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ショートショート11月~

ものいい

作者: たかさば

夕方五時を迎えようとする頃、薄暗くなった風景にはっと我にかえって、草ぼうぼうの庭からウッドデッキを抜け、リビングに入った私。

今日は昼過ぎからずーっと草刈りをね、してたのさ。


「ねえねえ!そこのかゆいかゆい取り除きマシンとって!!」


ソファでゲームをしている娘に声をかけると。


「へいへい。」


娘はポンと、小さな塗り薬を放ってくれた。


…この場合、虫刺されの薬取ってでいいはずなのだけどもっ!


実はですね、この私、どうにもこうにも、おかしな物言いをする癖があるのでございます。

なんていうか、モノの名前をね、そのまま呼ぶのってさ、つまんないっていうかさあ。


手渡された塗り薬を向う脛にぬりぬり…うう、染みる!!


「そういえばさ、猫集め機壊れちゃったから、新しいの欲しい!!」

「ああー、あした買ってくる。」


この場合、猫じゃらしの事なのだな、うん。

娘もすっかり私のものいいに毒されていたりする。

…およそ二十年も一緒に暮らしてるんだ、そりゃあ私の癖も移ろうて。


春にうちに来た猫がさあ、やんちゃが過ぎるんですよ。部屋中を縦横無尽に駆け巡り、リビングの床を食い千切り!!!フローリングの部屋に行かせたいのにね、隙を見つけてはリビングに忍び込んでくるので、猫集め機を駆使してフローリング部屋にいつも誘導してるんだよ。


「ちょっと!主食製造マシンセット誰かやっといてくれた?!」

「した。」


料理についてやけにこだわるというか、気の利く息子が返事をする。彼はまだ私のものいいに毒されてはいない、しかしこちらの言う言葉はきっちり理解しているのだ!!なんという素晴らしい!…この子もいずれ毒される日がやってくるというのか。


昨日うっかり米炊くの忘れちゃってさあ!!まさかの急遽すき焼きうどんになっちゃったのさ!!!すき焼きを白いご飯無しで食べるなど!!言語道断!!いや、まあ、美味かったんだけどねって、昨日の夕方はさ、いきなり旦那が神社の枯れ葉掃除に呼ばれてさ!!!てんてこ舞いしたからいけなかったんだってば!!!


…まあいいわ!過ぎた事はすぐ忘れよう、じゃあ、晩御飯作るか。


「餃子作りたい。」

「キャベツないからネギ餃子になるけど、いい?」


「はい。」


ひき肉にネギをたっぷり入れて、刻みにんにくにラー油、しょうゆに塩コショウ、みりんちょっとに生姜…。全部まとめてビニール袋に入れて、袋ごとねりねり。こうすると洗い物が少なくて楽なのですよ。


「餃子の皮ー皮ー、って、あれ、なんか少ないな、どういうことだ。」


うちはやけに餃子を作りがちな家なので、餃子の皮を常備していたりする。いえね、チーズ入れて焼いておつまみにするとかね、チーズとピーマンとケチャップ乗っけて焼いてミニピザとかね、中華コーンスープにそのまま入れてワンタン風にしたりね?


「ゴメン!!昨日の夜中におなかすいたから焼いてチョコとバナナ乗っけて食べちゃった!!!」

「ハア?!ちょ、この餃子の中身どうすんだ!!!」


「肉団子にして食べよう。」


…やけに融通の利く息子の提案で、餃子は肉団子へと華麗に変身を遂げることとなった。


「じゃあ、肉団子あげあげマシンに油入れて温めるから、丸くした団子を投入してってくれる?」

「はい。」


ちょっと深めのフライパンに油を多めに入れて、火をつけて。

私はスープと海苔サラダその他もろもろの作成に取り掛かりましてよ。


「海苔ちょきちょきマシンがない!!」

「昨日お父さんがするめ切ってたの見たよ!!!」


なーにー!!あいつはいつもキッチンバサミを使ってはあちらこちらにほったらかしでええええええ!!!


「あった。」


肉団子を丸め終わって手を洗った息子が、私にキッチンバサミを差し出した。


「ありがと!!どこにあった?もーあいつの肉団子にタカノツメ埋め込んだろか…!!!」


駄目だ!そんなことしても辛いもの大好きな人に罰になるとはとても思えん!!!

なんかお仕置きになる事をしてやろうと画策しつつ、調理に勤しむ。


「もうじきご飯炊けるよ、ちょっと!!テーブルの上机ぴかぴかハイパーふきふきで磨いといて!!!」

「はいよー!」


新しいふきんをぬらして絞って、娘がテーブルの上を拭き上げる。


「よし、晩御飯できた!運ぶよ~。」

「はい。」


テーブルの上に並ぶは、餃子味の肉団子に卵とコーンのスープ、海苔サラダにピーマンの味噌炒め、キュウリのザーサイ和えに冷やしトマト。


ぴー、ぴっぴー!!


おお、ご飯もちょうど炊けたぞ。


「おーい!ご飯もりもりいれと、ご飯もりもりぺんぺんマシンセット、用意!!」

「らじゃー!!」

「はい。」


茶碗がひとつと、どんぶりが三つ、しゃもじとしゃもじ置きを娘と息子が持ってくる。


手際よく、炊き立てのご飯がどんぶりの中に盛り付けられて・・・ぺんぺん。

娘は大盛り、息子は中盛り。私は茶碗に小盛り。…子供達めっちゃ食うんだよ。完全に負けている。負けて良いの、勝つほど食べたら肉が余分に付いてしまう!


「ただいまー!!!おお!!お父さんもご飯食べるー!!!」

「まずは手を洗う!汚れた服を脱ぐ!!つまみ食いすんな!!」


飯食い散らかしの権化がご帰宅だよ!!!

これは急いで食卓につかねば、自分のおかずが危ない!!!


旦那が手を洗っている隙にさっさと食卓につき、取りざらに自分の食べる分を確保しボウルを被せる!!


「わーい!!いただきまーす!!!」

「いただきまーす!!!」

「いただきます。」


私はお茶の準備をしようとキッチンへ。

…冷たい麦茶を持ってテーブルに行くと!!!


「何でボウルで飯食ってんだ!!!!!!」

「だってたくさん食べたいからさあ!いいもんあるって思って使わせてもらったー!」


旦那が!!私のおかずに被せておいたボウルを使って山盛りのご飯を盛り付けてバックバックとおおおおおおおおお!!!!


しかも隠してあったおかずがない!!!!


「何でわざわざ皿に取り分けてあるやつから食うんだ!!!!」

「だって熱々だったんだもん!はふはふ!!冷めてるのから食べたいじゃん!!あち、あち!!」


「熱々のも口いっぱい頬張ってるやつが何を言うかっ!!!!」


相変わらずの食い散らかしに、バキュームっぷりに…完敗だよ!!!

もう何をどうしたって、自分の作った自分好みのおいしいご飯をたらふく食べるイメージが…湧いてこない!!!


私は手早く晩御飯を済ませると、お茶をごくりと飲み干して、立ち上がった。


「食べ終わったら、食器自動で洗い上げる機に入れといて…。」

「なにそれ!!!食器洗い機でしょ!!!」


旦那はさあ、ずいぶん長いこと一緒にいるけどさあ、一向に私のおかしなものいいに乗っかってこないんだよね。

ああ、血のつながりがないということは、こういうことか。


「じゃあ、私はぬくぬく場に行ってくるので、あとはよろしく。」

「ぬくぬく場って!お風呂でしょ!」


私はげっそりつつ…腹六分目の状態で、お風呂場に向かったのであった…。

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白いものいいですね。ユニークです。 餃子の皮で作る小さいピザはいいですよね。だいたい皮が余るんですよねー。なんでだろうか。
[良い点] ・『草ぼうぼうの庭』←ベスト描写賞 ・「おーい!ご飯もりもりいれと、ご飯もりもりぺんぺんマシンセット、用意!!」 ここ何故かビビッときました [気になる点] なーにー!!あいつはいつも…
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