嬢ちゃんの優しさに免じてまけてやりたいけど、あっしも生活があるんでこれ以上は無理なんだ。既に大盤振る舞いだから勘弁してくれ」
商人は申し訳なさそうに言った。
この商人は善人なんだろうな。
「主、三匹とも売ってくれ。俺が全部出す」
「おじい――ウォルフさん?」
まだ、引きずってんのか。
絶対に認めんぞ俺は。
「主を気に入った。主がすすめたスライムならいい買い物だろう」
「ありがてえ。こいつら売れたら村に帰るつもりだったんだ」
「コロナ、お前が面倒見るんだいいな?」
「本当にいいんですか?」
「構わん。スライムはいると便利なこともあるからな」
商人に金を払い、コロナが商人からスライムの飼育方法や調教方法を教わる。
商人がスライムを入れておく籠と国が発行した調教済み魔物の証明書をコロナに手渡す。
「それじゃあ、主従関係の契約を結ぶぜ。旦那さんお嬢ちゃんが主でいいのかい?」
「ああ、それで構わん」
「ええと、コロナが名前でいいだよなお嬢ちゃん」
「はい。コロナです」
「じゃあ、赤いスライムを手の平に乗せておくれ」
コロナは言われた通り、レッドスライムを手の平に乗せる。
商人はスライムに手の平を掲げ、呪文を唱え始める。
うっすらを淡い光がスライムを覆い、手を伝わりコロナも淡い光に包まれていく。
『隷従契約』
隷属契約は魔物と主従関係を結ぶときに使う魔法だ。
主の名前と魔物の名前に契約の縛りを与え、主の魂と魔物の魂を繋ぐ。
天然の魔物にもかけようと思えばかけれるが、隷属させるためには屈服させる必要があり、強大な魔物には通用しないのがほとんどだ。
「よし、この子に名前を付けておくれ」
コロナのことだから可愛らしい名前にするだろう。
「……決めました。『一号』でお願いします」
「ちょい待て! いくらなんでもそれは可哀想だろ! 他の奴は二号、三号か?」
「何故分かったんです!?」
いや、お前のネーミングセンスおかしいから。
「……旦那さんすまねえ。登録しちまった」
「じゃあ、この子は二号でお願いします」
もう決定事項らしく、コロナは満面の笑みでブルースライムを手の平に乗せて言った。
こうして、三匹のスライムは赤が一号、青が二号、黄色が三号と名付けられた。
おいアビエル、お前どんな育て方したらこうなるんだ?
こんこんと説教したいから、マジで化けて出てこい。
市場を離れ、俺たちが次に向かったのは冒険者ギルド。
魔物を隷属した場合、ギルドに行ってカードに魔物の隷属登記をせねばならない決まりがあるからだ。今回の場合、証明書を受け取っているので手続きも簡単だ。
ちなみに、今三匹のスライムを『鑑定』した場合それぞれこう見える。
名前:一号
主人:コロナ
種族:レッドプチスライム(隷属)
性別:なし
年齢:1歳
Lv:1
スキル:炎耐性
名前:二号
主人:コロナ
種族:ブループチスライム(隷属)
性別:なし
年齢:1歳
Lv:1
スキル:水・氷耐性
名前:三号
主人:コロナ
種族:イエロープチスライム(隷属)
性別:なし
年齢:2歳
Lv:2
スキル:雷耐性
コロナが持つ籠の中には、スライム改め一号、二号、三号が収まっている。
この三匹、スライムの割には非常におとなしい。
籠の中でじっとしている。
俺の知っているスライムはどちらかというと飛び跳ねたり、動き回っているイメージがある。
スライムは常に餌を求めて動いていて、じっとしていられないというのが俺の持っているイメージだ。
一号たちは人の手によって育てられたからか、普通のスライムよりおとなしいのかもしれない。
飼うにあたって餌も必要だが、スライムは悪食なので消化できるものなら何でも食べる。
餌の量も体の大きさに比例するが、プチスライムだとたかが知れている。
一日当たりニンジン換算で3本も与えてやれば十分だ。
実際、雑草でも問題ない。
「ウォルフさん、スライム飼うときに気を付けた方がいいことあります?」
「商人から聞かなかったのか?」
「一応聞きましたけど、長生きしているウォルフさんならではの知恵もお借りしようと」
「特に……ないな」
スライムは地上のありとあらゆる環境で生息しているからな。
気にすることはないだろう。
冒険者ギルドで魔物登録を済ませ、いったん宿へ戻ることにした。
スライムたちの持ち込みは許可されたが、部屋からは出さないようにと釘を刺された。
部屋に入り、スライムたちを床に置くと、もそもそと動き出す。
ベッドにコロナが腰を掛けると、スライムたちは後を追って行こうとする。
コロナの足元にすり寄り甘えている。
コロナは三匹を順番に持ち上げて、膝の上に置く。
プルプルプヨプヨと体を震わせるスライムたち。
どうやらコロナの膝の上にいられて喜んでいるらしい。
深夜――俺の横で眠るコロナに魔法をかける。
『深睡』
「ありがとう。毎晩悪いわね」
コロナの姿をしたナナはお礼を言う。
ナナが表に出た途端、そばにいたスライムたちは慌てたように『コロナ』から離れだす。
スライムたちはベッドから飛び降り、まるで誰かを探すみたいにあっちこっち飛び跳ねる。
「この子を探してるみたい。今はかなり深くで眠っているから見つけられないのね」
「やっぱり、魂は別物ってことか」
「言ったでしょ。別だって」
――バシッ。
一号がナナに体当たりを仕掛ける。
続いて二号も三号もナナに体当たりを続けてくる。
「この子を返せって言ってるみたい」
「言って聞かせて理解できるかだな」
ナナに飛び掛かるスライムたちを捕まえる。
「いいかお前らよく聞け。この子はお前らの主人の大事な相方だ。お前らと同様に絶対にコロナを裏切らない。だから仲良くしてやってくれないか?」
多分怒っていたのだろう、プルプル震えながらもがいていたスライムたちは俺の言葉で大人しくなった。
「ナナ、水をすくうようにして両手を出せ」
「こう?」
「よし、お前らしっかり覚えろ。こいつはナナ。お前らの主の半身だ」
ナナの両手にスライムたちを乗せてやる。
先ほどの態度と違いスライムたちは大人しい。
どうやらちゃんと理解できたようだ。
スライムたちの姿にナナは微笑む。
「しかし、コロナのネーミングセンスはあれだな」
「……おかしいの? 私もコロナと同じ名前を思い浮かべてたんだけど。てっきり思考が漏れたのかと思ったわよ」
ナナよ。お前も同類か。
お読みいただきましてありがとうございます。




