157-1.レディになるため?
お待たせ致しましたー
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ドレスの裾を掴んで、深々とお辞儀。
顔が地面につくかつかないか。そんなとこまで腰を曲げて。
だけど、美しく、見せなくてはいけない。
この重要ポイントを抑えて、頑張ってはみているんだけど。
「はい、もう一回」
メイミーさんに却下と言われてしまったので、私はへなへなと絨毯の上に座り込んでしまった。
「……うう」
「もうちょっともうちょっと。優雅に可憐に、よ? 形は出来てきたけど、まだ自然にとは言い難いわ」
「……頑張ります」
誕生日パーティーから、式典に近づくにつれ。メイミーさんのご指導がどんどんスパルタになっている気がする……。
そりゃ、孤児が国王陛下の前で挨拶するんだもの。中途半端なマナーだけで披露するわけにはいかない。
せっかく、体が筋肉痛に慣れてきたとこなのに、また逆戻り。
あと四日に迫ってきたので、メイミーさん達も必死なのだろう。
終わってから、レクター先生に治療していただいている時は、先生に苦笑いされちゃったけど。
「お疲れ様」
「うう……うう。本当に、当日大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だと思うよ? だから、姉さんも必死なんだよ。君を出来るだけ完璧なレディに仕上げたいんじゃない?」
「でも……勲章を受け取ったからって。私孤児だったのに」
「こらこら。その勲章を与えてくださったのが陛下なんだから」
「……はい」
たしかに、陛下のご意向に私なんかが逆らえるわけがない。
ないけど……異能があるだけの私なんかに、そこまで優遇させていただいているのは。多分、『パン作り』のお陰だと思う。
あの時、崖から落ちて。前世の記憶を蘇らせなきゃ、それは出来なかった。
冒険者じゃなくて、全然違う生活をしていたかもしれない。今もだけど、今の生活に私は満足しているのだ。
「とりあえず、あとちょっとだよ? 素敵なレディになって、貴族達を驚かせようじゃないか?」
「え、え〜……?」
「な・る・の。とりあえず、午後は仕事に戻るんでしょう?」
「……はい。ゴマを使ったパンを作ろうかと」
「楽しみにしてるね?」
「はい」
痛みが完全に消えてから、コックスーツに着替える時。
首に、カイルキア様からいただいたクローバーのネックレスをつけて。鏡を見てにやけてから、ネックレスを服の下に入れて。
ロティと一緒に、厨房に向かうことにしたのだった。
次回は水曜日〜




