第17話 竹の力
バキキキッ。
「おお、こいつはすげえ!」
「竹ってこんなに簡単に割れるのか」
『竹はイネ科の多年生植物で横方向の衝撃には強いですが、縦方向の力には弱いという特性を持っております』
まずはルナが取ってきてくれた竹を5メートル程度の長さに揃えていく。そして竹の端に石のナイフで切れ目を入れて、ルナと一緒に両側から引っ張ると斧も使わずに面白いくらい簡単に裂けていき、綺麗に半分に割ることができた。
竹を切り倒す時には横方向に何度も石斧を振ったというのに、縦方向に割る時とは全然違うな。
『あとはこちらを地面に並べれば床となります。少し凹凸がありますが、少なくとも土や石の地面で寝るよりも快適なはずです。気になるようでしたら、落ち葉などを敷き詰めたり、動物や魔物などの毛皮を敷き詰めるのもよいでしょう』
「ああ、こいつはいいな!」
5メートルくらいに切った竹を半分にして、それを地面に並べていくと立派な竹の床になった。確かに竹の丸みはあるけれど、昨日の砂浜やここの地面に寝るよりはよっぽどマシである。
アイの説明によると竹を並べることで地面と体の間に隙間ができて直接土に触れないため、風通しがよく地面の熱や湿気がこもらないらしい。
「ろ過して煮沸した水も竹筒に保存しておくことができたし、竹のコップや器もできた。確かに竹は万能素材になるんだな」
『はい。竹があるだけで生活レベルが一段階上がると言っても過言ではないでしょう』
昼過ぎに作った竹のろ過装置に川の水を通して、一番大きな貝殻で沸騰するまで加熱して煮沸消毒し、竹で作った水筒に保存しておくことができた。
今のところはお腹を壊していないようだし、明日まで体調が大丈夫なら飲み水は完全に確保できたと言ってもいいだろう。
節を残して横に割ればコップや水筒になり、縦に割れば器にもなる。小さく割った竹を削れば箸やフォークやスプーンを作ることができるし、本当に竹は万能だ。竹を見つけた時にアイがあれほど興奮していた気持ちもよく分かった。
「日も暮れてきたし、今日はもう寝るか」
「おう。さすがに今日は疲れたぜ」
「ああ、俺ももう動けん……」
気付けばすでに辺りは暗くなっている。これ以上の行動は危険なので、今日はここまでだ。
今日の行動は終わりと意識した瞬間、俺の身体が全身悲鳴をあげる。朝から筋肉痛だったこの身体を酷使したのだからそれも当然か。とはいえ、休んでいる暇はないので、明日も動いていかなければならない。
しばらくはこの筋肉痛とも付き合っていかないと駄目なようだ。
「ふう~昨日よりは涼しいし、砂浜じゃねえから今日はぐっすりと眠れそうだぜ」
「ああ、本当だ……」
ルナと一緒に竹の床に横になると同時に睡魔が襲ってくる。昨日よりも快適さが増した分、睡魔が襲ってくるのも早かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うう~ん……」
眩しい日差しがまぶたの裏を照らして目が覚めた。
早い時間に起きられるのはいいが、やはり屋根のある方が安心できる。まあ、昨日も一昨日も疲れていたため、夜中に一度も起きることなくぐっすりと眠れたが。
「うっ……」
起き上がると昨日と同様に鋭い痛みが身体中に響く。昨日に続いてだったため、そこまで大きな声を上げることはなかった。
「すぅ……すぅ……」
隣には寝息を立てて寝ているルナの姿があった。シャツとショートパンツだけの薄着なので、おっさんの俺にとってはだいぶ刺激の強い格好をしている。
『マスター、おはようございます』
「うおっ!? ……おはよう、アイ」
反対側からいきなり声をかけられて変な声が出てしまった。振り向くとそこにはメイド服姿の少女が立っていた。
そうだ、アイはホログラムモードで夜の見張りをしてくれていたんだな。……決して邪なことを考えている最中に声をかけられたから驚いたわけではないぞ。
「うう~ん……」
今の声でルナも目を覚ましてしまったようだ。どちらにせよどちらかが起きたら相手を起こすと決めていたから別によいのだが。
「ルナ、おはよう」
「おう。おっさんもルナもおはようだぜ」
『おはようございます』
さて、今日もやることは山積みだ。早速行動を起こすことにしよう。
『マスター、ルナ、こっちです』
「おっ、ここを掘ればいいんだな」
目を覚ましてから昨日の竹が生えている場所へと移動してきた。まずは朝食を確保する。
周囲に竹林が生えている中、アイが地面を指差す。
「確かに土の下に埋まっているみたいだ」
『タケノコは夜の間に親竹から十分に養分・水分を吸い上げ、朝を待って成長するので、朝掘ったタケノコは香りが素晴らしく、味も一段階上です。さらに地上へまだ出ていないタケノコのほうがアクや苦みが少ないので生のまま食べることが可能となります』
竹は素材となるだけでなく、タケノコを食べることができるのだから本当にすばらしい。




