148-5.苦悩(カイルキア視点)
お待たせ致しましたー
*・*・*(カイルキア視点)
良かった。
姫が、大事なくて良かった。
だが、ひとつ気になったのが。
「何故、俺が抱きついたのに。記憶が書き換えられていないんだ……?」
これまでは、愛の告白の度に、姫に真実を告げようとした時には、神によってなかったことにされていた。
なのに、今回は抱きつきに行っただけだからか。何も起きなかった。神の基準とやらがよくわからない。
「……姫」
レベルアップの反動とは言え、姫にはその間の記憶がおそらくない。
はじめの頃のことも……、俺達ですらおぼろげにされているのだ。
当事者である姫の場合、何も覚えていないだろう。
神は、彼女をどうしたいのだ?
「カイル」
執務室に戻る手前で、レクターに呼び止められた。
余程酷い顔をしていたのか、駆け寄ってきたレクターの表情は心配そうに見えた。
「……姫は起きた」
「……そう。けど、君酷い顔だよ?」
「…………姫は。意識を失っていた間のことを、何も覚えていなかった」
「……今回もか」
「俺の判断だが、今日と明日は休ませることにした」
「賢明だね? 僕でも同じ事を言うところだったよ」
とりあえず、執務室に入ると。
起きた時の彼女への対応を言ってしまったら。
レクターは紅茶でむせてしまった。
「……そんな変なことか?」
「いや……君も大胆になったなって」
「……何故。今回に限って神は何もしてこないのか」
「んー? 僕も実際に見てないからわかんないけど。でも、いい傾向じゃない?」
「傾向?」
「姫様が、ご自分の出自とかを知る日まで近いんだ。神も全部は全部忘れさせないようにしてるんじゃない?」
「……色々矛盾があるが」
「まあね? とりあえず、姫様のとこに行ってくるよ。仕事は少し休んだら?」
「……魔法医としてか?」
「うん。そんな顔で仕事しても多分進まないでしょ?」
と言って、行ってしまったレクターが言うように。
俺は手にまだ感触が残った姫の温もりを思い出して。
悶々としてしまい、たしかに仕事にならず。
また、姫が戻って来る前の時のように、中庭で素振りをするしか出来なかった。
(……こんなことしか出来ない、俺は)
どうしようもない、大馬鹿者だ。
物心ついてから、ずっと姫一筋だったせいもあってか。女の扱いもよくわかっていなかった。
冒険者として、各地を回りながら姫を探していた頃も。
引退して、幾度かだが社交界にも顔を出したが、心が震えるほどの女などいなかった。
だから、姫は。
伯母上と瓜二つなのもあるが、あれほど気立のいい女性は今までいなかった。
パーティーでカレリアは在籍していても、あれはフィーガス一筋だったからな?
とにかく、姫も俺を想っていると知っている今。
伝えたい、のに伝えられない状態を歯がゆく思うしか出来なかった。
次回はまた明日〜




